(72)留学生(3)
断言されてしまっては、異国の地であるヨルダン帝国でこれ以上の情報を得る事は出来ないと考えたソフィア一行なのだが、どうしても何かが引っかかっている。
レベル1確定の斑の卵による能力であるならば、鑑定を妨害するような行動を取る必要はないのではないか?
そもそもそんなレベルで妨害が出来るはずもないのだが、そこは眷属になっている二体の魔物による妨害なのだろうと思えなくもない。
しかし不測の事態に備えるのであれば、逆に敵を油断させるためにレベル1というありのままの状態を曝け出して、何かが大きく動いた段階で眷属を出せばよいのではないか?と考えたのだ。
まさかジニアス自身がレベル10の五力であるとは夢にも思ってもいない事から、推理はあらぬ方向に進んで行く。
実はヒムロ、父であるダイマール公爵からジニアスに対する推論を聞いていた。
先ずは斑の卵のレベル1についてだが、恐らく事前に異なる色の卵の力を得ていたであろう事、そして二体の魔物の力や鑑定を誤魔化している力を考えるに、操作系統と回復系統の力を持っているのは間違いないだろうという事だ。
しかしヒムロは、そのような話を認める事は出来なかった。
そもそも斑の卵を孵化させる前に健康診断と称して血液を抜いたのだが、その時点でもジニアスは何の力も持っていない事は鑑定済みだったのだ。
今回のように鑑定不能ではなく、明らかに能力なしの結果が出ていた。
その時点で能力がないと誤認させる力を使っていたと言われればそれまでだが、ジニアスの態度からそれはないと確信していた。
同じくソフィアを始めとした三人の留学生も色々な考えが頭を駆け抜けてはいたのだが、結局はダイマール公爵と同じ結論に達してしまったのだ。
斑の卵が孵化する前に、他の卵を孵化させて能力を得ていたのだ……と。
この世界の常識では、斑の卵を孵化させて得た能力がレベル8の鑑定を偽る事は不可能なのだから……
その結果、俄然ジニアスに興味がわいたソフィア達。
ヒムロの話を聞く限り、ジニアスと共に行動していたスミナの家はあのヒューレットパーティーが専属契約を結んだアズロン男爵家だと言うのだから、二人に興味がわくのは当然の流れだ。
その後は、あの手この手で食事に誘ってくる三人の公爵家嫡男を歯牙にもかけずに午後の授業を受けた後に高級宿に帰る。
「ソフィア、私は俄然ジニアス君に興味が湧いた。鑑定できない時点で興味をそそられたけど、二体の魔物も相当らしいじゃない?」
「私は、あのヒューレット様が専属契約をしたアズロン男爵家のスミナ嬢が気になるな。ジニアス君とスミナ嬢、その二人が共に行動をしている。だが、スミナ嬢は今の所無力。そこから考えると、ひょっとすると、ジニアス君と同じような力を与える所が見られるかもしれねーな」
「そうですね。恐らくヒューレット様達が高レベルの卵を準備したのでしょう。今はその卵をスミナさんの為に探している所……で間違いないでしょうね」
すっかりヒューレット達が力を与えたものだと考えているソフィア一行。
「だとすると、黄金の卵や、運が良ければ初めて虹の卵が見られるかもしれねーのか?」
三人の留学生のレベルは揃って8。つまり、白色の卵を孵化させていた。
国家の重要人物が得た卵が白の卵である事から、それ以上の卵は中々見る事が出来ないのは理解できるだろう。
そのために今回初めて黄金や、伝説とも言われる虹の卵が見られるかもしれないと興奮していた。
全くもってそのような事は無いのだが……興奮冷めやらぬまま、翌日の授業が開始される。
「ジニアス君。なんだかあの三人の視線が痛くない?」
「確かに。俺達、何か余計な事をしたかな?」
留学期間は一週間と短い期間である以上、早めにジニアス達と接触して真実を明らかにし、場合によってはヒューレットが持ってくる(と思っている)高級な卵をその目で見てみたいと思っている三人は、無意識のうちにジニアスとスミナを穴が開く程見つめてしまっていた。
「チッ。相変わらずあの平民か。今に見ていろよ!」
公にジニアスを否定する事ができないヒムロ達は、三人の視線の先がジニアスであると確認すると小声で恨み事を吐いている。
その日の昼休み……周囲に押し寄せるヒムロを始めとしたクラスメイトを押しのけて、ソフィア達は急ぎジニアスの元に向かった。
「ジニアスさん、そしてスミナさん。少しお話いたしませんか?」
身分を明らかにはしていないが王族特有の高貴さを醸し出しているので、男爵令嬢のスミナと平民のジニアスでは抗う術を持ち合わせてはいなかった。




