(22)冒険者とジニアス(1)
同じような事を経験した後ろに隠れているヒムロ達は、あの時の事を忘れたのか俺を見てニヤニヤしている。
「ジニアス君、大丈夫なの?私が謝ろうか?」
何故か隣のスミナは更に震えながら小声で俺の心配をしてくれているので、こちらも俺の強さ、いや、ブレイドとネルの力を借りた俺の力を忘れているのだろうな。
「大丈夫だ。こんなクズ共に負ける要素はどう頑張って探しても何一つない」
あえて聞こえるように大声で言ってやる。
……ドカン……
ついに完全にブチ切れた冒険者が、目の前にあった大きな石を拳で破壊して見せた。
今の破壊に使った力は……ただの身体強化によるものか、攻撃系統の能力によるものか……判断に苦しむな。
レベルが低い連中であれば、攻撃系統の能力がなければ身体強化だけではあれほどの力を得る事は出来ないが……あいつらのレベルは自称6なので、そのレベルで与えられる身体強化を使えばあの程度は出来そうな気はするな。
とそんな事を無駄に考えていたのが良くなかったのか、俺が驚いていると勘違いした冒険者が調子に乗ってしまった。
「今更詫びても、なかった事には出来ねーぞ」
「あれほどの暴言、大人として躾けないとならないからな」
「ま、依頼主の許可も得ているし、久しぶりに全力でやってやるか」
本当にバカだなこいつ等。
「お~、経験豊かな大人の冒険者三人が、能力を持っていないと知っている学生一人に対して理不尽な理由にもかかわらず全力で攻撃か。ご立派なこって!器が知れるな!」
そう言いつつもスミナを優しく後方に下がらせつつ、俺は少々広めの位置に移動し始めると、当初は攻撃態勢を取っていた冒険者も流石に俺の意図を理解したようで黙って俺の後ろをついてくる。
それはそうだろう。Lv6の二力である三人が暴れてしまっては、周囲の被害が甚大だ。
依頼主であるヒムロ達はLv7である為に大怪我をする事は無いだろうが、一応このクラスの連中は貴族や豪商、高レベル冒険者の子供達であり、そんな連中に被害を与えては今後の行動に大きな支障をきたす事位は理解できたのだろう。バカなりに。
俺はと言えば痣に潜む二体に対して余計な制御をするほどの余裕がないので、邪魔者がいない場所に移動したかっただけだ。
まっ、あんな連中でもクラスメイトだからな。無駄に大怪我をさせる必要はないだろう。
因みに学内で力を使えば退学と言う事になっているのだが、ここは学外だからセーフ!と、俺は勝手に判断している。
実際の所、相手は高レベルで熟練の冒険者三人である為にあいつらにバレないように二体の力を使うのは無理である事は明らかなので、一体だけその姿を晒す事にした。
なぜ二体を晒さないかと言うと、なるべく自分の力は秘匿する方が安全だからだ。
あの三バカのように、自ら進んで自慢げに力を公開する行為は愚の骨頂だ。
「よし、出ろ、ブレイド!」
俺は広い場所に移動すると、右手をあいつらに突き出してブレイドを出す。
相変わらず美男子だが、がっしりとした体躯の男が俺の前に跪く。
明らかに殺気をみなぎらせている冒険者三人に対して、完全に無防備なその背中を彼等に晒しているのだ。
ブレイドにとってみれば、あいつら三人はその辺のゴミと同じで警戒するに値しないのだろう。
だが現れて即跪くこの行動は正直本当にいい加減にしてほしいけど、今はかえって俺の配下であると言う事が知れ渡るので良いかもしれない。
「なっ、お前操作系統の力を持っていたのか?」
「鑑定では何の能力も持っていなかったぞ」
「何だ、あの野郎!」
突然現れたブレイドを見て慌て始める三人の冒険者に対して、優しい俺は少しだけ事情を説明してやるが、断定的な表現は避けておくか。
「いやいや、俺は鑑定された通りに何の系統能力も持っていないと思うぞ。そんな力を使わずとも、俺に従ってくれているんだ。そんな俺に対して全力で攻撃する予定なんだろ?だったら俺も相応の対応をさせて貰おうと思っただけだ。頼んだぞ、ブレイド」
俺の言葉に反応してゆったりと立ち上がったブレイドは深く頭を下げると、振り返って三体の冒険者を睨んでいる様だ。
俺からはブレイドの表情は見えないので想定になるのだが、今までの経験から考えると俺に牙を剥いた連中への殺気が凄いから、殺さんばかりに三バカ冒険者を睨みつけているのだろうと判断した。
冒険者三人はブレイドの力を肌で感じているのか、長年の経験からブレイドの力をある程度正確に把握できているらしく、一切攻撃する素振りを見せずにガタガタ震え始めてしまった。
全くの無力である俺に対してあれだけ理不尽で尊大な態度をとったのだから、その勢いのまま難敵にも対応してくれないと俺の気が済まない。
これでは三バカ貴族と同じ状況になりかねないので、少々煽ってやろう。




