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(129)冒険者として

 シラバス王国、アズロン男爵領、更にはヨルダン帝国の帝都周辺の広範囲でダンジョンの異常状態が収まっているので、冒険者達も今迄の経験・知識を生かしつつ活動できるようになっている。


 一方で、遠く離れたダンジョンや帝国内部のダンジョンの一部は異常状態を継続しており、有り得ない魔獣、獣が上層階に出てくる状況に変化はなかったので、その近辺の冒険者はダンジョンに潜る事はせず、結果的に周辺は徐々に廃れ始める。


「陛下……今月の税収は非常に厳しいものになっております」


 今日の皇帝シノバルは宰相と話をしており、日々減少している税について結論の出ない話をしている。


「唯一しっかりと納税しているのは、アズロン男爵だけと言う有様です」


「アズロンの所は、十億八千万マール(十億八千万円)だったな?物納によって来年までの税は免除していた……」


「仰る通りです」


 ダンジョンが相当数元に戻った状態であり、通常であれば各貴族の領地の税もしっかりと支払われてしかるべきなのだが、実際には国内だけでそれぞれの素材などを消費しているわけではなく、他国との交易を行って益を得ている。


 この交易は、貴族と貴族で直接行うものもあれば国家を通して行うものもあるのだが、両者ともに言えるのは信頼が第一と言う事であり、この信頼と言う部分でヨルダン帝国には非常に大きな疑問符がついてしまっていた。


 完全ではないが相当数のダンジョンの異常が戻ったのだが、何時また異常が発生するのか分からない状態であり、冤罪ではあるがそのような事をしでかすヨルダン帝国と言う話しが大陸共通認識となっているので、交易を断られるケースが激増していた。


 結果が各領地の衰退に繋がり、最終的には帝都への納税も遅れている。


 数少ない例外の中には今話題に出たアズロン男爵もおり、彼の場合は非常に特殊で、既に幻妖狼と言うレベル9の魔獣で物納した結果、来年の税まで納めた事になっている。


 細々した例外は他にもあるのだが、大きなところでの例外はもう一人……豪商マハームだ。


 残念な事に国内、特に帝都での商売は壊滅的なダメージを受けているにもかかわらずしっかりと納税が出来ているのは……やはりあの卒業式の日の決死の覚悟でスミナとジニアスを祝ったあの態度のおかげであり、あの場に来ていたシラバス王国のジョレニュー男爵の記憶にしっかりと残り、その後ジェイド国王に情報が上がると直接国王を通して商売ができるに至っていた。


 税の関係で行けばシラバス王国の資産がヨルダン帝国に流れる形になるのだが、あの時に豪商マハームとリンの覚悟を見たスミナが父であるアズロン男爵に事情を説明し、アズロン男爵唯一の暗部であるソルバルドが帝都での情報を仕入れた所……やはりと言うか、完全に商売として成立していない状態を把握したので、自分達がシラバス王国に素材を入れるので、その分をマハーム達の為に使ってほしいと進言した。


 つまり、シラバス王国としては自らの懐が痛まない状態でマハームを助ける事になっているので少し申し訳なさそうにしているのだが、スミナはジニアスが直接助けるような行動をとれば更に扱いが酷くなる事は火を見るよりも明らかだと考えており、その隠れ蓑になってもらう報酬の意味もあって、定期的に素材をアズロン男爵を通してシラバス王国に納めている。


 素材をどのように入手しているのかと言えば、ヒューレットパーティーの助力もあるが、主に学園を卒業して独り立ちしている立場になっているジニアスが冒険者として活動している結果だ。


 スミナもスミナで、相当な頻度でジニアスと行動を共にして冒険者として活動しているのだが、やはり元来の性格からか、教会に向かい得られている能力を使って民の為に奉仕活動を行っている。


 本来であれば帝都に戻って職業体験を実施した教会で作業をしたいと言う気持ちも有ったのだが、いくら霞狐を伴っているとは言え適地のど真ん中にいる事になるので、アズロンから許可が出なかった。


 ジニアスがネルを同行させると言う案を伝えたのだが、そうなるとこれ以上ない程に明確にヨルダン帝国と揉める事が決定してしまうので、結果的に周辺にも大きな被害が出てしまう可能性が高いと諭されて諦める。


 代替案としてジニアスが冒険者として活動し、時折帝都のギルドに納品に向かうのだが、その際にはブレイドとネルが共に顕現しており、帝国側もこの状態のジニアス達に余計な接触をする事は出来ないので、ついでに教会に立ち寄って奉仕活動を行っていた。


 結局スミナがジニアスと頻繁に行動を共にしているのはこの為であり、自ら攻撃をするために冒険者として積極的に活動しているわけではなく、冒険者の活動と言う体で民の為に行動をしていた。


 ジニアス、ブレイド、ネル、更には霞狐を伴った一行に喧嘩を売るバカはいないので、スミナも安心して奉仕活動を行う事が出来、自ら意図した訳ではないが回復系統の能力の練度を更に上げていた。


「スミナ。頼む……俺は、俺達は生まれ変わったんだ。何とか現状を改善してくれ!」


 流石にこれだけ教会に定期的に顔を出していればヒムロを筆頭とした三バカにもスミナの回復の評判を含めた情報は流れるので、恥を忍んで……そもそも恥と言う概念がないのかもしれないが、帝都の教会に不自由な体を無理やり動かして赴き必死で懇願している。


 ネルやブレイド、ジニアスに対して何かを言う程の度胸は無いのだが、傍に霞狐がいるだけのスミナに対しては何とか話が出来ると言う甘い考えから、教会でスミナ達を待ち続け、最大の脅威であるジニアス達が視界から消えた時に割り込む形でスミナの担当している癒しを行う仕切られた空間になだれ込んでいる。


 三バカの存在程度ジニアスは気が付くし、ブレイドやネルも気が付かないわけがない。


 当然霞狐も分かっているのだが、正直全く脅威にはなり得ないので全てはスミナの判断に任せると言う意味もあって、敢えて隙を晒して接触させるようにしていた。


「はぁ、急いでいる気持ちは分かるけど、並んで待つと言う事すら出来ないんだな」


 まだ人としてどうかと思っているジニアスの予想通り、三バカは直に部屋から追い出されていた。


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