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(34)ジニアス、ブレイド、ネル(4)

 訪問時の手土産を購入するべくいつもの店にいる俺だけれど、ここに売っているのはお世辞にも良い品質の物はないし(店長、ごめん!)、生活用品ばかり。


 母ちゃんに相談しようと家に帰るしかないかと思ったのだが、良く考えれば母ちゃんは今日の夜から夜勤なので、今晩は帰ってこない。


 つまり、スミナの家に行くまでに会う機会がない事に今更ながらに気が付いた。


 人のせいにするのはお門違いだが、あのスミナの笑顔が可愛すぎるせいで色々考えなくてはいけない事を考えられなくなっていたのだ。


 母ちゃんについては、俺の不在は手紙を置いておけば良いだろうから問題ないとして、手土産……


「う~ん、どうするか……」


 何も購入する事が出来ずに、自宅に帰ってから思わず漏れる独り言。


『どうなされましたか?ジニアス様?』


『私達に何かできる事があれば、何なりと仰ってください』


 既に慣れたもので、家の中では母ちゃんの在宅の有無に関係なく二人は姿を現す。


 この二人は俺と同じく力はあるが、恐らく手土産などと言う訳の分からない事に関しては力になれないだろうな……と、半ばあきらめの気持ちで事情を説明した。


『それでは、こちらは如何でしょうか?』


 すると、俺の予想に反して徐にネルがポーションを持ち出した。


『こちらは、以前私が活動していた際に特別に作ったものです。大きな欠損まで治せる優れものです。時間的制限はありますが、死亡後すぐに使用すれば復活も可能です』


『あ~、以前に使っていた例のポーションか。ジニアス様、これは以前ネルが激高して相手を昇天させた上でこのポーションを使って即復活させたのです。その直後に再度昇天させると言う行為を繰り返していた時に使っていた物です。効果はこの目で確認しておりますので、保証します』


 やだ、ネルさんとんでもない美人なのにやる事がエグイ。


 こんなおっとりとした美人を激高させるなんて何があったのか気にならなくもないが、余り詳しく説明されても萎えるかもしれないので聞かない事にした。


 でも……そりゃそうだろうな。ネル程の力を持っている精霊族が、何の変哲もないポーションなんて態々出すわけはない。


 だけどそのポーションのこの世界での価値が良く分からない。


 いや、普通には存在していないだろうという事は推測できるのだが、これをそのまま渡しても良いのか……全く分からない。


 俺が普段使っているポーションや、以前スミナが準備してくれていたポーションとはどう見ても効果が桁違いだからな。


 でも、もう準備する時間はないし……


「ありがとうネル。そうさせてもらうよ」


 幻想的に輝いているポーションを手土産にする事にした。


 今更だがブレイドに関しては既に存在と、本気ではないがその力を公にしているので、スミナの家でも顕現させても良いと思っている。


 そこでブレイドにこのポーションを保管してもらう事にしたけど、実際の所は俺も魔法で収納できるが、俺自身が得たこの力をそう簡単に公にするわけには行かないからな。


 そう言えば、俺がポーションを購入しに行って買えなかった時……ネル達としてはヒムロ達を自分達の力でボコボコにする予定だったから敢えて俺に渡さなかったんだってさ。


 で、話は戻って、斑の卵の力を得る状況に陥っている事位は誰しもが知っているはずで、そんな俺が平気で収納魔法なんて使っては怪しまれる事この上ない。


 Lv1の収納魔法は本当に小さな物……そう、爪の先程度の大きさの物しか収納できないはずなのだから。


 どう取り繕っても、卵の真実を話さない限り納得してもらえない状況になるのは目に見えているから、敢えてブレイドに運んでもらう事にした。


「じゃあブレイド、このポーションを保管して……あっ、そうか。ブレイドは操作系統の力がなかったんだな。じゃあ収納魔法は使えないか?」


『いいえ、全く問題ありません。Lv10の力で同様の術を作成・習得済みです』


 最早何でもありだな、Lv10。


「それだと一系統でもLv10を持っていれば、俺と同じく全ての系統の力を完全に使えるという事になるのか?」


『使えるには使えますが、既にネルがお話しさせて頂きました通りに性能は残念ながらかなり落ちるでしょう。術の開発も、全て独自で開発するとオリジナルと比較して劣化具合が激しいのです。私はネルに教わりつつ術を開発したために大きな劣化はありませんが、それでも生物は一切収納できません。当然ネルの収納術では生物の収納は可能ですし、ジニアス様も可能になっております』


 劣化版の術を行使できるという事か?流石にそこまでは甘くなかったな。

 それでも別格だけど。


 こうして手土産も何とかなり、母ちゃんに事情を説明する手紙を書いて机に置いておいた。


 明日の午前中に帰ってきた時に読んでくれるだろう。


「明日は朝からスミナの家に行く予定だ。ブレイドの存在は公になっているから、向こうで呼び出す事にしている。その時にポーションを出してくれ。それと、ネルは申し訳ないけど呼び出せない。今更だけどなるべく俺の力は秘匿しておきたいからな」


『『承知しました』』


 ブレイドとネルは、表情一つ変えずに俺の要望を聞き入れてくれた。


 じゃあ、明日に備えて夕飯でも食べて、風呂に入って、さっさと寝ますかね!


 どうせ明日学園は休みで、スミナの家に行く事位しか用事はないしな。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その頃のアズロン男爵邸。


「お父様、ジニアス君は明日来てくれる事になりました」


「そうか、楽しみにしていたからね。ようやくスミナの想い人に会えるよ」


「なななん、何を言っちゃったりしちゃったりしていますですか?おおお父様!!」


「ハハハ、本当にスミナは分かりやすいな」


 父であるアズロン男爵にからかわれているスミナだが、彼の言葉を否定する事はせずに、真っ赤になって俯いている。


 そんな和やかな二人が食事をしているこの食堂には、使用人はいるが母親はいない。


 母であるフローラは、スミナによく似て優しく穏やかな性格をしている上に、可愛らしさを漂わせた美人だ。


 貴族の間で良く行われるお茶会でも、同性異性に関係なく慕われているので常に人だかりができる様な存在なのだ。


 そんなフローラはスミナが学園に入学して暫くした頃から、時折体調を崩すようになっていた。


 最近はかなり体調が悪化しているので、今日も食堂に姿を現していない。


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