(71)留学生(2)
突然話しかけられたヒムロは、鼻の下を伸ばして得意げに話す。
「は、はいっ、あいつらはジニアスとスミナと言います。片や平民の男、そしてもう一方は男爵令嬢です」
会話とも言えない会話の後は、ヒムロ達の必死のアピールを無視する形で三人の留学生は情報交換をしていた。
王女であるソフィアの力は操作系統、侯爵令嬢イリスの力は攻撃系統、同じく侯爵令嬢であるラビリアの力は回復系統のレベル8だ。
そのため、唯一鑑定術が使えるラビリアが得た情報共有を行う事にしていた。
決してこの学園の力を見下したり、ヨルダン帝国の不利になるような考えをしたりする訳ではなく、単純にどの程度の力を持っているのか把握したかっただけなのだが……
「それで、どうだったのですか、ラビリア?」
「そうね、こっちに群がってきた公爵嫡男と自慢していた三人は全員レベル7。他は未だ能力なしね。それと、悔しい事にあのジニアスと言う人だけは鑑定できなかったわ」
「はぁ?お前が鑑定できなかったのかよ、ラビリア?」
この三人、立場は違っても幼馴染であり、普段からこのような会話を繰り広げている。
「落ち着いて下さい、イリス。でも、確かにラビリアが鑑定できないとなると相当ですね。最低でも熟練の同レベルであるレベル8かそれ以上。フフフ、ヨルダン帝国にもしっかりと逸材がいるではないですか」
「でもおかしいだろう?ジニアスと言う男は平民だと言っていた。爵位がある奴よりも早く卵が貰える訳はないだろう?」
チャリト学園が公に謳っているように平等に卵を配っている訳はないと言う確信からイリスが核心を突いたので、明確な回答を持っていない三人は黙ってしまう。
「じゃあ、あの公爵家の三人に聞こうかしら?」
結局はラビリアの提案によって授業が終わった後にジニアスの情報を得る事にした三人は、再び教室に戻り授業を受ける。
しかしレベル8で鑑定できないと言う事実を突きつけられた以上、どうしても視線がジニアスに行ってしまうのは仕方がないだろう。
その視線を見て、ヒムロ、レグザ、ビルマスは、何故留学生の三人もジニアスに気があるような素振りを見せるのか納得できなかったのだが、放課後になって突然自分達に話しかけてきた三人に対して頬をだらしなく緩めており、ヒムロに至っては、スミナの事をすっかり忘れている程だ。
しかし目の前にいる美しい女性であるソフィアは、ヒムロの期待を完全に裏切るような事を口にした。
そう、ジニアスの情報を寄越せと言う内容だ。
「それで、ヒムロさん。あのジニアスさんと言うお方は、どのようなお方なのでしょうか?」
見惚れる様な美貌と高貴な雰囲気を醸し出しているシラバス王国からの留学生であるソフィアを前に、筆頭公爵嫡男のヒムロはしばし口を噤んでいた。
目の前の女性から、自分や学園の事ではなく最も不快な名前が出てきたからだ。
しかし、ここで大きな器を見せる必要があると思い、何とか表情を取り繕い会話を続ける。
目の前のソフィアだけではなくイリスとラビリアも美しい女性だったから、何とか良い所を見せたかったのだ。
そのせいか、初めてソフィアに話しかけられた時とは違っていつもの尊大な態度に戻っている。
当然周囲にジニアスがいない事を把握しているが故の行動だ。
「あのジニアスか。あいつは平民で、斑の卵の力を得ている五力だ。だが、あいつは汚い手を使って魔物を二体も使役している。そいつが化け物じみた強さだ。ヒューレットのような、いや、恐らくヒューレットで間違いないだろうが、高レベルの操作系統の能力者によって与えられた魔物だろう」
留学生三人は、一気に話されたヒムロからの情報を必死で整理しようとしていた。
そもそも斑の卵であれば、全世界共通認識でそのレベルは例外なくレベル1。
その流れで、やけくそになって全ての系統の力を得ようとして五力になるのも一般的な行動。
そうなると鑑定できないと言う謎は残るのだが、操作系統の力で制御されている魔物を譲り受けたと言うヒムロの推論が正しいのだろうと考える。
だがソフィア達ですら知っており、そう易々とお近づきになれない程の立場であるヒューレットパーティー、そのリーダーであるヒューレットから魔物を融通してもらえる平民と言うのがどうしても納得できなかったのだ。
「ヒムロさん、そのジニアスさんと言うお方はヒューレット様の血縁の方なのでしょうか?」
当然こう言った疑いは出て来る。
ヒムロも公爵家の力を使って、ジニアスの眷属であるブレイドを見た直後からジニアスの身辺調査を必死で行わせていたのだが、結果は全て白。
ただの平民で、何のコネも伝手もない平凡な一人だったのだ。
「いや。ヒューレットとの繋がりどころか、底辺冒険者とすら繋がりの無いただの平民だ。どうやってヒューレットから魔物を仕入れたかは知らないが、どうせ汚い手を使ったに違いない」
吐き捨てるように言い切るヒムロだ。




