(56)ダイマール公爵宅鄭にて(2)
ダイマールも、暗部であるシャウランからの報告で女性の魔物の存在は知っていたが、美少女と聞いていたので大人だとは思っていなかった。
だが、目の前に現れたのは美しい大人の女性。背中に羽はあるが・・・・・・
目的のフローラを前にして、ダイマール公爵が見とれてしまう程の女性だった。
ネルの報告をダイマール公爵にした暗部であるシャウランは、ジニアスの母であるレンファの話……ネルを美少女と表現した内容をそのまま伝えていた。
ジニアスの母であるレンファにとってみれば、自分より年下に見える女性は全て少女になるのだ。
ここは、図らずもレンファのファインプレーだと言う事になる。
「これで文句はないよな?」
かなりの圧で言われてしまっては否定するわけにもいかず、ネルがフローラと同行する事になっていた。
思惑が外れてしまったダイマール公爵だが、ここで予定を変えると不審がられると今更ながら思い、そのままフローラとネルを伴って移動する。
この場に残されたのは、スミナ、ジニアス、ヒムロだ。
「ジニアス君、ブレイドさん以外にも力になってくれる人がいたんだ。それも、凄い美人。ねぇ、ジニアス君?あのネルさんって人、いつジニアス君の味方になったのかしら?私に隠していたの?」
何故か保護対象であるはずのスミナからの殺気に怯えるジニアスだが、ここで全てを正直に伝える訳には行かない。
なぜなら、この場にヒムロがいるからなのだが、その態度が余計にスミナの機嫌を悪化させていく。
「あんなに美人がいるなら、私なんて・・・・・・」
終いには、泣き出してしまったのだ。
おろおろするジニアスと、状況について行けずにポカンとしているヒムロ。
スミナに誤解を与えたままでは自分としても不本意である為、この場で伝えられる事だけはきっちりと伝える覚悟をしたジニアス。
「スミナ、聞いてくれ。確かにネルは前から俺の味方になっていた。だが、ブレイドと同じく家族の様な者だ。スミナとは違う。俺はスミナを本当に大切に思っているんだ。そこだけは信じて欲しい」
ピタッと泣き止んだスミナは潤んだ目でジニアスを見るのだが、当然ジニアスは、心の中であまりの可愛さに悶絶している。
「ジニアス君。本当に、私の事が大切なの?」
「当たり前だろ!」
目の前で砂糖を吐きそうなやり取りを見させられる状況になったヒムロ。
思い切り机をたたき、二人の意識を自分に向けさせる。
「お前ら、どこで何をしていやがる!スミナも、男爵令嬢、貴族に相応しい行動、相応しい相手がいるだろうが!わきまえろ!」
暗に自分が相応しい立場だと言っているのだが、二人は互いを微笑みながら見るだけで、ヒムロの相手はしなかった。
哀れヒムロ。
一方、魔道具の有る部屋に二人を連れて行くダイマール公爵。
一瞬ではあるが、あまりの美貌を持つネルもその手に・・・・・・と考えたのだが、おそらくジニアスの眷属である事、あのブレイドと呼ばれていた男と同等の強さを持っていると想定して安易な行動はとらなかった事だけは、流石に公爵としての地位を守ってきただけある。
「こちらですぞ、フローラ殿」
部屋の中には、確かに全身を調べる事が出来そうな魔道具が設置されている。
ネルの目から見ると確かに健康状態のチェックはできる魔道具なのだが、あくまで表面上の簡単な病状を調べるだけ。
逆に、大人も子供もこの魔道具を使う事で体にかなりの負担がかかる装置だった。
この場でネルの話を理解できる人物は存在しないので、フローラについては検査中、そして検査直後に回復術を行使する事で対処する事にしたネル。
念のために今のフローラの状態を改めて鑑定しているネルは、何の異常も見つける事ができない程に回復しており、完全な健康体になっていたのを確認して安堵する。
「では、こちらに横になって頂けますか?」
ダイマール公爵の指示に対してネルが何の反応も示さない事から、フローラは安心して指示通りに魔道具に横たわるために近づいて行く。
当然ダイマールとしては横たわる時に手助けと称して無駄にフローラの体に触れようとするのだが、その間に瞬時にネルが強引に割り込み、優しくネルを支えている。
「ネルさん、ありがとうございます。助かります」
ネルは、フローラに対して問題ないと言う気持ちを込めて微笑みで返す。
自分の行動を邪魔されたダイマール公爵は怒ろうとするのだが、ネルの美しい微笑みを見て毒気が完全に抜かれてしまっていた。
「で、ではまいりますぞ」
気を取り直して魔道具を起動するダイマール公爵。




