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(67)納税(3)

 ここでヒューレットが言っている専属とは、冒険者として自由に活動するのではなく雇用主、今回はアズロン男爵の元で働くという事を意味している。


 報酬も契約内容によるが、冒険者側にとってみれば基本的に安定した収入が得られる。


 しかしそれは低レベルの冒険者に当てはまる事であり、レベル9のヒューレットパーティーにしてみればギルドの依頼を受ける事も雇用主の許可が必要になるので、はっきり言ってメリットは皆無だ。


 雇用主から得られる安定した収入より、自分達で稼ぐ方が遥かに多額の報酬を得られる上に自由に行動ができるからだ。


 貴族、そして冒険者の深い部分についての知識がまるでないジニアスは、このやり取りを黙って見つめている。


「ヒューレットさん。申し出はありがたいのですが、あなた方を満足させられるような報酬を提示する事は出来ません。領地としての収入はあるように見えますがその殆どが税として徴収されるので、正直申し上げて私達が自由に使えるお金はないのですよ」


「フ、フフフフ、アズロンさん。良いですか?私達は既に報酬は前払いで頂いていますよ。これ程立派な妖幻狼を見せてもらったのですから。そしてこれからも、ジニアス君と行動を共にできる……」


 そう言って、ヒューレットはジニアスに視線を移す。


 当然ジニアスとしてもスミナ、そしてスミナの家族を守る事には全力を出すつもりなので、アズロン男爵専属冒険者となったヒューレットと共に行動する機会は増えるはず。


 そう思いジニアスは深く頷き、その姿を確認したヒューレット一行は全員が満足そうに微笑む。


「そう言う事です。俺達はレベル9の最強パーティーと言われていますが、それ以上の存在が目の前にいるのです。共に行動させてもらい、少しでもその強さに近づくために努力できる環境。冒険者としてこれ以上の報酬はありませんよ」


「アズロンさん、どのみち妖幻狼の納品で目を付けられるから、私達が専属になっても大して環境は変わらないわ。妖幻狼の話が出てこなければ私達が表立って手を貸す事は出来なかったの。わかりますよね?」


 パインが言っているのは、大陸最強パーティーと言われているヒューレット一行が無条件でアズロン男爵につくとなると、他の貴族や皇族からの妬みによる攻撃を受ける可能性が高かった事を言っている。


 しかし、それ以上の戦力を持っていると公になってしまう以上、今更ヒューレットパーティーが陰でコソコソする必要はないと判断したのだ。


「ありがとう。感謝します」


 全てを理解したアズロン男爵、フローラ夫人、スミナは、立ち上がり全員に深く頭を下げる。


 こうして今後の方針は決定し、ヒューレット一行は冒険者ギルドにアズロン男爵の専属となるべく申請を行った。


 大陸最強の冒険者パーティーがとある一下級貴族である男爵と専属契約をしたと言う衝撃的な出来事は、瞬く間に国家、いや、大陸中に広がった。


「クソ、ヒューレットめ!あいつのせいでおいそれとアズロンに手を出せなくなったではないか!」


 文句を言っているのは、もちろんダイマール公爵だ。


 息子のヒムロも、ヒューレットの助力による魔物か魔獣の使役で戦力を増強すると言う夢は完全に潰えていた。


 他の冒険者の力を借りて対応は出来るだろうが、操作系統の力を持つレベル9であっても、手に入れられる魔物や魔獣はヒューレットと比較するとたかが知れている。


 パーティー全員がレベル9であるヒューレットであれば他の三人の力を借りて、単騎では決して屈服させる事の出来ないようなレベルの存在を手に入れる事が出来る。


 つまり、現時点ではヒューレット以上に強力な眷属を手配する事が出来る人材が存在しないという事になる。


 正直息子のヒムロについては大したダメージではないが、今後フローラを手中に収めるためには相当な苦労が予想されているダイマール公爵。


「こうなったら、スラノイドとホワイトを巻き込む他あるまいな」


 未だに諦めると言う事をしないダイマール公爵。


 この執念深さも、公爵と言う貴族の頂点を極め、維持し続ける事ができる素養の一つなのだろう。


 ここで出てきているスラノイドとは、学園でジニアスにヒムロと共に食って掛かっていたレグザの父で立場は公爵。


 そしてもう一人のホワイトとは、同じくヒムロと行動を共にしているビルマスの父であるホワイト公爵だ。


 筆頭公爵であるダイマールには逆らえないこの二人の公爵を使って、アズロン男爵に対する攻撃を行おうとしている。


 もちろん物理的には負ける可能性が高いと理解しているので、今回のように領地を経済的に破壊する方向で力を使うべきだと判断したダイマール公爵。


 間もなく税が支払えずに泣きついてくると確信していたのだが、ヒューレット一行が専属となった以上、更なる追撃を行わなくては何が起こるか分からないと思っていた。


 そんなダイマール公爵の元に、執事が新たな情報を持ってくる。


 その情報を耳にしたダイマール公爵は、ヒューレットにしてやられたと言う思いで一杯になった。


「ぐぬぬ、ヒューレット!あ奴め、自ら使役している最強の魔獣を出したのだろうな。まさか妖幻狼を持っているとは思わなかったぞ」


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