(18)学外授業(2)
「ジニアス君・・・・・・」
まさかの事態に陥ってしまった恐怖からか、スミナが不安そうに俺の後ろから可愛く袖をつかんでくる。
クッソ、こんな時でも可愛いな~・・・・・・じゃない!今は目の前のあいつらに集中だ。
痣の中の二体も緊急事態であると理解したのか、即動ける状態になっているのはわかる。
この二体、ブレイドとネルの力があればあの冒険者共が束になって襲ってきても何の問題もないだろう。
その程度は理解しているはずだと思ったのだが、脅しが足りなかったか?
「じゃあ始めるか。お前程度の平民が、青色の卵を貰えると信じて疑っていない時点で許せねーんだよ」
「そうですね。本当にそうです。ですから、私達があなたに相応しい卵を準備してあげました」
「そうそう、お前程度にはこれで十分だろ?」
そう言いながら、何やら瓶を取り出したヒムロ。
その中には血液が保管されているように見える。
あれは?
「そうそう、これはお前の薄汚い血だ。健康診断の時にお前の血だけは別で保管しておいてやったぞ。ありがたく思えよな」
そう言いながら、壁一面に並んでいる斑の卵に俺の血液をかけたのだ。
「ハハハ、良かったじゃないかジニアス!これでお前は五系統の力を授かる事は間違いないぞ。これでお前は五力だ」
「本当です。いや~羨ましいですね。五系統全てレベル1が確実なのですけどね。プッ、ハハハハ、立場に相応しい力を得られるじゃないですか!」
「いや~爽快、爽快。流石はジニアスだ。五系統なんて素晴らしい。これでお前も五力の仲間入りだ」
目の前で腹を抱えて笑っている三人。
血液が卵に付着してしまっては、一週間以内に追加の卵を準備しない限りは新たな力を得る事はできない。
そして今目の前で行われた蛮行は、五個以上の卵に俺の血液がかけられているのだから新たな卵を入手しても関係がない状況だ。
まさか、健康診断の血液を使われるとは思ってもいなかったが・・・・・・どこまでもクズだな。
この世界では複数の系統を持つ者を、系統の数を頭にして後ろに力をつけて呼ぶ事が一般的だ。
つまり、最後にビルマスが叫んだ五力とは、五系統の力を持つ者の別称。
そんな豆知識はどうでも良いが、流石の俺もこいつらがここまでの連中だとは思わなかったな。
だが、スミナが被害に遭わなかった事は幸いと言って良いだろう。
そもそもこの三バカ、特にヒムロはスミナを気に入っているから、人生を左右する能力に関してはスミナに何かをする事は無いはずだが。
斑の卵に俺の血液を掛けたヒムロは俺の力がLv1で確定したと思っているようで、すこぶる機嫌が良く見える。
それもLv1の系統能力を五つ持つ侮蔑の総称である五力になると信じ込んでいるんだ。
確かに今の世の中で高レベルの系統の力を複数持っていると広く公になっているのは、このヨルダン帝国では皇帝であるシノバルだけであり、その皇帝ですら二力。
つまりそれ以上の力を表す言葉、三力以上の言葉は侮蔑の言葉として使われるのが一般的なのだ。
「じゃあ沢山孵化の工程に入っているようだから、その中から好きな卵を選んでくれたまえよ、五力のジニアス君。ハハハハ、おい、行くぞ!」
ヒムロは楽しそうにしながら、レグザ、ビルマス、そして冒険者と共にこの場から去って行った。
「ジニアス君・・・・・・ごめんなさい。私がはしゃいで校外授業に行こうなんて誘ったから・・・・・・本当にごめんなさい。球技大会でも、あの三人にとどめを刺したのは私のようなものだし・・・・・・うっ・・・・・・」
卵の真実を知らなければ、絶望するのだろうな。
事実、俺が最悪の状況に置かれたと思っているスミナはひたすら謝罪した後に、何も話せなくなって泣いている。
は~、どうするかな?
卵の真実ついては話せないけど、俺の力の一部は話しても良いか?
そうでもしなければ、気に病み過ぎておかしくなってしまっては困るからな。




