(23)冒険者とジニアス(2)
「おいおい、あんたら俺を躾けてくれるんだろう?早くしてくれよ!楽しみにしているんだからさ!いや~二力を持つ熟練冒険者の躾、本当に楽しみだな~」
確実に俺の声は聞こえているはずなのだが、震えるばかりで全く動こうとしない三人の冒険者。
「何だよ、あれだけふざけた事を平気で言ってのけたのだから根性見せやがれ。ブレイド、こっちから行け!」
ブレイドに指示を出すと、ブレイドは恐怖を煽るようにゆったりと三人の冒険者に近づいていく。
あいつらは震えるだけで動けなくなっているようだ。心底情けない。
まぁ正直な所、敵意を漲らせているブレイドを前に真面に動ける奴なんて、俺の左手の痣の中にいる同格のネル位だろうな。
人族では無理ってもんだ。
しかし……なんでこんな化け物じみた強さを持つ二体が俺に従ってくれているのか、改めて不思議でしょうがない。
あっ、あまりにも暇なので余計な事を考えていたら、ついに一人が頭をブレイドに捕まれて持ち上げられている。
一瞬暴れる素振りを見せたがもう既に意識がないようで、壊れた人形のようにダラーっと情けなくぶら下がっている感じだ。
「ブレイド、癪だが殺すなよ!」
既に一人は手遅れかもしれないと思ったが、左手のネルによればまだ大丈夫らしいから、そうなのだろう。
ブレイドが俺の声に反応して冒険者を開放する。
恐らく俺の声が無ければ、あの冒険者の頭は簡単に握り潰されていただろうな。
既に意識の無い冒険者が地面に落ちる音で我に返ったのか、残りの二人の冒険者が突然土下座して大声で謝罪してきた。
「申し訳ありませんでした!貴方様の仰る通り、冒険者として、大人としてあるまじき行為でした」
「公爵家の命令で、断る事が出来なかったのです。許してください!」
この変わり身、どうしようもない奴らだな……この国の連中はこんな人物ばかりなのか?心底嫌になってくる。
冷静に考えれば平等を謳うこのチャリト学園の中でもあれほどの横暴が許されるのだから、こんな連中が増えるのも仕方がないのかもしれないな。
「あん?お前らどの口が……いや、そう言えばお前ら、ヒムロ達のお抱えの冒険者なのか?」
俺がこいつらと話し始めた事により、ブレイドは攻撃を中止して成り行きを見守ってくれている。
冒険者はチラチラとブレイドに視線を移しつつも、何とか俺との会話を続ける。
「お、お抱えと言う程ではありませんが、何をおいても優先的に依頼を受ける契約になっております!」
恐らく、相当な汚れ仕事もこいつらがやってきたのだろう。
「じゃあお前らに選ばせてやる。この場でそこにゴミのようになっている者と同じ末路を辿るか、二度とヒムロ達の依頼、当然ヒムロ達に繋がる者達も含まれるが、依頼を受けないか、二つに一つだ。今すぐ選べ!」
「「二度と依頼は受けません!!」」
当たり前だが即答だな。
ヒムロ達の方を見ると冒険者の態度に驚く余裕はないのか、ひたすらブレイドに視線を固定していた。
あいつらもLv7なのだから、ブレイドの異常な強さは俺を含めた一般人よりは理解できるのだろうな。
いや、上限レベルは7だが、今のレベルは6だったか?
とは言え、意図せずにあいつら公爵家の力を削ぐ事には成功した事になるだろう。
意図しない幸せも感じる事が出来たので、今日の所はこの辺りで勘弁してやろう。
「ブレイド、もう良いぞ、戻れ。ありがとうな」
冒険者から視線を外して俺に向かって再び深く一礼すると、音もなく俺の右手に戻ってきた。
既に腰が抜けたのか二人の冒険者も地面にはいつくばっている状態だが、座り込んだ冒険者の地面には、具体的な原因は言わないが池が出来ていた。情けない。
そんな二人を無視してスミナの待つ、いや、余計な連中もいるが、あくまで俺はスミナの元に帰る。
「お待たせスミナ。な?大丈夫だっただろ?」
「えっ、う、うん。あの、ジニアス君?突然出てきた、えっと、ブレイドさん?ジニアス君の何?あの冒険者三人を圧倒するなんて、凄すぎるよ!」
興奮しているのか再び俺の腕にしがみついて再び幸せを提供してくれるスミナと、それを唖然とした表情で見る教師と生徒、そして残りの冒険者達。
そうそう、あの三人以外の冒険者達については少し安心させてやろう。
ブレイドの力を目の当たりにして、その矛先が自分に向きかねないと思っている表情だからな。




