(40)アズロン男爵邸(1)
アズロン男爵邸で、使用人達を含めた全員で賑やかに行われている食事会。
誰もが喜びを隠しきれないまま、会は進んで行った。
そんな中で一人浮かない表情のジニアスだが、その原因はブレイドからの報告によるものだ。
『ジニアス様、どうやらこの屋敷に侵入者がおります。ネルの鑑定によればあの奥方様は毒物摂取による異常状態であったとの事から、この侵入者が関与している事は明白です。隠密術を使って侵入しているようですが……如何致しましょうか?』
この侵入者とは、ブレイドの予想通りに毒を盛りに来たダイマール公爵に仕える暗部シャウランだ。
シャウランの持つ系統は補助系統であり、隠密術が使える。
潜在能力上限Lv7の力を持っている為にこの屋敷で生活している人間の誰よりも高い力を持っており、誰にも気が付かれる事なく長期にわたりこの任務に就いていた。
『いつもと違う屋敷の様子に少々戸惑っているようです。これだけ騒いでいるのですから当然と言えば当然ですが。様子を見るためでしょうがこちらに近づいて来ております。このまま見逃しますか?』
ジニアスは悩む。
ここで捕縛したとして、この雰囲気を壊してしまうのも気が引けるが、何もせずに見逃すのも有り得ない。
悩んでいる所に、痣の中のネルから提案が来た。
『ジニアス様、私の収納術であれば生物も保管可能です。とりあえずは保管致しましょうか?』
願っても無い提案だが、あっさりと保管と言う所にネルの怒りが現れている。
この雰囲気を壊さずに、且つ元凶と思われる人物を確保できるので迷う事なくネルの提案を受け入れたのだが、問題が発生した。
ネルが作業するにはネルが顕現する必要がある。
だが、今ネルが潜んでいる左手はスミナによって完全に確保されてしまっている。
隠密術を使ったとしても存在そのものを消せるわけではないので、スミナにネルが当たってしまうのだ。
そもそもネルは隠密術が使える系統である補助系統の力を持っていない。
ブレイドと同じく術を創造しているのだろうが、能力的にはかなり劣る術になっているはずであり、ネルの姿を晒したくないジニアスとしてはこのまま顕現させるわけには行かなかった。
苦肉の策がコレ!
「えっとスミナ?申し訳ないけど、俺、ちょっとトイレに……」
「あっ、わかりました。私がご案内しますね?」
相変わらず左手を抱えるようにして歩くスミナだが、流石にトイレの中まではついてこないだろうと思い、されるがままについて行く。
ネルには申し訳ないが男のトイレの中で顕現し、隠密を使って行動してもらう事にしたジニアス。
「ブレイドはここに残っていてくれ。何かあったら頼んだよ!」
この場に侵入者の気配を察知できる人物がいない以上、安全のためにブレイドを残す事にした。
ジニアスは現時点で何故フローラが狙われたのか、誰が狙ったのかを理解できていないので、出来得る安全策を取る。
こうしてトイレに到着したジニアス。
予想通りスミナは中にまではついてくる事は無く、ジニアスはホッとしていた。
痣からネルが現れる。
「こんな場所で悪いけど……ごめんな。合流は帰り道になるかもしれないけど、侵入者の件、頼んだよ!」
『承知いたしました』
気配があっという間に希薄になり、そのままトイレから出て行くネル。
ネルも防御系統の能力を持っているので、探索術は完全に極めている以上はLv7の隠密程度は軽く看破する事が出来るだろう。




