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(109)学園イベント(卒業旅行7)

 アズロン男爵から事情を聞いたスミナとジニアス。


 特にジニアスはスミナ以外の生徒達に興味が無く、絡んでくる面倒な公爵家嫡男程度しか真面に名前と顔が一致しない状況であったので、攫われた人物がリンと言われても良くわからなかったのだが、その名前を聞いたときのスミナの悲しそうな表情を見逃す事は無かった。


「アズロンさんはああ言っているし尤もだとは思うけど、クラスメイトを見殺しにするとモヤモヤが残る事を気にして態々伝えてくれたんだと思うよ?だから、もしスミナが気になるのであれば、状況を確認して必要に応じて身の安全だけは確保できるようにする事もできるけど?」


「……何時行方不明になったのかはわからないけれど、聞いた話から想像すると絶対に昨日今日の話じゃないと思うの。その間、独りぼっち。正直リンちゃんには思う所はあるけれど、早く無事を確認してあげたいな」


 想像通りの答えが返ってきたので最も手早く打てる手を打つ事にしたジニアスは、どの道こうなる事は予想されているだろうと思っているので、万が一の回復の処理が出来るネルを派遣すると共に、アズロンに事情を説明する。


「……と言う事で、完全な救出まではしませんが、安全の確保だけはしておこうかと思い、ネルを派遣しました」


「フフ、そうなると思っていたよ。でも、あの学園、担任達には少々お灸が必要だから、それ以上は様子を見てもらえると助かるよ」


 互いに理解していた思惑を確認するだけなので時間は必要とせず、一応現時点で無事かどうかだけは早く知りたいと思っているジニアス。


『ジニアス様。ネルより連絡がありまして、対象の保護を完了したとの事です』


 ネルは操作系統の力を持っているので眷属もおり、飛翔型の魔獣をアズロン男爵亭に飛ばして、その気配を素早く察知したブレイドが伝えられた情報を主であるジニアスに伝えると、その言葉をジニアスはスミナにそのまま伝達する。


 あからさまにホッとした表情を見せたスミナに対してやはり優しい女性なのだなと思いつつも、事前に決めていた通りにこれ以上の事はせずに命を守る事だけをするに留めているのだが、そこはスミナも納得済みなので敢えて説明する事は無い。


 さっさとリンの安全を守る事が出来てその情報をアズロン男爵にも連絡した頃、未だに学園に戻る事が出来ていないロンドルだが、やがて学園に到着すると、ダイマール公爵に対して助力を願い出て無下も無く断られ肩を落としたリンの父であるマハームが学園長の部屋にいた。


 責任、そして今後の迅速な対応について話をしに来ているのであり、決してロンドルがアズロン男爵に言われた事を聞くために来たのではないのだが、ロンドルとしては丁度良く一気に説明が出来る事になり、言われた事をそのまま説明する。


 マハームは、まさか自分の娘が陰湿な虐めのような事に加担していた事には驚いたのだが、今は命の危険があるのでそれどころではなく、アズロン男爵への謝罪と報酬については即呑むつもりで、半ば強引に学園長と担任のロンドルを引き連れて再びアズロン男爵邸に向かう。


 霞狐による要塞並みの防御力、そして攻撃力を誇るアズロン男爵邸なので、彼らの訪問については即座に邸宅の中にいるメンバーに事前に通知される。


「アズロンさん。今回は担任、学園長、そして少し前にこちらに来たリンの父親が間もなく到着するようです」


「そう来るだろうね。ありがとう、ジニアス君。時間的にもメンバー的にもしっかりと謝罪と報酬を提示する為に来ていると思うので、少しは罰になったのかな?」


 呑気な話をしている内に、執事によってアズロン男爵、スミナ、ジニアス、そして顕現しているブレイドとヒラヒラした服を着させられている霞狐一体が待つ部屋に三人が入ってくる。


 やはり霞狐の存在とブレイドの存在は有名になっているので、感覚がおかしくなっているロンドルの態度はあまり変わらないが、学園長であるチャリト、そしてリンの父親であるマハームも相当腰が引けている。


「で、しっかりと状況を把握してこられたと言う事で宜しいですか?」


 普段は絶対にこのような事はしないのだが、今回アズロン男爵は怒っているぞと言う態度を明確に示す為に一切立ち上がらず、そして来訪者三人に対して椅子を勧める事も無い。


 この脅し、爵位が低いとは言え貴族であり、且つ平民ながらも有り得ない戦力を持っているジニアス、更には霞狐を前にして怯えるばかりの学園長チャリトと、この場を仕切る能力がないロンドルには良く効いたが、我が子の命がかかっているマハームは必死だ。


「こ、この度は、スミナさん、そしてジニアスさんに対する我が娘の対応、親として深く反省しております。ですが、現状娘は非常に厳しい状況にいる事は明らかです。レベル9の冒険者達の目を掻い潜って攫えるような力を持つ存在があの場にいたのですから」


 話している内にリンの現状が気になり、そして厳しい現実を改めて認識してしまい言葉に詰まっているマハームだが、ここで甘い顔をしてしまっては今迄厳しい対応をしていた事が無になるので、敢えて続きを黙って待っているアズロン。


「そ、それで……こんな事をお願いできる立場ではない事は重々承知の上で、伏してお願い申し上げます。これだけの戦力、そしてヒューレット様一行との専属契約までされているアズロン男爵に何卒助力いただきたくお願いいたします!無事にリンが戻りましたら、私の教育の不手際については当人と共に改めて深く謝罪させて頂きます」


 マハームの言葉から、あの場所に相当危険な魔獣か魔物が存在している可能性については分かっていると理解したアズロン男爵は、それ程危険な場所において無償で何かをさせるような事を言って来るのであれば残念ながら一切手を引くべきだと思っているのだが、そこは豪商と言われる男だからだろうか、しっかりとその部分を提示してきた。


「つきましては、今回ご助力いただく事に関してと今までのリンの情けない態度のお詫び、別に色々とお支払いさせて頂きたく考えております」


 アズロンとしては実際に金銭を受け取ろうとは思っておらず、しっかりと報酬について話が出来た上で納得できる謝罪があれば良いと考えていたので、頭を下げてこの言葉を伝えてきたマハームには見えないながらも、この場にいるスミナとジニアスとアイコンタクトをとる。


 事前にアズロンの方針を聞いていた二人は、これ以上はと言う思いもあり頷いていた。


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