(14)球技大会(4)
「どんなイカサマ使ったか知らねーが、これなら間違いなくお前を殺せるぜ!」
少々足が震えながらも自信満々な態度を崩す事は無いヒムロ。
既に自分の欲望を隠す事なく、学園の行事には相応しくない直接的な表現をしている事に気が付いているのだろうか?
レグザは、遥か向こうでピクピクしているビルマスから球を持ってきてヒムロに渡している。
流石に身体強化があるだけあって、これだけ離れている距離でもあっという間だ。
「オラァ~、死ねや!平民!!」
おそらく球の軌道に沿って発生している砂埃だけがかろうじて見えるが、球が見えずとも俺には関係ない。
再び出していた右手に軽い衝撃が来ると共に、気が付けば手の中には球がある。
「そ、そんな・・・・・・バカな」
「平民!何をしたのですか?」
慌てる二人を見ると、今の攻撃が二人の限界の攻撃だったのだろう。
その攻撃を何の力もないと見下していた平民が片手で止めて見せたのだから、そうなるのも仕方がないがな。
「おいおい、この程度か?まぁ良いや。じゃあ次はお前だ、レグザ」
そう告げてすかさず球を放る俺は、この球も良くこの攻撃に耐えているな?と、正直どうでも良い事を考えられる余裕があるのだが、その短い間にさっきと同じ光景が繰り広げられる。
ご丁寧にブレイドはビルマスの丁度横にレグザが来るように調整してくれていたようだ。
ここまでできるなんて、余程力の差が無いとできないだろうな。
よし、最後は俺の中では一番頭に来ている男、主犯であり諸悪の根源であるヒムロだ。
実は俺、美味しい物は最後に食べる派なのでヒムロを最後に残しておいた。
「これで残るは一人か~。流石に貴族として本気を見せてくれるんだろうな~。まさか平民如きに三人揃って何もできないなんて事は、な・い・だ・ろ・う・な~。ハハハハ、本当に楽しみだ。ポーションすら強制的に買い上げる程用意周到だから、絶対に奥の手があるよな。油断しないようにもう少しだけ力を入れて対応しよっかな~!」
あいつの目を見て、笑顔を浮かべながら挑発してやる。
「クソが~」
何かを言っているが、声が小さくて聞こえない。
「ジニアス君、今日はここまでにしましょうか?」
その様子を見て、恐らくヒムロに恩を売れると思ったのかクズ教師が助け船を出してきた。
「えっ、先生突然何を言っているのですか?この競技に無理やり俺を参加させたのはあの三人。最初のあいつらの攻撃、見えました?」
ここでも反撃されるとは思わなかった俺の口撃を受けて一瞬固まる担任だが、数拍遅れて首を横に振る。
「そうでしょう?そんな攻撃を卵の力を持っていない人物が受けたらどうなるか、わかるでしょう?」
少々悔しそうに頷く担任。
「そんな攻撃を平気で仕掛けてくるような奴、少しは痛みを知るべきではないですかね?そもそもこの喧嘩は向こうが仕掛けてきたものだ。不利になったからって逃げるなんて許されるわけがないんだよ!今更ふざけた事を言って来るんじゃねーよ。俺が攻撃される事を分かっていて見ないふりしたくせに、今更何を言いやがる!!見苦しいんだよ!!!」
クソッ、話している内に感情の制御ができなくなった。
落ち着け。
「ふ~、すみませんね。と言う訳で、次はお前だぞ?ヒムロ」
「まて、まて!ジニアス。お前がそんなに強いとは・・・・・・まさか既に卵の力を持っているとは思わなかった。どうやって手に入れたか知らないが、俺が悪かった」
「何を言っているんだ?俺は何の力も持っていない。そんな俺に無様にも返り討ちにされるんだよ。これから自分の情けない姿を思い出して、屈辱の日々を送るんだな」
悔しそうにしているが、球を取りに行こうとしないヒムロ。
「はい、どうぞ!」
そこに、笑顔でスミナがヒムロに球を渡す。
GJだ、スミナ。
「スミナさん、ありがとうございます」
「どういたしまして。球技大会頑張ってくださいね、ジニアス君」
あくまでこれは学校のイベントだと強調するスミナ。
流石だな。
「畜生、どうにでもなれ!」
何をどうしても止められないと思ったヒムロは、破れかぶれに俺に球を投げてきた。
かなりの強さなのだろうが、ブレイドにとってはまるで球が止まっているように見えているのだろう。




