(2)ヨルダンと能力の卵(2)“説明回”
「ところで平民は……掃除系統なんてどうだ?日々の掃除が上手くなるぞ?お前も俺と同じで、既に毎日修練しているだろ?」
「ハハハハ、良いね、ヒムロ。掃除系統。新しいじゃないか。術は……箒術とか、雑巾術かな?必死で修練してくれよ!」
先生の無難な対応に感心していると、相変わらずの行動を取るヒムロ達。
そして、再び痣に意識を集中せざるを得なくなる俺。
は~、本当に勘弁してもらいたい。
だがこいつらの言う通り、各系統の力を与えられた者達は必死でその系統に属する術を得ようと修練する事になる。
どこぞの夢物語の世界のように、能力を得られれば突然強くなると言った楽な話ではないからな。
つまり卵を孵化した段階では、得られた系統に属した能力を習得する権利を勝ち取ったに過ぎないのだ。
例えばヒムロのクズが言っていた攻撃系統は、あいつ自身が言っていた通りに
魔術、剣術、体術……等を習得する事が可能だ。
あいつが卵から得る能力が攻撃系統以外であれば、自信満々に公言していた術の修練が全て無駄になるのだから、俺としては是非ともヒムロには攻撃以外の系統を手に入れてもらいたいと思っている。
そんな術だが、複数修行する者もいれば、一つを極めんとする者もいる。
しかし、それぞれの術のレベル上限はどれ程必死で修行したとしても、卵から得た系統能
力の上限レベルを超える事はない。
結果的に、卵から得られる系統能力のレベルが今後の人生を大きく左右すると言っても過言ではないという事だ。
「まぁ、俺様の力であれば、攻撃系統のレベル7が妥当だろうな」
「確かにヒムロに相応しいレベルだ」
「え?じゃあ平民は?掃除系統のレベル5ってところか?プフフフ」
こんなレベルの低い奴らの話は聞き流すに限るが、こいつらの話に出て来るレベル、系統能力を得た時に上限レベルが確定しており、その範囲はレベル1~レベル10であるのは既に前回の授業で教わっている。
なかなか静かにならないヒムロ達に、困った顔をするだけのロンドル先生。
公爵嫡男であるヒムロに対しては先生と言う立場であっても強く言えないので、余計に付け上がっている節がある。
能力の卵に関する授業であるため、この時ばかりは普段静かなヒムロ達が煩くなっているので、非常に目障りではある。
そんな中、再び操作系統の能力を欲しいと言っていた女生徒が口を開く。
「じゃあ先生!系統能力が選べないのはわかりましたが、私達は系統能力レベル5以上になれると言うのは確実と言う事で良いですか?」
自分が今後どうなるのか気になるのは、正直俺も含めて皆が思っている事だ。
ヒムロ達も同様らしく、あの生徒の質問が聞こえるとヒムロ達は俺への当てつけの発言を引っ込めて先生をじっと見つめている。
ここを卒業するまでに、高レベルが確定すると認識されている外観が緑色以上の卵が各自に一つ与えられるという謳い文句を掲げている学園に入学している以上、そこは何をおいても確認しておきたいのだろう。
その卵の種類は、外観から
虹>黄金>白>青>赤>緑>紫>茶>黒>斑
となっており、斑がレベル1で虹がレベル10を与えてくれる卵だと古文書に記載されている……らしい。
斑はその辺りで簡単に目にする事ができるのだが、虹については既に割れている状態ではあるが、過去に一度だけ発見されたと言うほどに貴重だ。
あの傲慢チキのヒムロでさえレベル7、青色の卵が自分自身に相応しいと言った事は、上位の卵の発見率が異常に低い事に起因する。
ただ、あいつの公爵家嫡男と言う立場があれば、何等かの力が働いて希望通りの上限レベルの卵を得るのは間違いないだろう。
一方、学園に通う事の出来ない市井の者達は自らの力でダンジョンに潜ったり、冒険者に対して超高額な報酬を支払ったりして能力の卵を得ようとするのもこの世界の通常の流れと言える。
その全てが高レベルの力を保証すると言われている卵を手に入れられるのかは別の話しだが、レベル1が確定する斑以外を欲する以上はこのような行動に出るのは仕方がないのだろう。