(5)ジニアスの現実(1)
何故か俺の両手には痣があり、その中には魔物が潜んでいる。
そもそも、今の俺は系統能力を持っていない事は入学時に鑑定で判明している。
つまり能力を使って従属させられている訳ではなく、この二体が勝手に俺についてきていると言う事になる。
この痣の真実に気が付いたのは入学するよりも遥かに前であり、幼少期と言っても良い頃だ。
その二体、俺に攻撃的な態度を取る者に対しての殺気が凄いんだよ。
俺が抑えなければ、常日頃俺に絡んで来るヒムロやレグザでさえ一瞬で塵も残さず容赦なくあの世行きなのは間違いない。
事実、幼少期に勝手に森に入って魔獣や獣に襲われそうになった時、それぞれの手の痣から二体の魔物が出てきて襲い掛かってきた連中を一瞬で消滅させたからな。
あの時は本当に驚いた。
その時の魔物二体の感情から察するにどうやら強制的に従属されている訳ではなさそうで、何やら俺に対して崇拝?のような気配を感じた事はわかっている。
それは、今のヒムロやレグザに対する二体の攻撃的な態度からもわかるように、今も変わらない。
俺に能力がない故に彼らと正確な意思疎通はできないのだが、何となく感情を読み取る程度はできる……いや、それしかできない所がもどかしい。
逆に俺の言わんとする事は完全に理解できているようで、何か指示を出せばその通りに動こうとしてくれる。
その為に、今は必至で殺気を抑えるように指示をしているんだ。
「ジニアス、お前ヒムロの言う事を聞くんだったら、当然俺の頼みも聞いてくれるよな?」
また鬱陶しいのが来やがった。こいつはビルマスと言って最後の公爵嫡男で、こいつも俺に突っかかって来る。
流石に昨日の卵に関連する授業のノートは読み終えたらしいが、お前のせいでまた二体が暴れそうになっているだろうが!
再び痣に意識を集中させている間に、ビルマスは好き勝手な事を言って去っていく。
「明日の朝の武術の授業の準備、俺の代わりにやっておけよ!」
本当は、俺はあいつらにガツンと言ってやりたいのだが、母ちゃんが必死で通わせてくれているこの学園で貴族相手に問題を起こすわけには行かないと思っているので、今のところは何とか我慢している。
そもそも、言い返そうにも痣に意識が向かざるを得ないので言い返す余裕がないのも事実だが、その態度はあいつ等にとってみれば大人しくしているように見えているのだろうな。
結果的には俺が言いたい放題言われているのに黙っているので、更につけあがると言う悪循環に陥っているのは否めない。
クラスの他の連中は、上位貴族であるあいつ等と悪い方向でかかわるのを避けているばかりか、媚び諂っているので元々頼るつもりは一切ないが、頼りにはならない。
唯一の人物を除いては……
「ジニアス君、大丈夫?」
「あぁ、スミナさん。大丈夫ですよ」
このスミナ、学園初日に学内で迷っておろおろしている所を本当に偶然俺が助けた時から、やけに良い意味で絡んで来る。
だが、彼女もれっきとした貴族。
男爵令嬢と爵位は高くはないのだが、貴族だ。
平民の俺とは違うので、言葉や態度には気を付けている。
この俺の態度が、彼女からすれば壁を作られていると感じているようで不服らしい。
直接そのような事を言われたが、俺としては面倒事に巻き込まれたくないので今の所は変えるつもりは一切ない。
と、こうして俺の一日は過ぎて行く。
放課後、誰もいない教室で掃除でもするか……と立ち上がろうとすると、痣から二体が出てくる。
二体は俺が周囲の事を気にしていると知っているので、誰もいない時に限って時折こうして勝手に姿を現してくる。
無駄にスミナが俺を手伝うと言い張って教室に残る時もあるので、その時は現れる事は無いのだが、いつも俺に対して跪くからやりにくいったらありゃしない。
「いつも言っているだろ?普通にしてくれよ」
こっちの言う事は理解できるので、フルフルと下を向いたまま首を振る二体。
二体共に信念があるらしく、何故か俺程度にいつも最大限遜るような態度をとり続けている。