(51)アズロン男爵家へ
「ねぇ、やっぱり皇帝の所までわざわざ行くの、やめにしない?」
かなり難易度の高い任務を終えてようやく羽を伸ばせると思っていたのだが、ダイマール公爵のあまりのゲスさに予定が狂ったヒューレット一行。
そのメンバーの一員である回復系統レベル9を持っているエリンが、当てが外れたと言う思いもあって盛大にぼやき始める。
「あっ、実は私も皇帝のところまで行くの、面倒くさくなっていたんだ。だって、あんな奴を見た後、仕事する気になる?」
さり気なくダイマール公爵のせいにしているのだが、元から皇帝の所に行く気がなかったパインもこれ幸いとエリンに同調してしまった為、残りの二人、ヒューレットとチャネルはヤレヤレと言う感じで肩をすくめるが、彼女達の意見を否定する事はなかった。
「じゃあ、俺に良い案があるんだけど。せっかくだからこの手紙、ジニアス君の所・・・・・・と言うか、アズロン男爵に預けようか?」
「「「賛成!」」」
ヒューレットの思い付きだが、全員が即座に賛成したために急遽目的地をアズロン男爵邸に変更した。
アズロン男爵もこれ程有名なパーティー一行については詳しく知っているので、突然の訪問にかなり驚きつつもにこやかに受け入れており、食堂にて共に軽食をつまみつつヒューレット一行の四人とアズロン男爵、フローラとスミナで楽しい一時を過ごしていた。
そこに、ダイマール公爵邸から戻ったジニアスが執事に先導されて入ってくる。
「ただいま戻り・・・・・・アレ?」
「お~、さっきぶりだね、ジニアス君」
キョトンとするジニアスを見て、ヒューレット一行が軽い感じで挨拶をする。
ジニアスとしては、何故大陸最強パーティーと呼ばれている四人がここにいるのか理解できていなかったが、ダイマール公爵邸では自分の味方になってくれていた人達である事から、そのまま深く考えずに受け入れた。
「ジニアス君、ヒューレットさん達は私にこの手紙を託してくださったのだよ」
「いえいえ、そこまで御大層な事ではないですよ。私達が皇帝の所に行かなくて済むと言う打算もありますから、互いに益がある話ですよ」
根が正直なのか本音も含めて、既に手紙はアズロン男爵に詳細を説明済みの上で渡しているヒューレット。
アズロン男爵も軽く説明を聞いた段階で自分に対してかなり益があると確信していたので、その手紙を有難く受け取っている。
あまり良く分かっていないジニアスをよそに話は進み、やがて当然と言えば当然だが能力の話になる。
「正直俺は、他のメンバーのおかげでLv9に成れたと言っても過言じゃないからね」
「まだそう言う事を言っているのか、ヒューレット!俺達は全員が互いに支え合っているんだよ!いい加減に分かれよな~」
「そうそう、それを言ったら私達だってチャネルのおかげよ?ねぇ、パイン」
「そうだよね。ヒューレットは気にしすぎ!」
能力の卵を得た話まで出てきており、どうやらヒューレットは先に卵によって力を得たメンバーが黄金の卵を見つけてくれたおかげでレベル9に成れたらしい。
未だ系統能力を持っていないスミナも話に混ざり、経験豊かな最強と言われている冒険者の話を聞きつつ、楽しい一時を過ごす事が出来たジニアス。
「ヒューレットさん。それではこの手紙、明日早速謁見の申し込みをして、指定された日になってしまいますが早く届けたいと思います。その後は、ご存じかもしれませんが某公爵からの妨害工作だと思うのですが私達の領地の状態が悪化している事もあり、一旦領地に戻らなくてはなりません。ですが、その後に承るのであろう任務はしっかりとこなしますのでご安心ください」
任務とは、他国との交流を深めるための作業を行う事を指している。
帝国に対して益となる手紙を持ってきた者に、そのままこの任務が任される可能性が高いのだ。
「あの狸ならやりそうだな」
「本当よね。どうせ暗部でしょ?」
チャネルとパインも、アズロン男爵が言っている某公爵とは間違いなくダイマール公爵である事は理解しているので、暗部による今後の動きを心配しつつこのような物言いになっていた。
「ですが、ジニアス君のおかげで新しい騒動は起きていませんので、後片付けをしに行くようなものですよ」
アズロン男爵の追加情報に、ホッと胸をなでおろすヒューレット一行。
場合によっては、自分達もアズロン男爵領地に同行しようかと思っていた程に心配していたのだが、そこまでの事態にはならなさそうだと思い安堵していた。
実際にはダイマールにも最低限人としての矜持があると性善説の上で判断している部分があり、その考えは非常に甘いのだが……




