(104)学園イベント(卒業旅行2)
ヒムロ達はクラス中に堂々と情報を開示しているので嫌でも目に入るジニアスは、痣にいるネルとブレイドにその情報を与えて場所が正しいのか聞いたところ、相当正確な情報であるとの回答を得る。
どれほどクズであろうが流石は帝国の最上位貴族の集まりであると思わせる程の情報収集能力なので、それであれば何故もっと早くにバカ息子の為に情報を仕入れなかったのかと言う疑問があるジニアスだが、恐らくその場所に行っても最早癒しを与える存在がない事に気が付いているのだろうと勝手に想像している。
実際の所、このクラスで事実を知る事の出来るジニアスとスミナは別にして、リンの話を聞かなければ誰一人として癒しの森が存在するなどとは思っていなかったからだが……
「では、このクラスの目的地は伝説とも言える“癒しの森”に決定しました。一応学園長の許可をとってからになりますが、この距離であれば間違いなく承認されると思います。道中は……途中の街道は良いですが、街道から外れる場所に関してはしっかりとした護衛を雇う事になるのかもしれませんね」
ネルやブレイドの活動拠点であった為に目立つ場所にある訳ではなく、街道から相当離れた位置にある以上は魔物や魔獣、獣に襲われる可能性があるので護衛を連れて目的地に向かう必要があるのだが、曖昧な表現で説明している日和見ロンドル。
少々危険が伴う事も、力を得た自分達にしてみれば良い思い出のスパイスになるとクラス中は盛り上がり、ジニアスとスミナもネルとブレイドが地上に出て拠点としていた場所を見られる事に対して喜んでいるのだが、見られる側の二人の魔物は少々恥ずかしい思いをしているので、他のクラスメイトには聞こえないようにジニアスがスミナに通訳をしながら四人で話をしていた。
この時点で担任のロンドルは、有り得ない強さを持っている二体の魔物を従えているジニアスと霞狐を従えているスミナが同行する時点で魔獣やら獣やらは近接してこないだろうと言う思いがあり、護衛を雇うまではしなくても良いと判断していた。
「先生、俺とスミナは欠席します。なので、気にせず他のメンバーで行ってきてください」
突然立ち上がり大声で欠席を宣言するジニアスだが、これはネルとブレイド、そしてスミナと話し合って決めた事であり、気心知れた四人でさっさと行ってしまった方が楽しいと言う思いと、ロンドルが考えている事はお見通しなので、今までされてきた事を思えば攻撃する必要性は感じないまでも態々守ってやりたいとも思えないので、個別行動をとる事にした。
正直クラスメイトや三バカとしてもジニアス達がいない方が恐怖を感じない事は事実であるので、この発言を聞いて誰ともなく表情が緩んでいるのが実態であり、残念な事に発案者であるリンもこの中に含まれる。
以前はスミナと仲良く話していたリンだが、三バカの圧力に負けてスミナを無視するようになり、何時しかそれが当たり前と言わんばかりの態度をとるようになってしまったので、既に回復しようのない大きな溝が出来てしまった。
「え?そ、そうですか。わかりました」
護衛の費用を浮かせて少しでも学園長からの評価を上げようと思っていた相変らず自分勝手なロンドルは、思惑が外れて少々残念がるのだが、同行する、寧ろ行く気満々の公爵家嫡男三人がいるので、以前の様にレベル9と言う別格の力を持つ冒険者を私費で雇ってくれるのではないかと言う期待がある。
その期待通り、ジニアス達が同行しない上に怪我を治せる可能性が見えてきたので自ら護衛を手配すると言い切るヒムロと、その言葉を聞いて間違いなく行先は癒しの森になったと確信するロンドルだ。
「では、間違いなく学園長の許可は出ますので、具体的な日程は別途連絡します。恐らく数日後には出発になるでしょうから、各自野営の準備を整えてください」
公平を謳ってはいるのだが、この学園に来ている生徒であれば収納袋の一つは手に入れる事はできる立場の者ばかりであり、夫々が期待に満ちた表情で荷物の相談や癒しの森に到着した後の話をしている。
「じゃあスミナ、俺達は帰ってからアズロンさんに声をかけて行こうか」
「そうですね!」
あっさりと教室を後にした二人を確認した後で、三バカは癒される可能性、期待が膨れ上がった事から、今回の卒業旅行に対して公爵家として全力で援助すると確約し、異常な盛り上がりを見せる。
「これで、これで!今度こそ元に戻れるかもしれないのか。頼むぞ、癒しの森!」
その日は卒業旅行の話で相当盛り上がったのでクラスでは夕方までこの話は続いていたのだが、その頃にはジニアスとスミナは癒しの森と呼ばれているネルとブレイドの元拠点に到着してしまっている。
溢れんばかりの身体能力に物を言わせて動いただけで、数日必要な距離を数時間で到着してしまった。
「ジニアス君。本当に能力って凄いって思うの。もちろんネルさんの助力も相当あったおかげだけど、まさか私がこれほど早く動けるなんて!」
感動しているスミナだが冷静に状況を分析できる頭脳も持ち合わせているので、本人が希望したわけではないが、相当レベルの高い冒険者の動きを今迄さんざん見てきた事もあり、レベル7でこれほどの力を出せるわけがないとは理解できている上での発言だ。
「……ネルが、スミナの努力の成果だと言っているよ」
「フフ、ネルさん、ありがとうございます」
既に顕現している二体と共に移動していたので、ジニアスの通訳を介してではあるが和やかに会話が進んで拠点に到着する。
「あ!確かに何か痕跡がりますね!」
操作系統を持つネルは当時拠点を離れる際に能力を使って全てを収納済みの為に花は無く、自生している雑草が見えるだけだが、当時この周辺に生息する魔獣達には有り得ない程の恐怖を与えていた影響か、畑自体は荒らされるような事は無く今なお痕跡を残していた。
「これで、クラスの皆もこの場所が癒しの森である事は理解してもらえますよね?」
この痕跡を見て、どこまでも優しいスミナはこんな感想を口にしつつ、当時のネル達の思い出話を聞きながら何も無い周囲を散策する。




