(135)四人の冒険者
帝都からアズロン男爵領に戻る為に、門の前で待ち合わせをしているスミナとジニアス。
「あ、ジニアス君!遅れてごめんね。それと、私に内緒で守ってくれてありがとう。霞狐以外にも護衛がいると教えてくれたら良かったのに!」
ジニアスであれば今回の一件は全て情報を掴んでいるだろうと分かっている為に具体的な話をしないスミナは、冗談めかして文句を言いながらも嬉しそうにしている。
「ごめん、ごめん。過剰すぎる守りだと言われると困るなと思って、内緒にしちゃったよ。結果的には良かったでしょ?」
二人は高速で移動しながら会話をしており二時間程度でアズロン男爵領に到着すると、屋敷にいる霞狐から帰還の情報を得ていたのか、ヒューレットパーティーが二人を出迎える。
「ジニアス君、スミナさん、お疲れ様。突然あの四人、俺達と同じレベル9の冒険者達が門の前にいたからびっくりしたよ。知っているとは思うけど、彼等はダイマール公爵と繋がっているからね」
ジニアスの力をある程度理解しつつも自分達と同格のレベル9の四人が完全に動けない状態で突然アズロン男爵領内の館の前に転がされているのだから、冷静になるのに少々時間を要したヒューレットに続き、チャネルも口を開く。
「あのムカつくムスラムを始めとしたクソ野郎共だからな。どうせ帝国で良からぬ何かをしでかしやがったんだろう?未だに動けないようだが、念のためにジニアス君の守護神二人が見張っているぞ?」
自分達よりも遥かに格上のネルとブレイドが自発的に四人を監視していると告げ、屋敷内部に異分子は有りながらも全く問題ないと教えている。
「ありがとうございます。詳細は後でアズロンさんやフローラさんも含めて食堂で説明しますが、結論はチャネルさんの言う通りですね」
帝都でひと悶着あった事を明確にしつつも、一気に説明しておきたいので夕食時にスミナの両親も併せて説明すると告げ、実は何時もより少々遅い時間になってしまったので急ぎ食堂に向かう。
「……と言う事でした。合っているよね、スミナ?」
「ジニアス君の言う通り、他の冒険者の方に迷惑をおかけしてしまいました。一応お詫びの気持ちは半ば強引にお渡ししたのですが、また同じような事があるかもしれないと言う不安があります。お父さんやお母さんの知り合いの方が同じ状況になってしまうかもしれません」
ジニアスの説明の後に補足するスミナの話を黙って聞いていたアズロン男爵は、確かに今後も余計な騒動に巻き込まれてしまい、当然敵は弱い部分をついて来ると考えて眉間にしわが寄る。
「アズロンさん、大丈夫です。今回ダイマール側の最高戦力と想定できる冒険者四人を捕らえていますから、何か事が起こるとすれば暗部を使うほかないと思います。暗部程度であればどうにでもできますよ?」
本来公爵家の暗部ともなればどうにかできる様な存在ではないのだが、ジニアスがこう言えばそうなのかと思いながらも、貴族としてあの手この手で来る可能性もあると告げるヒューレット。
この辺りは王侯貴族の闇を知らないジニアスなので、力一辺倒になってしまったのは仕方がない。
「ジニアス君。君の言う事は説得力があるけれど、何度か経験しているよね?あのダイマール公爵が武力だけではなく、無駄に知力や財力を使って攻撃してくる事を」
「……そうでした。申し訳ないですが、その辺になると俺の頭ではついて行けないと言いますか、何と言いますか……」
強引に突破するのはめっぽう得意だが、小手先や押し引き、頭脳戦では手も足も出ないと自ら理解しているジニアスの言葉は尻すぼみになる。
「ヒューレット、そんなに脅すなって。大丈夫だよ、ジニアス君。あの四人がクソブタ……失礼。ダイマールの最強戦力と言うのは俺も確実だと思っている。そいつらが成す術なく軍門に下った事を認識させれば、いくら小手先で来ようが関係ないと思わせる事が出来ると思うぞ?」
少しだけショボンとしたジニアスを見かねてチャネルが助け舟を出し、パインとエリンもチャネルの言葉を聞いて首肯している。
最終的な行動の決定は領主であるアズロンが決める為、全員の視線がアズロンに集中する。
「確かにチャネルさんの言う通りに、最強戦力を難なく無力化したと理解させれば暫くは間違いなく大人しくなる……かな?でも、それをどうやって知らしめるのかは少し考えなくてはいけないね。より強く印象に残る様な形が良いのだけど」
アズロン男爵としては、心優しい娘のスミナを前に四人の冒険者を始末するなどと言える訳も無く、また言うつもりもないので、どの様に効果的に返却するのかを考える。
過去に何度か忠告をしているのだが未だにこのような事をしてくるので、次は相当厳しく行動しなくてはならないと思っているのだが、ヒューレット達の予想によれば最強戦力を無効化出来ている状況の為、これ以上の事態は起きないと言う心の余裕も生まれている。
「それじゃあ、俺がしっかりと釘を刺してくるぜ?ムカつくムスラムを始めとしたクズ共をブタ野郎に投げつけてくりゃ良いんだろ?そんで、しっかりと脅しと躾をしてくれば完璧……だよな?」
少し考えこんでいるアズロン男爵の様子を見て悩み過ぎて困っていると勘違いしたチャネルが立候補するのだが、他のメンバーからの視線は冷たいもので、何故か少々冷や汗をかいている。
「あれ?俺、やっちゃった?」
「まったく、バカチャネル。単純に自分の鬱憤を晴らしたいだけでしょう?」
パインに図星を突かれてポリポリと頭をかいているチャネルなのだが、その後のアズロン男爵の発言にチャネルだけではなく他の全員が驚きの表情に変わる。
「チャネルさん。その案を採用しますよ!」




