(12)球技大会(2)
ほぼ全てのこの場の面々が俺の事をニヤニヤしながら見ている中でただ一人、スミナだけは射殺さんばかりに三人の公爵家嫡男達を睨みつけていた。
明らかに、俺対あの三人として始めからこの状況になるように狙っていたのだろう。
この時点で俺は被っていた猫を少しだけ外す事にした。
そもそも教師すら当てにならず、このような横暴が許される時点でこんな学園はクソくらえだ。
「そうですか、お待たせして申し訳ありませんねぇ。平民なもので貴族様と時間の進みが違うのですよ」
「あん?お前、何口答えしてるんだよ?」
当然真っ先にブチ切れるヒムロだが、もう俺には関係ない。
今まで彼らに何を言われても黙っており、そんな俺が反撃をすると言う有得ない事態が起きたからだろうか、スミナも驚きと不安が入り混じったような不思議な表情で俺を見ている。
フフフ、その表情も可愛いな。
おっと、見とれている場合じゃない。先ずは……
「まぁ良いじゃないですか。さっさと始めましょう。そうそう、お互い怪我をしてもただの事故。あなた方もそれを望んでいるのでしょう?僕も同意しますよ。でも、何か問題があるかもしれませんので、今ここで正式な書状にしてもらえませんか?」
「この野郎、平民如きが俺達に指図するのかよ?」
「いいえ、ヒムロ落ち着きましょうよ。むしろ願ってもない提案ですよ」
「そうそう。身の程知らずが、死んでも文句を言わないって言っているんだぜ?あいつのボロボロになった体を母親に投げつけても文句を言われないんだぜ?」
自分達が絶対の強者だと疑っていない連中の態度は相変わらずだ。
ちょっと許せない下劣な表現での煽りもあったのだが、俺は何とか堪える。
痣の中の二体も、これからあいつ等を叩きのめせると知っているので比較的おとなしく、今日は過剰に意識を向けなくて済みそうだ。
「これで良いだろう、平民!」
「ありがとうございます」
難なく書状を受け取った俺は、大事にその書状を懐にしまう。
これは公的な書状であり、たとえ身分差があったとしても内容を覆す事はできないのだ。
コレを破ってしまうと、貴族としての最低の矜持まで捨てる事になり信頼を失うので、皇族を始めとして決して破る事は無い。
逆に言うと、そう簡単にこのような公的な書状契約が締結される事は無い。
今回は軽く煽って見せたら、簡単にこちらの手のひらの上で転がされてくれた。
あいつ等にとって、この契約が自分達に有利に働くと一切疑っていないためにできた事だな。
よしよし、今までの俺の我慢に我慢を重ねた行動がここに生きてきている。
「では、私が審判をしましょう」
こいつ、何を今更審判なんて必要になっていると思うんだよ!
既に試合は始まっていて、俺の陣地の連中は球に当たったんだろうが!
この女、担任のロンドルは、審判と言う立場を利用して俺を不利にしてこの三人に恩を売ろうとしているのが見え見えだ。
「先生、審判は不要です。そもそも既に試合は始まっていたのですよね?今更ではないですか?」
「えっ……?」
こいつも、まさか俺が反撃するとは思っていなかったのだろうな。
間抜け面しているが、もう関係ない……ハイハイ、さようなら!
「じゃあ始めましょうか?」
「随分と強気だな。これから体感する地獄の恐怖に心が壊れたか?」
「前にも言いましたが、手加減はしませんよ」
「ぶち殺してやる!」
おいおい、随分と直接的になってきたな。
今までとは全く違う俺の態度が相当癪に障ったようだが、地獄を見るのはお前等だと言う事を嫌と言う程わからせてやる。
俺は誰もいない陣地に入り、あいつ等と最も距離が取れる位置に陣取る。
「行くぜ、平民、くたばれ!!」
球は当然あいつらが持っており、攻撃はあいつ等からになっている。
本来のルールでは最後に当てられた者が俺の味方であるべき者のはずなので、球は俺が持つべきなのだが……この程度は想定しているので、細かい事に対して特に文句を言うつもりはない。
あの三バカは、公爵家嫡男と言うご立派な肩書に反して異常に小さい奴らだとは思うがな。




