(70)留学生(1)
再びジニアスとスミナ、そしてヒムロ、レグザ、ビルマスが通うチャリト学園。
相変わらず教室は静まり返っている中での授業になっている。
ジニアスが少しだけ本気を出した時の影響が未だに残っているので、三大公爵の嫡男三人も非常に大人しい。
「今日は皆さんにお知らせがあります。ダイマール公爵家のお力で、隣国であるシラバス王国との交流会が行われる事になりました」
このクラスの担任であるロンドルの宣言により、クラス中の視線がダイマール公爵の嫡男であるヒムロに向けられる。
「確かに、シラバス王国との交流を深める話はあった」
簡潔に一言だけ言うと、それ以上は口を噤むヒムロ。
本来はヒューレット一行が受けた話であり、その後にダイマール公爵、そして最終的にはアズロン男爵がその栄誉ある任を受けるはずだった。
しかし貴族間のやり取りで半ば強制的にアズロン男爵からその任を奪い取っているのだから、ジニアスのいるこの場では大人しくする方が良いと判断しての行動だ。
「スミナ。この件、アズロンさんは何か言っている?」
「ううん、別にこれと言って……領地の復興が重要だから、かえって良かったみたい」
当事者であるアズロン男爵側に不満がなさそうなのを確認したジニアスは、この場では特に何か言う事は無かった。
ダイマール公爵は詳細については国王からの命令もあって秘匿しているので、息子のヒムロも大した情報は持っていなかった事も有って大人しいまま。
「それで、皆さんと同じような学園の生徒、全て卵の力を得ている生徒達がこのヨルダン帝国のチャリト学園に来る事になっています。そして、その交流の対象はこのクラスに決定しました!」
流石に学園始まって以来の他国の学生との交流とあって、クラスが湧きたつ。
「シラバス王国……全員能力持ちか~」
「はんっ、全く問題ないぜ。この俺はレベル7の攻撃系統だからな。それに、同じレベル7のレグザやビルマスもいる。舐められる事だけはないはずだ」
高揚したのかヒムロも久しぶりに以前の自信満々な態度を見せているのだが、そのクラスの様子を一歩引いた状態で見ているジニアスとスミナ。
「スミナ、これからはアズロンさんの領地の件もあるし、忙しくなるだろ?俺達は少し大人しくしておいた方が良いような気がしない?」
「そうね。こんなところで変なトラブルに巻き込まれたくないし、ジニアス君の言う通りに大人しくしようっと」
スミナはすっかりジニアスに慣れており、ジニアスもスミナに完全に心を許している。
少々嫉妬の視線をヒムロ方面から感じるが、最早何も感じる事は無くなっていた。
そんな二人はこの話に一切加わる事が無く大人しくしているので、余計な緊張から解放されたのか、久しぶりにクラス中が更に湧きたつ。
「来週には三人と少ない人数ではありますが、シラバス王国の学園の生徒が留学生として来ますので仲良くしてください。凡そ一週間の滞在予定になります」
こうして日常は過ぎていく中で、アズロン男爵はヒューレット一行と共に領地に戻り、何とか再興すべく奔走している。
いつの間にか帝都のアズロン男爵の館には、護衛の意味も含めてジニアスが居候する形になっている。ついでに?母親のレンファも、だ。
当初は緊張していたジニアスとレンファもすっかり慣れたようで、緊張する事なく生活する事が出来ている。
……そしていよいよ、シラバス王国からの三人を受け入れる日がやってきた。
「私、シラバス王国のソフィアと申します。横にいるのが順にイリス、ラビリアです。短い期間ですが、皆様どうぞよろしくお願いいたします」
男女問わず三人に見惚れている中で授業は始まり、昼になる。
当然三人に群がるクラスの面々。
特にヒムロ達三人がそれぞれの留学生に必死で自分をアピールしており、その周辺を有象無象が囲っている形だ。
三か所にクラス中が群がっている中、ジニアスとスミナはその様子を興味なさそうに一瞥すると、さっさと教室を出て行ってしまった。
単純に昼を食べに行っただけなのだが、実は留学生の三人は自分達に興味を示さないイニアスとスミナに視線を送っていた。
安全上の事もあってこのクラスの担任であるロンドルのみに知らされていたのだが、実はこの三人、シラバス王国の王女と侯爵令嬢なのだが、当然他言無用と指示が出ていたので生徒達には一切身分を公開していない。
三人の留学生としては、何も後ろ盾のない生徒として他国のありのままの状態を知りたかった事も有る。
国に戻ればお忍び以外は何処へ行ってもその美貌と強さから、即人だかりが出来る三人。
その状況に慣れている為、自分達の身分を知らないとしても何の興味も示さずにさっさと教室を出て行った二人が気になっており……そこから容易に想像できるが、残念ながら少々面倒くさい性格をしていた。
「えっと、あなた。ヒムロさんとおっしゃったかしら?先程この教室を出て行った方のお名前は何と言うのでしょうか?」




