(31)ジニアス、ブレイド、ネル(1)
あの下らない事件、俺に斑の卵を強制的に宛がうために行われた蛮行からは早くも三週間程度が過ぎている。
卵は長くとも一月程度で必ず孵るので、そろそろ孵っても良いはずだ。
俺は、この卵を手に入れてから毎日のように卵に語り掛けている。
俺自身、心の底から目の前の斑の卵が素晴らしい力を与えてくれると信じているのでそれを言葉にして伝えているのだ。
この行動が良いかどうかは知らないが、この気持ちがあれば上位のレベルになる事だけは間違いない。
俺は目の前の五個の卵から複数の系統能力を得る事になるのだが、一般的にも知られている通りに同一系統の能力が被る事は決してない。
つまり今、目の前にある五個の卵が孵化すれば俺は必ず五力になるのだ。
もちろん侮蔑ではない本当の五力だ。
この卵が孵って操作系統の能力を得れば、ブレイドやネルと確実に意思疎通ができるだろうし、本当に楽しみだ。
最近の卵は微振動する事が多くなってきているので、孵化する時が近づいていると言う事だろう。
何故か俺の両隣に現れているブレイドとネルも、ワクワクした顔で卵を俺と共に見つめている。
恐らくこの二体も、俺と完全に意思疎通が出来るようになるのが楽しみなのではないだろうか……と思いたい。
実は母ちゃんにはあの後、ネルだけではなくブレイドの姿も見せている。
あまりにも美男子である為に、暫くボーッとしていたのは仕方がないだろうな。
これほどの強さを持つ二人が無条件で俺に付き従ってくれている本当の理由も、卵が孵化すればわかるだろう。
そうそう、俺の母ちゃん、外で俺の友達と言う形でこの二人の事を話しまくっているのだ。
ブレイドについて話すのは既に学園の奴らには明らかになっているので仕方がないが、ネルについては秘匿してほしかった。
聞く人が聞けば、ブレイドと同じような存在が俺にもう一体付き従っている事が明らかになってしまうからだ。
まっ、今更起きてしまった事は仕方がないので、諦める事にしよう。
今の所直接その件で俺に対して何かを言ってくる者はいないし、当然学園でもスミナとしか会話をしていないので詳しく聞かれる事も無い。
俺自身の力と言っても良いのかわからないが、この二体の力が明らかになったとしても俺には新たに卵による系統能力の力が手に入るので、全戦力が明らかになってしまう訳ではない。
そう言った意味でも、それほど焦る必要はないだろうと思っている。
それよりも俺が焦っていると言うより不安になっている事は、俺が卵の能力を手に入れたら、この二人が消えてしまわないかと言う事だ。
なぜ俺に従ってくれているのか……と考えると、この二体は俺を守っている節があるので、俺が力をつけて彼らが俺自身の安全は担保できたと判断した時に役目は終わったとばかりにどこかに消えてしまわないかと不安なのだ。
今の所出来得る意思疎通では、そんな事は無い!と言っているようなのだが、まだはっきりとしたやり取りは出来ていないので正直不安だ。
そんな俺の不安をよそに、両隣にいる二体はなぜか正座をして正面の卵を微笑みながら見つめている。
そしてついにその時はやってきた。
目の前で卵が一瞬発光し、気が付けば殻は割れていた。
自分としては、特に何も変わった……
「ジニアス!ジニアス!!大丈夫かい?」
「あれ、母ちゃん。俺、何をしているんだ?」
気が付けば床に倒れている俺には布団が被せられており、視界の一番近くには母ちゃん、そして少し後ろにはオロオロしているブレイドとネルがいる。
……そうか、卵が孵化したのを確認して意識が飛んだのか?状況としてはそうとしか考えられないだろうな。
だが、能力を得た時に意識が飛ぶ等は聞いた事が無いし、そんな知識も持っていない。
時間的には、母ちゃんが帰ってきている所を考えると数時間気を失っていたのだろう。
雰囲気的には、ブレイドとネルもどうして良いか分からずにネルはひたすら回復術を、ブレイドが俺の体が冷えないように布団をかけてくれたと言う所か?
「あぁ、大丈夫だよ、母ちゃん。ブレイドとネルも心配かけて悪かったね」
「まったく、驚かせるんじゃないよ。家に帰れば突然目の前に二人が現れて慌てて私の手を引っ張るモンだから、焦ったわよ」
三人にはいらぬ心配をかけてしまったようだ。
「皆、本当に申し訳ない。もう大丈夫だから」
「そうかい、じゃあ私は夕食の準備をしてくるから、あんたは少し休んでな」
こう言い残して、母ちゃんは俺の部屋から出て行った。




