(17)学外授業(1)
今日の学外授業の準備も自分の分だけを準備すれば良いので、楽チンだ。
その準備とは、大きめのリュックに飲み水、少しの食料、明かりをともす魔道具を入れるだけと言う簡単なもの。
各自がそのリュックを背負い、先行する冒険者の後をついて行く。
残念な事に生身の俺達は既に能力を手にしている冒険者について行けるわけもなく、労せず後を追っているのは、あの三バカだけだ。
かなり離れた位置に、俺を含むあの三バカを除くクラス全員が纏まっている。
だが冒険者達もこちらの情報は得ているのか、先行組と後方組でそれぞれ分かれてくれているので、何も問題は起こっていない。
むしろ先行組は既に卵の力を得ている三人なので、真面目な話をするならば俺達と同じ内容を教えて貰っても仕方がないのではないだろうか。
実は俺自身も頓珍漢な内容を今更教えて貰っても仕方がないとは思っているが、サボるとスミナが一人になるので、真面目に行動している。
「よ~し、君達はこっちの入口から入る事になっている。既にいくつか見えているが、こっちの道にはほぼ斑の卵しかないが、数だけはかなりある。ほぼ斑一色と言っても良い。その代わり安全だ。既にLv7の四名についてはあちらの入口から入って貰っている。何の色の卵があるかわからない道だが、その分危険があるので、残念ながら今の状態の君達はあちらの道に入れる訳にはいかない。それじゃあ、休憩が終わって準備ができた者達から順に入って行こうか。時間は二時間を目途に自由に散策し、各自で戻って来る事。斑の卵を手にしても良いが、一人一つまでにしておいてくれ」
「俺からも一つ。卵がどのように生み出されるのかは、今尚わかっていない。その疑問を考えつつ見ると、何か新たな発見があるかもしれないぞ。それと、こっちの道でも運が良ければ、斑ではなく黒の卵程度は発見する事ができるかもしれないので、その辺りも意識して行動すると楽しめるだろう」
こちらのグループに同行している冒険者の指示に従い、俺達は順に安全と言われている道に入っていく。
もちろん全員が一気に入る訳には行かないので、各グループに分かれて時間をおいて侵入している。
ここからは入口近辺の中がある程度見えるが、最初から複数の道に分かれているようで各自が別の経路を行くことにより、大して待つことなく俺とスミナの番になった。
「はい、君達はこっちだ」
外からは見えない位置にも道があったらしく、入口に入ってすぐの所に待機してくれている冒険者が俺達に進むべき道を指示してくれる。
既に進行方向の壁には、斑の卵が数個存在していた。
「ジニアス君、もう卵が見えますね。ほぁ~、凄いですね」
「本当ですね。冒険者の方が言っていた通りどうやって卵が生まれるのかを考えると、なんと言いますか、引き込まれますね」
そう雑談しつつ、指定された道を行く。
リュックから明かりの灯る魔道具を取り出し、周囲を照らす。
奥に進むほど暗くなっているが、明かりの魔道具のおかげで視界はクリアだ。
「本当にすごい!斑と言っても素晴らしいですね?スミナさん」
少々歩いて到着した場所は道ではなく広場のようになっており、その壁一面に斑の卵が整然と並んでいるのだ。
「おいおい、斑の卵程度で感動するなんざ、平民に媚び諂う奴は感性が違うな」
ここで、聞きたくもない声が聞こえてきた。
非常に耳障りな声の主は、ヒムロだ。
この野郎、違う入口から入ったんじゃないのかよ?それとも道が繋がっていた……訳はないだろうな。
「不思議そうな顔をしているな。おっと、待てよ!俺に手を出したらお前は退学になるばかりか、そこのスミナの家もただじゃすまないぜ」
「そうそう、平民は大人しく私達に諂っていれば良いんですよ」
「球技大会の借り、ここで返してやるぜ」
今まで大人しかったが、ここでついに動いたか。
と言う事は、教師や冒険者もグルか。
「お前の考えている事はわかるぜ。教師や冒険者の事だろ?まぁ教師は俺達がかなり学園に寄付をしているからどうにでもなるし、冒険者は俺達の直属だ。平民でもどう言う事か分かるだろ?」
「わかる訳がないでしょう?ヒムロ。こんな平民が理解できるわけはありませんよ。良いですか、この私が親切にあなた程度でもわかるように説明してあげますよ。冒険者が私達の直属、つまり、私達の戦力と言う事ですよ。フフフ、痛めつけ放題と言う事です」
「ま、そんなあからさまな事はするつもりはないぜ。俺達の邪魔をしなければな」
三人の自信満々の表情を見ると反吐が出るが、確かにあいつらの後ろには、あいつ等を先導していた高レベルと思われる冒険者達が複数控えているのが分かる。
これが公爵家の力か。
本来は学園直属の冒険者が同行する校外授業なはずが、あいつらの力で強制的に同行する冒険者を入れ替えたのだろう。
だが、この期に及んで何をする気だ?




