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(66)納税(2)

 その場で全員が沈黙し、その沈黙を悪い方向に捕らえたジニアス。


「本当に申し訳ありません!もっと俺に知識があれば、皆さんにここまで心労を掛ける事も無かったので、反省しています!」


 何故か少々後ろに控えているブレイドも、腰を90°に折ってジニアスと共に深々と頭を下げている。


 この場でいち早く我に返ったのは、最強パーティーのリーダーであるヒューレット。


「ジ、ジニアス君。君が少々俺達との常識からかけ離れている事は良く分かったよ。いや、そもそも妖幻狼は冷静に考えれば学生が習うような種類の魔獣ではないから、そこに気が付かなかった俺にも落ち度があるのかな?」


 そこに、続いて我に返った同じパーティーのパインが続く。


「ヒューレットの言う通りね。ジニアス君、良く聞いて。妖幻狼の状態にもよるけれど、かなり昔に納品された個体、たしか三億マール近くしていたわ。それも、かなりの犠牲を出して仕留めた個体だったので、決して状態は良くないままで三億。きっとジニアス君の事だから、見た目奇麗な個体だったりするんじゃない?」


「その……はい。パインさんの言う通り、体を完全に拘束した状態で窒息させたそうです。って、そう考えると結構残酷な狩り方ですよね」


 本来は完全に拘束させる事も、ましてや窒息させるような事も出来ないが、ブレイドやネルを見ているヒューレット一行は強制的に自分を納得させる。


 しかし、そこまで強い心を持たないアズロン男爵夫妻とスミナは放心状態のままだ。


「えっと、じゃあ一体ここで出してもらえるかな?」


「わかりました」


 そして目の前に突然現れる、この広い部屋にぎりぎり入る美しい魔獣、妖幻狼。


 本当に今にも動き出しそうな見た目であり、その毛並みは虹色に輝いている。


「おいおい、こんな個体見た事ねーぞ。俺達が知っている個体はこいつの半分以下の大きさだったはずだ!」


「チャネルさん、これは成体らしいですよ。なので、皆さんが見た個体は、ネルによれば幼体のようですね」


 チャネルの叫びに対して、ネルから聞いた知識をそのまま披露するジニアス。


 ネルの力を使って落ち着かせる程の緊急性も無い為、アズロン男爵一家の自然復活を待って引き続き話が進められる事になった。


 以前の妖幻狼納品について、知り得ている知識を共有するヒューレット。


「アズロンさん。繰り返しになりますが、俺達の知識ではこの半分以下の大きさの個体、ジニアス君によれば幼体の妖幻狼が納品された事を知っております。その額が三億マールでした。今回は状態が非常に、いえ、異常に良く、大きさもここまでとなると……普通に考えれば十億マールどころではなく、想像できない値段が付くでしょう。つまり、これ一個体で完納です」


 申し訳なさそうに、でも何とかなったと言う安堵の表情を浮かべるアズロン男爵。


 しかし事はそう簡単には運ばない。


 ヒューレットと共に、チャネルまでも少々否定的な話をしてきた。


「ですが、納品は良いとして、今後が問題になります」


「ヒューレットの言う通りだな。ここまでの個体を無傷で納品できる力があると見せつける事になる。帝国からすれば脅威以外の何物でもないからな。一貴族がその戦力を持っているとなれば何が起きるか……」


 実際に幼体を撃破するのに国家戦力が必要になっていたと言う事実が公になっている以上、この個体を納品すれば確実に脅威とみなされるだろう。


 これ程の個体を簡単に手に入れる事自体が異常なのだ。


 つまり、今回の納税については何とかなったとしても国家から目を付けられる結果になり、更には脅威と感じた皇帝や他の貴族から理不尽な攻撃に遭う可能性すらある。


 もちろん直接的な攻撃はしてこないだろう。


 妖幻狼を無傷で納品できるような秘策を持っていると思われている男爵家に対して、そこまでバカな行動を取る者は貴族としては生き残れない。


 そこで、少しだけ的をずらして来るのだ。


 いくら使用人が他の貴族と比べて少ないアズロン男爵家と言え、この帝都にある別邸で生活している人々は数人ではない。


 その人数を常に守る事は出来ないので、この辺りを攻められる可能性が高い。


 例えば、多少強引に使用人を引き抜き、補填を妨害する。


 そうすると貴族としての体面が保てずに、身分に相応しくないと判断されて爵位を剥奪される事も有る。


 ドロドロした貴族とはそう言うもので、アズロン男爵もその位は理解している。


 アズロン男爵としては、今この家に勤めてくれている使用人は古くからいてくれている者達、そしてその縁者である為に失いたくない大切な存在だ。


 彼らを守るためには住み込みで護衛をつける事が一番の解決策になるのだが、そこまで信頼のおける者がいないのも事実。


 その悩みを正確に感じ取っているヒューレットは、こう提言する。


「アズロンさん、そこで提案があります。ここはひとつ、俺達パーティーを専属として雇ってみませんか?」


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