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(119)ヒムロ達を癒せる可能性

 暗部のうちの一人は、明らかに重症で普通では完治できないだろう怪我、それも体の動きから長期間放置した状態であったはずの男性が完治して教会から出てきた事を確認すると、ある程度教会から距離が離れた場所で接触する。


「あの……突然で申し訳ありませんが、実は私の父は重傷であの教会までは行ける状態ではないので、仮に癒しを求めるとした場合には術者の方に来ていただく他ない状況です。その場合、あの教会ではどなたにお願いすれば良いと思われますか?」


 突然話しかけられて、その内容が怪我をしていた少し前の状態まで把握して観察していましたよ!と言っているのと同義なのだが、まるで期待してなかった根治に至った男性は、嬉しさから何も疑問に思わずにありのままを伝える。


「あぁ、それはお気の毒に。俺も同じ状況だったから、辛さは良くわかるよ。でもあの教会に行けば……じゃなくて、行けないんだったな。俺はあの列に並んだ時にとある一室に振り分けられたので他の部屋の事は分からないが、俺を担当してくれたのはどうやらアズロン男爵家の御令嬢らしいぞ。何でも上限レベル7の卵をチャリト学園で入手して、その力を民の為に使って下さっているらしい。素晴らしいお方だ。そう思わないか?」


「そうですね。情報ありがとうございます」


 突然そっけなくなった男に思う所はあるのだが、きっと家にいる父が心配なのだろうと考えて何も言わずに暗部である男を見送る。


 その日の夜に、ダイマール公爵家では暗部から有り得ない報告が上がっている。


「もう一度説明しろ!」


「はっ。ソルバルドが失踪した教会を監視していましたところ、明らかにレベル8、レベル9相当の回復術でも完治できない状態の男が教会の癒しを受けて完治しておりましたので調査致しましたが、その癒しを行ったのがアズロン男爵の令嬢スミナだと言う事でした」


 スミナは癒しによる奉仕活動を行っているのだが、ダイマール公爵の暗部に上限レベル7とは到底思えない回復を行えている事を把握され、暗部故に嘘偽りなく得た情報をしっかりとダイマール公爵に報告する。


 この時点で完全に有り得ない力を持っているジニアス、そしてジニアスがいるアズロン男爵家にもその力が現れていると感じているダイマールは、以前フローラがジニアスから渡されたポーションで完全に回復したと言う報告を思い出す。


「あれほどの毒……一瞬で全て回復できるポーションなど通常では存在しないが、そんなモノまで得る事が出来る程になっているのかもしれない。しかし、その力がある故にアズロンの領地だけに異常が発生していない。繋がるな」


 暗部の報告なので嘘偽りがない事は分かっているのだが、内容に納得できずに思わず二度聞いてしまったダイマール公爵は、徐々に真実に辿り着き始めている。


「ならば、やはり皇帝から伝える他ないと言う事か」


 その翌日に、同じ状況であるホワイト、スラノイド両公爵を招いて、自ら得た暗部の情報を開示する。


「何やらあのスミナが相当な癒しの力、到底上限レベル7では癒せないような人物を対象に力を行使できていると報告が上がっている」


「そんな馬鹿な!」


「確かに有り得ない話だとは思いますが、そこまで断言すると言う事は確証があるのでしょう?ダイマール公爵」


「当然だ。だが、相手はあのスミナ。つまりその後ろには忌々しい平民のジニアスやアズロンが付いている。そこで、今回は陛下からの勅命と言う事にしたいと考えている」


 三人共に嫡男が完治するに越した事は無いので、そのまま話は進んで行く。


 今の所、各領地についても非常に経営が厳しくなってはいるのだが、流石に三大公爵と言われているだけあって潤沢な資産、更には領地の状態も納税に対して相当余裕のある経営をしていた事が功を奏し、悪化していながらも未納の状態にはなっていない。


 その結果、ダイマール公爵と皇帝シノバルの関係にヒビが入る事も無く、当人としては呼び出される理由がわからないままに王城に来ているアズロン男爵と皇帝との謁見の場に同席するに至る。


「面を上げよ」


 呼び出しがかかった段階で、アズロン男爵があり得ない力を持っているが故に不測の事態に陥る事を避けるべく、ダイマールは皇帝に対して謁見についてはアズロン男爵一人で行わせるべきだと主張し、特段否定する要素も無いので控えの間にヒューレット一行がおり、謁見の間であるこの場にはアズロンだけがいる……と思っている、皇帝とダイマール。


 実際には黒い服を脱いで完全に気配を消しているアズロンを護衛する立場にある霞狐がしっかりとアズロンの後ろに控えており、主従関係にあるアズロンだけがその気配を完璧に把握している為に、この場で何があっても大丈夫だと言う余裕が出来ている。


 ヒューレット一行も霞狐が同行している事を把握しているので敢えて強行せずに大人しく控えの間にいるのだが、何があっても対応できるような態勢を整えているのは流石の大陸最強パーティーと言える。


「アズロンよ、お前は娘にどのような教育をしているのだ?以前も似たような事を伝えた気がするが、クラスメイトが苦しんでいるのを治す力を得ているのに、一切名乗り出ずに完全に無視をする。そんな者が回復術のレベル7とは情けないとは思わないのか?」


 アズロン男爵としては、最近他の領地のダンジョンが異常状態にある事は理解しており、ジニアスからある程度事情……と言っても、今回豪商マハームの娘であるリンを救出した時に得た情報も加味した結果の推測になるのだが、ブレイドや特にネルを恐れている魔物がダンジョン内部で何かをしているのではないかと聞いていたので、その関連で何か助言を求められるのかと思って回答を準備していたのだが、全く違う内容を厳しく突っ込まれてしまう。


「アズロン男爵も相当小さな事を根に持つのですね。少々学園で軋轢があったとは聞いていますが、その程度で我が息子達の癒しを拒絶するなど貴族として如何なものかと思いますが?」


 未だ回答の権利を得ていないアズロンなので、その隙にダイマールはここぞとばかりに追撃する。


「フム、ダイマールの言う事、尤もだな。アズロンはもう少し態度を改めよ!」


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