(7)公爵家の三人(1)
来年が卒業年度である今この時点で公爵家の三人共に青色の卵を既に孵化させているので、他の学生と比べて圧倒的に力がついている状況になっている。
授業中にヒムロのバカがレベル7を希望していた頃が懐かしく感じるな。
その力の内容は、本当にバカなのか自分で勝手に言いふらしているので知れ渡っているが、俺にしてみれば自分の能力を自慢げに暴露するなんて弱点を晒すようで考えられないのだが、バカの考える事はわからない。
唯一残念な事は、ヒムロの期待通りにあいつには攻撃系統の能力が備わった事だ。
ヒムロ
レベル:Lv6(Lv7)
系統能力:攻撃
レグザ
レベル:Lv5(Lv7)
系統能力:補助
ビルマス
レベル:Lv4(Lv7)
系統能力:攻撃
流石に能力が得られたとは言え修行をしなければ身体強化がなされる事以外は何も変わらないので、一応各系統能力に応じた術をモノにしようと修行しているらしい。
俺達とは圧倒的に環境が違う公爵と言う立場を利用して、練度の高い騎士達やお抱え冒険者から手ほどきを受けていると言う噂が入っているが、おそらくそれは事実で、あれだけ高レベルな上限レベルに急激に近づけるには相当な練度を持った人材が教えなければ体に急激な負担がかかって、身を滅ぼす可能性すらあるからだ。
あいつらが自慢げに話している数値から、確かに一番早く卵を手に入れたヒムロは上限レベル7に近いレベル6の力になっているようだ。
あくまで自称だが、恐らく本当の事だろうな。
全く貴族様は楽で良いよな……そんな暇があるならば、掃除や道具の準備くらい自分でやれっての。
最近三人の中ではようやく最後にビルマスも能力を手にしたので揃って尊大な態度が目に付くようになっているが、俺に言わせれば家の力を使って俺達に影響が無い範囲で貴重な卵を仕入れれば俺達に与えられる卵にも余裕が出るし、順番を露骨に無視するような不公平感がなくて良いと思うのだが、そこは教育の一環として公爵家としては行っていないと偉そうに言っていたが、表向きに言っているだけなのは誰もが知っている。
彼等がどの系統の能力を得たとしても何もない奴らよりは圧倒的に基礎能力は上がるのだから、立場的にも、体力、力的にもあいつらに何かを言える者は存在しない。
卵が孵化した時点で、それぞれの力に耐えられるように身体強化がなされるのだから……
その横柄な態度に対して苦言を呈する事ができない者の中には、残念ながら教師も含まれている。
「今日までテストお疲れさまでした。明日からは少し羽を伸ばせますよ。勉強でずっと席にいた分、思いっきり体を動かしてください」
そんな状況で、球技大会なる物が開催されるのだ。
当然他の者達よりも圧倒的に身体能力が違う三人は無駄に張り切っているので、あいつ等を囲っている周囲の連中は、そんな三人に何とか取り入ろうと胡麻を擦っている所だ。
当然その中に俺は含まれないのだが……
「ねぇジニアス君、どの競技に出るの?」
何だか学園入学時よりも積極的に俺に絡むようになってきたスミナが、笑顔で話しかけてくる。
俺のこの学園での唯一の目標は、母ちゃんの恩に報いるために無事に卒業する事。
正直卵なんて貰えなくても何の問題もないとは思っているけど、卒業の証明になるので受け取ろうとは思っている。
卵の真実を知っている俺は手に入り易い斑の卵を五つ同時に孵化させるつもりなので、学園から貰った卵は内緒で売っぱらおうかと思っているのは秘密だ。
斑の卵であればその辺で安く売っているし、何なら自分で取ってくる事もできるからな。
卒業証明として受け取った卵を母ちゃんに見せて、能力は斑の卵できっちり入手しておけば全て丸く収まるだろうと思っている。
と、少し話がそれたが、俺の目標達成の為に無駄な争いには巻き込まれないように今迄慎重に行動してきた。
ただでさえ、何の力も持っていない平民と言う事で目を付けられやすいのだから。
そんな思いを知ってか知らずか、この女性は輝く笑顔で俺に話しかけてくる。
それも毎日毎日。
はっきり言ってスミナは可愛い。超可愛い。
笑う時には上品にそっと口を手で押さえるが、時折見える八重歯すら可愛いのだ。
そしてその声は、聞く者全てを蕩けさせるような甘い声をしている。
全ての行動が洗練されており、おまけに優しくてスタイルも良いとなれば、俺が平民でなければ速攻アタックしている逸材である事は間違いない。
本来は喜ぶべき状況なのだが、残念な事に学園生活を穏便に過ごすと言う俺の目標達成に対しては最大の障害になっており、彼女のせいで周囲の視線が痛いのだ。
もちろん無駄に大声ではしゃいでいるヒムロ、レグザ、ビルマスの三人も視線を時折こちら、いや、スミナに向けている事を知っている。
なので、あまり積極的に仲良くしていると思われるのも問題だ。