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(68)妖幻狼納品の影響(1)

 ダイマールが執事より得た情報は、アズロン男爵が物納として皇帝に妖幻狼を一体、完全な状態(・・・・・)で納品したという事だ。


 見た事もない程の大きさであり、状態も極上品。


 その結果、一体の納品で今年の税だけではなく何と来年の税まで完納扱いになってしまったと言うのだ。


 つまり今回納品した妖幻狼一体の金額が、何と二十一億六千万マールと言う事になる。


 この話を執事から聞いたダイマールは、ヒューレットが使役している魔獣の一体を納品したと思っている。


 妖幻狼ともなれば、無傷で捕らえる事は常識的に考えて不可能。


 そうなると、今回の納品された個体の状態から推測できるのは……使役されていた魔獣と言う他は有り得ない。


 眷属としている状態であれば使役している最中に怪我を癒す事も出来る上、そのまま命を安全な状態で完全に刈り取る事も可能だからだ。


 そもそも妖幻狼と言う魔獣は決して人族の領域に踏み込んでくるような事もなく、以前手に入れた幼体は、親と逸れた一個体を偶然山奥で発見した冒険者が危険を察知し、国家挙げての討伐隊を派遣した事によって手に入れていたものだ。


 そこまで貴重であり危険な魔獣であると言う認識なのは正解だが、今回納品された個体は、ネルが丹精込めて育てていた花畑に集団で押し寄せてダメにした妖幻狼一行に怒り狂ったネルが、少々残虐な方法で始末した個体だったりする。


 ネルにとっては、花一輪の命よりも妖幻狼の命の方が極めて軽い命だったのだ。


 常識的に有り得ない手法で入手された妖幻狼だが、その真実は一切語られる事は無く税として納品されている。


 個体の貴重さや状態の良さから、結果的にはヒューレットが使役していたのであろう個体との噂が大陸中にあっと言う間に流れる。


 同業の冒険者、特にレベル9であり同じく操作系統の力を持っている冒険者のムスラムはその噂を聞いて、命拾いしたと安堵していた。


 以前ダイマール公爵からの依頼によってアズロン男爵を襲撃する計画があったのだが、その時にヒューレット一行が護衛についていた。


 報酬と達成納期の絡みでその依頼は破棄したのだが、もし妖幻狼を出されてしまっては、連携の取れていないレベル9の面々は瞬殺であろうと判断できたからだ。


「ヒューレットパーティー、まさかそこまでの実力だったとはな。俺ももう少し強い魔物か魔獣を仕入れる必要がありそうだ」


 とんだ勘違いではあるが、自分の強化を誓うムスラム。


 操作系統の力を持つ者は、他の系統の力を持つ者よりも力の上昇が急激に起きる可能性が高い。


 使役する魔物や魔獣によって強さが異なるので、強い眷属さえ手中に収めてしまえば一気に戦力が上がる事になるからだが、逆に言えばその眷属を失えば一気に力が減少する諸刃の剣とも言える能力だ。


「だが、今の俺では妖幻狼など夢のまた夢。焦らず行くか」


 流石はレベル9の冒険者なだけあって冷静な判断を行い、無理なく戦力増強する事を誓う。


 その頃のアズロン男爵邸。


 いつもの食堂に、アズロンとスミナ、ヒューレット一行とジニアスがいる。


 彼らには少し前までの悲壮感は一切なく、気楽に夕食をつまみながらの懇談だ。


 因みにヒューレット一行はアズロン男爵と専属契約を締結しているために、既に拠点をこの帝都の別邸と、アズロン男爵領地の館に設定している。


「ヒューレットさん。妖幻狼の納品、何も言わなくて良かったのですか?噂、聞いていますよね?」


「問題ないよ、ジニアス君。君が仕入れたと言っても誰も信じないだろうし、逆に万が一信用されてしまっては、君自身だけじゃなくてお母さんにも危険が及ぶだろうからね。まぁ、君達、ブレイド君とネルさんの力があれば問題ないとは思うけど……君の秘密を探られる可能性もあるから、これが一番さ」


 実際に帝都に妖幻狼を納品する際は、普通の人の収納魔法で入るような大きさではなかったためにヒューレットパーティーがこれ見よがしに担いで運搬していた。


 本来であれば操作系統の力である収納魔法、当然ヒューレットはレベル9でこの魔法を習得しているので、この大きさでも収納する事が出来る。


 しかし、周囲に妖幻狼の存在を認識させ、皇帝側が買い叩く事を防いだのだ。


 周辺に晒す事によって第三者が妖幻狼の状態を視認できるので、その結果、与えられた報酬が極めて少なければ皇族としてのメンツにかかわる。


 実際に皇帝シノバルは、道中ヒューレット一行と共にアズロン男爵が妖幻狼を担ぎながら居城に向かってきていると報告を受けていた。


 税として物納の品を持ってきている事は明らかであり、その状態、その魔物の種類から相当な額になる事は予想できていた。


 その為何とか金額を抑えようと考えていたのだが、明らかに魔物は民の目に触れているので、皇帝としてのメンツもあって少々高値で引き取らざるを得なかったのだ。


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