(118)スミナの帰宅(3)
歓喜しつつも気力で気持ちを抑えて、努めて冷静な態度でアズロンの言葉を受けたソルバルドは、環境が変わった事もあって休んでもらう配慮から即座にジョイナスに先導されて食堂から出て行った。
「ふぅ、スミナ。就業体験とは、優秀な人材のスカウトの場だったのかい?」
ここからはいつも通りのアズロン男爵に戻り、一応余計な事だとは思いつつもしっかりとソルバルドを鑑定していたヒューレットパーティーの一員であるエリンが、ソルバルドが自ら公表していた情報に齟齬がない事を伝えている。
「……で、ジニアス君が問題ないと判断しているので余計な事とは持ったけど、一応鑑定した結果に齟齬は無かったわ。確かに実力者である事は間違いないけれど、あれで暗部見習いならば本当の暗部は相当ね。やはり侮れないわよ、ダイマール」
詳細を知る由も無いので、暗部見習いの立場であるソルバルドの強さをしっかりと把握したエリンが、本隊とも言える暗部に正式に任命されている人材の強さを勝手に想像している。
一度ダイマール公爵家所属の暗部であるシャウランを目撃しているのだが、その時にはジニアス、そして同行しているブレイドに意識の大半を持って行かれている上、入隊したての人物かもしれないので本当の暗部の戦力を推し量る術がない。
そもそも暗部は表に出てくる存在ではないのだから勝手な想像が膨らむのは誰でも同じで、そこも敵対する貴族への牽制になっている。
「ま、でも俺達がいるしジニアス君達もいる以上、あの狸が何をしようが問題ねーよ、エリン」
「ま、それもそうね。たまにはチャネルも納得できる事を言うのね」
そんなこんなでその日は終わると思ったのだが、部屋まで案内されていたはずのソルバルドが食堂に戻ってきた。
「ん?どうしたソルバルド?」
慌てて主の面目を保つための言葉に変えたアズロン男爵の問いに対し、しっかりと跪いてこう告げる。
「今日、スミナ様は教会で癒しの作業を行われておりました。もし明日も教会に向かわれるのであれば、私の痕跡を探そうとしているダイマール側の暗部の標的になる可能性が捨てきれません。何卒この私に護衛の任をお与えください」
直接自分を癒し、そして忠誠に値する主の存在を与えてくれた大恩人であるスミナに対し、自分の不始末から命を狙われて怪我でもされては悔やみきれないとの思いからの申し出だったのだが……
「あぁ、それならば確かに数日は教会で行動するみたいだが、常にネルさんと霞狐が同行するから、ソルバルドはこの屋敷の把握、そして体調を万全に戻す事を優先してもらいたい」
主の言う事は絶対でありダイマールの時とは異なり否を唱えるつもりはないのだが、一瞬心配になり顔を上げてスミナの方を見てしまったソルバルドは、その近くにいる霞狐、そしてネルの存在を確認すると、安堵する。
冷静に考えれば、どう見ても自分よりもはるかに格上の存在が複数護衛についているのだから、逆に自分の我儘で同行しては足を引っ張る事になりかねないと冷静に判断する。
「温情、ありがたく頂戴します!」
再びこの場から消えるソルバルドを見て、ニヤニヤしながらパインがチャネルに向かって口撃する。
「見た?聞いた?チャネル。アレこそが忠臣って感じよね。なんだか落ち着いて状況も把握しているみたいだし、頼りになる雰囲気があるわよね。私の情報では、どっかのパーティーに猪突猛進型の男がいるみたいでさ?無駄にレベル9の攻撃系統なんだけど、爪の垢でも飲んだ方が良いと思うんだよね。どう思う?」
「お前なー!どう考えてもレベル9の攻撃系統なんざ、俺かドノロバ、ジリュウしかいねーんだから、あからさますぎるだろう!それに、随分と偉そうに言っているけどよ?俺は見逃しちゃいねーぜ!前回あのふざけた狸がここに来た時、俺が一目散に出て行ったがよ?お前等、腰が中途半端に浮きかかっていただろう?」
まさか、以前ダイマール公爵がアズロン男爵邸に煽りに来た時に、ヒューレットを含むパーティー全員がブチ切れてしまった事を把握されているとは思っていなかったパイン。
「え?何の事かな。私もヒューレットが突撃しそうになったのに、ジニアス君に平静を装ってチャネルを止めるように言っていたのは気が付いたけど?」
突然話を振られながらも、言われている事は紛れもない事実なので思いがけずに少々狼狽えるヒューレット。
ここから暴露大会に発展しつつ、誰しもが楽しく過ごす事が出来ている。
「しかし、随分と領地も安定しましたね、アズロンさん」
あまりにも情けない話をこの場の全員に聞かれ続けるのは恥ずかしいので、突然だが真面目そうな話をアズロン男爵に振るヒューレット。
そんな思惑をよそに、他のメンバーは未だにブーブー言いながら暴露をし続けているのが悲しいのだが、苦笑いしつつもその会話に乗るアズロン。
「おかげさまで、ヒューレットさんや皆さん、ジニアス君、ブレイドさん、ネルさん達の助力があったればこそですよ!」
こうして一日は過ぎ、翌日から数日はネルと霞狐を伴って継続して教会に就業体験に出向いているスミナだが、想定通りに継続してソルバルドの行方を追っている暗部が周辺に潜んでいた。
護衛の立場で同行しているネルと霞狐の存在のおかげで脅威とはなり得ないし、敢えてその存在について伝える事はしないネルの判断もあって、スミナは癒しに集中する事が出来ている。
警戒しながら遠くの位置で監視している以上はスミナの癒しの力を直接的に見る事は出来ないが、教会に向かっている者の怪我の具合、そして出てきている者の状態を把握したダイマール公爵家の暗部は有り得ない回復状態に驚いて、一般人を装ってその人物と接触を図った。




