(13)球技大会(3)
ヒムロは、明らかに今持っている全ての力を使って……それこそ今迄見せた事がない程の全力で球を投げたのだろう。
あいつの攻撃に素のままでは一切対処する事はできないと知っている俺は、実際に俺に対して攻撃を仕掛けてきた球が見えないので、その考えは正しいと理解した。
ただ何もしなければ、いくら痣に潜んでいる二体でも姿を完全に隠したままでこの攻撃に対応する事はできないかもしれないので、あいつが球を手にした時からさりげなく右手をあいつ等のいる方向に向けている。
俺の右手の痣の中には魔族のLv10、ブレイドが潜んでいるのだ。
・・・・・・バチィ・・・・・・
頭が痛くなるような大きな音と共に、軽い衝撃が襲った。
本当に軽い衝撃で済んでいるのは、おそらく左手の痣に潜んでいる精霊族Lv10のネルが上手くやってくれたのだろう。
その結果、俺の右手にはヒムロが投げた球がいつの間にか納まっている。
「なっ?俺の攻撃を無傷で受けただと?」
「あの平民、何をしたんですか?」
「ヒムロ、まさか手加減したのか?」
おいおい、ビルマス。お前はバカか?周りを見てみろ!ヒムロの攻撃は誰にも見えた様子はなかっただろうが。
まっ、悲しいかな、正直俺にも何も見えなかったけど、そんな攻撃が手加減の訳ないだろう?そもそもこいつが手加減なんてするタマか?
しかしあの野郎、本当に俺の事を殺す気だったな。
あの目に見えない攻撃を受けたら、ただじゃすまないだろうが!
それに球を受け取った右手の位置から想像するに、狙いは間違いなく俺の頭だったしな。
いや~、しかし流石はブレイドとネル、ほんのちょっとだけ心配していたのがバカみたいだな。
まっ、折角この状況になったのだから、改めて少々あいつ等を煽ってやるか。
「この程度で驚くのか~。あれ?ひょっとしてコレが本気?まさかねぇ。じゃあ今度は俺の番だ。先ずはビルマス、お前からだ!」
「なっ!?おもしれ~、偶然球を無傷で捕れたからって調子に乗るなよ?その高くなりやがった鼻っ柱、圧し折ってやる。きやがれ!」
わざと煽りを入れつつ、次の攻撃対象を指名する。
こうすれば、迎撃態勢を取ったにもかかわらず俺の攻撃に対処できなかった事を嫌でも理解できるはずだからだ。
……できるよな?いくらバカのビルマスでも……
ある程度ブレイドに力を入れさせても、向こうもLv7だ。死にはしないだろう。
実際に死なれるといくら書面の契約があるとは言え多少は面倒になるだろうから、ブレイドにはかなり力を抑えてもらうけど。
「じゃあ行くぞ!」
わかりやすく掛け声をかけ、完全に迎撃態勢を取っているビルマスに対して俺は右手で球を投げる。
ゴゥ~~~
おいおい!なんだよ、この音!!ブレイド、お前ちゃんと力抜いたんだろうな!!
「ふべぇ・・・・・・」
・・・・・・ド~ン・・・・・・
陣地なんて関係ない位置まで吹き飛ばされているビルマス。
かなり心配になったが、何となく左手のネルからは死んではいないと言う思いが伝わって来た。
と同時に、右手のブレイドからは単純な感情が流れて来る。
“弱っ!”
確かに、今の結果だけを見ればそんな感情になるのも仕方がないだろうな。
陣地に残っているヒムロとレグザだけではなく、周囲にいる教師、奴らの取り巻き、そして唯一の良心とも言って良いスミナまであんぐりしている。
「お~い、ヒムロさんよ?次はお前らの攻撃だぞ。さっさとしてくれよ」
俺の大声で我に返ったヒムロ達。
俺では当然何もわからないが、おそらくあいつ等もブレイドがかなり手加減したあの攻撃ですら見えていないのだろうな。
明らかに冷や汗かいているし、微妙に足が震えているぞ!もう少し煽るか。
「早くしてくれませんかね?平民とは時間の進みが違うと思っていたのですけれど、どうしました?」
「クッ、この野郎調子に乗りやがって。おい、レグザ!」
「わかっていますよ、ヒムロ」
レグザは、自分の能力である補助系統の力を使ってヒムロを強化しているのだろう。




