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(69)妖幻狼納品の影響(2)

 ヒューレットの作戦によって、想定以上の有り得ない高値で引き取られる事が決定した妖幻狼。


 当初皇帝が想定した以上の高額と言っても大変貴重で品質の良い魔獣である為に、そのような素材を入手できるほどの国家であると言う噂による商人や鍛冶師などの活性化、そして妖幻狼を素材とした貴重な魔道具や装飾品の売り上げによって、赤字になると言う事は無い。


 既に妖幻狼が素材として各種魔道具や装飾品として加工が始まっている頃、ダイマール公爵は手駒の二人の公爵、スラノイド公爵とホワイト公爵を引き連れて謁見の間で皇帝と会談していた。


「シノバル陛下。アズロン男爵の物納の件、正直私も少々驚きました。しかし、あれ程の状態の妖幻狼を納品できるとなると、ヨルダン帝国にとって聊か脅威なのではないでしょうか?」


 ヒューレット一行が脅威だと煽り、皇帝から釘を刺す事によって行動範囲に制限を掛けようと言う作戦に出ていた。


「だがダイマールよ、あのヒューレット一行だぞ?流石に妖幻狼を見たときには驚きはしたが、戦力的には有り得ない事ではないだろう。今までのあ奴らの行動から、反逆の可能性もないだろうしな」


 ここでも、あの妖幻狼を納品したのがヒューレットパーティーという事が功を奏していた。


 これがジニアスによるものだと公になっていれば、この場でジニアスは確実に脅威とみなされて国家として何らかの強制的な対策が取られていただろう。


 ヒューレットは熟練の冒険者であり貴族と同等の権力を持っている事、今までの確かな実績と模範的な行動がここに生きている。


 ヒューレット一行もこの地位に至るまでに散々貴族達の揉め事に巻き込まれた経験があるので嫌でもダイマールのようなクズ貴族の事も熟知しており、容易に全ての行動を防いで見せたのだが、ここでダイマール公爵も引くわけには行かない。


「ぐっ、それはそうですが。し、しかし、今回アズロン男爵領地の管理ミスによって急遽物納になっているのです。ですから、この辺りに対しては少々厳しく指導された方が宜しいのではないでしょうか?」


「いやダイマール、今回は余が物納で良いと言ったのだ。それに、領地の件も報告を受けたが、明らかに暗部によるものだ。そもそも直近までは例年通りの出来高を見込んでいたと言うのだから、管理は出来ていたと見るべきだろう?」


 比較的流されやすい皇帝だが、自身で確認した事を覆す事は無く、有能なのか無能なのか判断に苦しむ存在だ。


 ダイマール公爵が暗部を使ってアズロン男爵領地を破壊したのだが、結果的にはアズロン男爵側にヒューレット一行が専属で契約すると共に、次年度の税まで納付され、更には妖幻狼と言う貴重な素材すら仕入れる事が出来たと言う実績をもたらした。


 そうは言っても領民の生活を担保するために、備蓄の放出をしなくてはならないアズロン男爵の財政が厳しい事に違いはない。


 ダイマールもそこは理解しており、更には妖幻狼を出せるほどのヒューレット一行の専属契約には相当な金額が必要だと思っているために、少し様子を見て再度経済的な攻撃を仕掛けようと考えていた。


 実際は……ヒューレットは無償で専属契約を結んでいたりするのだが。


 ここまで言っても提言が受け入れられないと理解したダイマール公爵は、これ以上余計な事を言っては今迄培った皇帝との関係を破壊する可能性があると考え、悔しい気持ちを押し殺しながらも謁見の間を後にする。


「くそ!全てあの平民(ジニアス)が現れてからおかしくなった。忌々しい。いつまでもでかい顔をさせておくわけにはいかないだろうな!」


「確かに、息子(レグザ)からも態度が良くない平民と聞いていますからね。立場を弁えさせる教育は必要でしょう」


「完全に同意だな。俺の所もビルマスから事情をある程度聞いている。だが、どうする?あれほどの力を持つ平民だが、ヒューレットパーティーと確実につながったとみるべきだ。それも妖幻狼をあの状態で物納できる実力を持っているパーティーと……だ。一筋縄ではいかないだろう」


「逆に言えば、ヒューレットは最強の魔獣を失い戦力が落ちていると言えるのではないか?」


「確かにそうかもしれないですが、隠し玉がまだいるかもしれないし、パーティーメンバーもいるので油断はできないでしょう?」


 三人の公爵は息子達から学園で起きた事をありのまま聞いているのだが、やはり公爵と言う存在は薄汚れているので、理由にかかわらず平民が貴族に対して反抗する事が悪と断罪していた。


 しかし、今まで何をしても結局は上手く行っていないので少し腰を落ち着けてから再び対策を考える事にする……と言う結論しか出なかったのだ。


 いわゆる、“先送り”だ。


 慌てて行動しても、何も益をもたらさないばかりか害にしかならない事を、身をもって経験していた事が活かされている。


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