(81)飛ばされた三人(3)
眷属にした魔獣達が暴れまわっているので、周囲に大きな影響……振動や音が発生している状況になっている。
「これであの三人も助けが来ていると分かって貰えるかもしれないから、丁度良い!急ぐぞ!!」
眷属が始末しそこなって弱っている魔獣も新たに眷属に加えているので、敵は増えている中でも徐々に速度を上げ続けるジニアス。
「まて!貴様ら良くここまで……ひっ」
何やらブレイドと同族と思われる、人言を操る魔物が出てきた。
それなりに強者の様で、ジニアスがすかさず鑑定するとレベル10の攻撃系統を持っていたのだが、ブレイドを見て途端に怯える。
「な、何故暴虐のブレイドが生きている?まさか、虐殺のネルまで生きているのか?」
『自分を知っているようだな。だが、お前が誰であろうが関係ない。それと、ネルをそのように本人の前で呼んでみろ。永遠に苦しむ地獄に送られるぞ』
この会話だけで、何故か泡を吹いて倒れる魔物……哀れ、何もする事なく他の魔獣と共に一気に灰にさせられていた。
「ブレイド……ネルの呼ばれ方、酷くないか?」
『……ジニアス様、本人も非常に気にしているのです。ネルには絶対に言わないで頂けると……』
こんなやり取りがなされつつも、漸く目的の階層に到着する二人。
「こっちだ」
この階層に到着する前から補足している為、迷う事なく一気に旬滅しながら突き進む二人。
『ジニアス様、そろそろ攻撃力を抑えなければ、お三方迄消し炭にしかねません』
「おっと、そうか。ありがとうブレイド。危なかった!助けに来て俺がこの手で……なんて、一生悔やんでも悔やみきれなかった」
魔術による攻撃を止め、レベル10による身体強化だけで周囲の魔獣を始末し続けるジニアスとブレイド。
「見えた!三人とも無事だ」
『間に合いましたね』
その視線の先には、一瞬嬉しそうにするも……その後相当驚いた顔で固まっている三人が見えていた。
「よっし、到着。お待たせしました皆さん。よく無事に今迄耐えられましたね!」
周囲の魔獣を一掃し、悠々と膜の中に入り込んで来るジニアス。
通常外部からの侵入を拒むこの防御膜も、レベル10のジニアスが膜に触れた途端に破壊された。
この周囲に生息していた魔獣達はかなり昔に膜を破壊せんと長期間暴れた時もあったのだが、何をどうしても破壊できずに完全に諦めたので、ソフィア達がこの場に転送されても唯の一体も膜に対して攻撃を仕掛ける素振りすら見せなかった。
今は膜が壊れても周囲に身の危険を及ぼす魔獣は存在しないのだが、今迄唯一の心の支えであった膜が消えた瞬間に、三人の表情が曇った事を見逃さないブレイド。
『ジニアス様。安全ではあるのですが、見た目で安心できるように防御魔術を行使します』
すかさず、今まであった膜とは比べ物にならない程神々しくも力強い膜を作成して見せると、三人の表情が柔らかくなった事を確認する。
「ブレイド、ありがとう。俺では気が付かなかったよ。で、皆さんはとりあえず、水と食料です。とうぞ」
操作系統による収納術で常備している水・食料を出して三人に勧めるジニアス。
気丈に振舞っていても、やはりこの状況に長時間置かれていた三人の女性は安堵からか泣きながら水や食事を摂っている。
ある程度落ち着いた頃を見計らって、ジニアスはこう提案した。
「皆さん、相当お疲れでしょう。ゆっくり休んでください。俺とブレイドがお守りしますので、どうぞご安心を」
ジニアスとしては、三人が寝ている間にレベル10で生物も収納できる収納魔法で収納して上層階を目指そうと思っていた。
その目でジニアスとその眷属であるブレイドの強さを見た三人は、緊張の糸が切れたように一気に意識を飛ばす。
「よし。じゃあ行こうか。休憩なしで悪いね、ブレイド」
『全く問題ございません。ですが、この眷属は如何致しますか?』
防御魔術を外した先には、周囲を警戒するようにしているレベル9の魔獣が数体存在している。
「う~ん、全部連れて行くと色々面倒だしな。スミナ、アズロンさん、フローラさんの護衛、それと、一応ヒューレットさんも操作系統だったはずだから、余計な事かもしれないけどお礼を兼ねて一体……四体だけ連れ帰って後は解放しよう」
『ジニアス様。護衛と言う事であれば、レンファ様は如何なさいますか?』
「あ、そうだった……」
レベル9の霞狐五体以外は解放した上で、共に上層階に足を向ける二人。
この霞狐五体を収納せずに共に行動しているのは、上層階に向かう道中で魔獣が再発生しており、少しでも楽をしたいと言う思いからだ。
周囲には同等の力を持つ魔獣がいるのだが、ジニアスの補助術によって強化されている霞狐の敵ではなく、ブレイドやジニアスの攻撃もあって相当楽にダンジョンを出る事が出来ていた。
「ふぁ~、ただいま、スミナ。何とか間に合ったよ!」
ダンジョンから出た後の道中で霞狐五体を別行動として森の深くに向かわせたジニアスとブレイドは、スミナとネルの元に戻る。
ネルによって気配を察知されており、スミナはジニアスの無事な帰りを事前に把握していたようで、嬉しそうに出迎えてくれていた。
「とりあえず、三人はまだ眠っているから……っと、そこで良さそうだね」
客間にはフカフカの布団が準備されており、そこに未だ寝ている三人をそのまま出すジニアスだった。




