(50)ヒューレットパーティー(2)
ヒューレット一行が書状をダイマールに渡すように委託するこの行為には、実はお互いに益があった。
ヒューレット達はわざわざ皇帝の所に向かう必要がなくなり、ダイマール公爵はシラバス王国の国王の親書を皇帝に渡す機会を得、おそらくそのまま両国の交流を深めるための作業を行う事になるのだが、その責任者に任命される可能性が高い。
結果にもよるが、高い可能性で上手く行くこの一件はダイマール公爵の地位を盤石にするものになるはずだった。
そんな思惑が外れたので、少々ボヤきつつ皇帝の所に向かっているヒューレット一行は少々油断していた。
ダイマール公爵の目的はあくまでアズロン男爵夫人であり、そこはジニアスの発言から全く疑っていなかったので、その矛先はアズロン男爵家かジニアスに向かうと考えていたのだ。
当然ダイマール公爵はこの程度で大人しくなるような男ではないし高位貴族特有のコネを持っているので、予想通りにヒューレット一行とジニアス達が去ったダイマール公爵家では、今後どのように復讐するかを必死で考えている公爵がいた。
この世界の最強であるレベル9はヒューレット一行だけではなく、パーティー全員がレベル9になっているのがヒューレットパーティーだけと言う事なので、その伝手を使って何とか目にもの見せてやろうと思っている。
「冒険者風情が、この私に施しを行ったつもりか?ふざけおって。ジニアス諸共消し飛ばしてやる。それに、こうなったら形振り構っていられない。なんとしてもフローラを手に入れてやる」
一応ジニアスの警告は頭に残っているダイマール公爵であるユルハンは、今この帝国にヒューレット一行もいるために、即座に武力による行動をするようなバカげた事はしない。
ジニアスの本当の力についても、今日初めてヒューレット一行が明らかにしたようなものなのだが、あまりにも有り得ない事を言い続けていたのでまさか既に能力を得ているとは思っていなかった為に、改めて情報収集を行う事を決意する。
だが、ダイマール公爵にはその前に確認しておかなくてはならない事が一つあった。
「ヒムロ、もう一度良く思い出せ。あのジニアスと言う平民、斑の卵の孵化工程に入っていたのだな?その前は、何の能力も持っていなかった。間違いないか?」
そう、斑の卵を孵化させた者は例外なくレベル1。
この認識だけは誰に聞こうが間違いなくその答えが得られるほどに世界共通認識になっているので、斑の卵を得ているのであればヒューレット一行が言う程の脅威であるはずがないのだ。
「はい、父上。そこは間違いありません。能力がない事は学園側でも再鑑定しておりますし、私が直接あの平民の血液を斑の卵に付けたのです。これだけは絶対に、確信をもって言えます!」
ダイマール公爵は、しばし思考の海に沈む。
なぜ斑の卵を孵化させている男が、最強パーティーを唸らせるほどの力を持っているのか……
斑の卵によって高レベルの力を得たと言う発想だけは絶対に出てこないダイマール公爵。
いや、この世界中の人々全てが同じ考えではある。
そうなると既に力を持っていて完全に秘匿していたと言う他ないのだが、その考えで全てが納得できてしまう。
高レベルの力を使って鑑定結果を偽り、何時かは不明だが魔物を配下に置いたのだ。
ヒムロの策略によって孵化工程に入った斑の卵については、既に系統能力の力を持っているのであれば何の影響もない。
ヒューレット一行はあの魔物は従属魔法の影響が見えないと言っていたが、そもそも正確なレベル鑑定すらできない者の言う事は考慮するに値しないと切って捨てていた。
そう考えると、ジニアスは既に高レベルの二力である事は容易に想像できる。
鑑定の妨害には鑑定術。そして魔物を配下に置くには従属魔法。
この二つを使える系統は、回復系統と操作系統になる。
「あんな男が二力か。だが、現実を甘く見積もる訳には行かない。腹立たしいが、二力であると認めて策を練る必要があるな。回復と操作か・・・・・・」
この世界の二力と言う呼称は、侮蔑ではなく畏怖や尊敬の対象だ。
この言葉からダイマール公爵は、ジニアスが二力である事を認めたのだ。
だが、やはりここでも固定概念が邪魔をしており、高レベルの五力である可能性は一切考慮されなかったまま回復系統と操作系統に対して効果的な対策をとるべく、今までの経験と人脈を駆使して検討する。
当然系統による得意な面、不得意な面は一般的に言われている部分はあるのだが、かつてない程の難敵、高レベルを相手にした対策などそう簡単に出る訳はなく、どうあっても間接的な作戦しか思い浮かばなかった。




