(8)公爵家の三人(2)
公爵家の三人の視線が痛いので、敢えて少しそっけなく答えておこう。
「えっと、僕は特に決めていません」
「も~、またかしこまって。普段ジニアス君はそんな話し方じゃないでしょう?」
少し膨れた表情で、優しく俺に詰め寄るスミナ。
まずいだろ!そんな表情で俺に迫ったら、あの三人……いや、クラスの他の男連中に恨まれる。
スミナの言いたい事は、スミナは俺が帰り道に買い物をしている所を偶然見かけたらしく普段の俺の姿を知っているので、自分にも同じような話し方、態度で接しろと言っているのだ。
本当に厄介だ。
「そうは言いましても、立場が違いますから勘弁してください」
何とか穏便にやり過ごそうとしている俺だが、スミナには通じない。
「む~、仕方がないな~。じゃあ、私と一緒に……」
「お~いスミナ、そんな奴と話すよりこっちに来いよ」
ホラ来た。
あの三人の中でも最も立場が強いヒムロが叫んでいる。
散々自分達の大声での無駄な自慢話に関心を示さなかったスミナに、業を煮やして直接話しかけたのだ。
まっ、あいつらの話は本当に何も面白くもない自分自慢だけだから、普通の感性を持つ者からしてみれば、むしろ聞きたくない話になっていると思うんだがな。
それを周囲の連中が無駄に褒め称えるから、更に調子に乗っているんだ。
流石に上位貴族の嫡男を無視するわけには行かないスミナは、悲しそうな表情をして俺にだけ見えるように声を出さずに口を動かした。
『ごねんね』
悲しそうな表情をしながらこの場を去っていくスミナ。
一方のヒムロ達は、いつもの通り聞こえるように俺の悪口を言っている。
「へっ、あんな平民如きが勘違いするなよな」
「そうそう、スミナがあんな奴に話しかけるからつけあがるんですよ?」
「そう言うな。今の一人ボッチのあいつの姿を見れば、多少留飲は下がるだろう?」
一切つけあがったつもりもなければ、勘違いもしていない。
とは言え、相変わらず俺は両手の痣に意識を持って行く必要があるので、何も話す事はできない。
そして、その姿を見たあいつらが更に楽しそうに悪口を言ういつものループに入る。
教師は何も見ていないふりをしているし、スミナは悔しそうに下を向いている。
正直こうなる事は目に見えているのだから、スミナも俺なんかに話しかけなければ良いのに……とは思うが、本当のところはあれだけ可愛い子が屈託のない笑顔で話しかけてくれるのは相当嬉しい。
数少ない癒しになっているのは事実で、俺も男だからこればかりは仕方がないだろう。
後が面倒くさいけど……
そんな中、俺は強引に球当てと言う競技に押し込められた。
はっきり言って希望を聞かれてもいないし、自分で望んでもいないが、このクラスでは良くある事だ。
あの三人が、自分達の都合の良い様に設定しているからだ。
それも極力俺を痛めつけつつ、自分達が目立てるような方向に。
その球当て、動ける領域を制限された二つの陣地の中で、相手の陣地にいる者達に対してひたすら球を投げつけて当てると言う球技だ。
もちろんあの三人もこの競技にエントリーしている。
考えなくてもわかるが、普段スミナに話しかけられている俺を公衆の面前で痛めつけたいのだろう。
あの三人の力ははっきり言って別格だ。青い卵の能力を得ているのだから当然なのだが、その力を使って俺を晒し者にするのだろう。
どうするか……あいつらの全力で投げた球に当たれば、普通の人であれば大怪我では済まない可能性が高い。
だが、あいつらはそんな事はお構いなしに全力で投げてくるだろうな。
なんと言っても相手が俺だから。
教師は相変わらず期待できないし、回復薬のポーションでも準備しておくか?
俺が買える安物のポーションで治る怪我であれば良いけど……
そう思い、学園が終了した後に帰宅途中にある何時も俺が利用する店に向かったのだが、あいつらは俺が懇意にしている店のポーションをいつの間にか買い占めていたらしく、購入する事はできなかった。
「おいジニアス、お前、なんでこんな店に来ているんだ?」