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(103)学園イベント(卒業旅行1)

 学園祭が終了した翌日の朝のクラスでは、今まで通りに大人しいままの三バカが自席に座っている一方、主に回復系統と補助系統を持つ生徒達が厳しくロンドルを見ている。


「皆さん、学園祭はしっかりと楽しめましたでしょうか?」


 この環境下で平気でこのような事を言える図太さは見習わなくてはならないと思っているジニアスの視線を気にする事なく、ロンドルの話は続く。


「今回学園祭を十分楽しめなかった方でも、まだイベントは残っていますから安心してください。次は、間もなく卒業する皆さんのため、皆さんの為だけに企画されている卒業旅行になります!」


 かなり機嫌が悪い回復・補助両系統の生徒達も、もう何をどうしても時間は巻き戻せないと気持ちを切り替えたのか、次なるイベントに意識を向け始める。


「行先については距離もあるのである程度の制限は出来てしまいますが、先ずは皆さんの希望を聞いて、条件に合致すればその中から選択できます!」


「え?じゃあ、私は癒しの森に行きたいです!」


 今回の学園祭での被害者とも言える回復系統を持つ内の一人、豪商の娘であるリンが真っ先に提案するのだが、その行先である“癒しの森”と聞いた瞬間に周囲からは否定的な声が上がる。


「それって、噂話でしか聞こえてこない場所だろう?」


「そうそう、レベル9でも治せない様な怪我や病を治せるって言う……まぁ、そう言う希望、願望から生まれた御伽話でしょう?」


 最後の生徒は、三人の公爵家嫡男をチラッと見ながら言い辛そうに話を終える。


 公爵家ともなればその程度の噂はもちろん知っているのだが、この生徒が言った通りに御伽話と理解しているので調査にそれ程力を入れているわけではなく、今の所は“癒しの森”についての詳細情報を仕入れる事が出来ていないので、三人共に特にこの話に期待をしているわけではなく無反応だ。


「でも、お父さんの知り合いが昔大怪我を治してもらったって言っていたし、私のお母さんも小さい頃には歩けない程衰弱していたのを治してもらったって聞いたので、絶対に癒しの森はあります!」


 まさかの体験談まで出てくるとは思っていなかったので、三バカを始めとしてクラスのほぼ全員がリンの言葉に引き込まれる。


 ほぼ……と言うのは例外がいる訳で、ネルによる教えで効率よく力を使え、コレは内緒だがネルの力によって当人の力を底上げ済みの為に上限レベル以上の力を出せるスミナ、そして全てレベル10であるジニアスが該当する。


「ジニアス君……その場所って、実は私も聞いた事があるけれど、相当前から噂になっているの。ひょっとして、ネルさんやブレイドさんが絡んでいたりしないかしら?」


 まさにジニアスが思っていた事をズバリ言われたので、痣の中にいる二人に事情を聞くジニアスは……


「スミナ……どうやら正解みたいだよ。ダンジョンで生まれた二人が地上で一時期生活をしていた場所に花畑を作ったみたいだけど、そこに迷い込んだ者達の一部、特に花を褒めてくれた人物に対してのみ不調や怪我があった場合に癒していたみたい」


 まさかその中の一人がクラスメイトの母親だとは思っていなかったのはネルも同じのようで、直接的ではないにしろ自分が癒した者の関係者が絶対の主であるジニアスに対して嫌がらせの一端を担っていた事に対して相当怒っているのだが、ジニアスはもう何も気にしていないので軽く諫め、ネルは大人しくなる。


「じゃあ、今更行ってもなにも無いと言う事、かな?」


「そうなるね。まぁ、荒らされていなければ花畑の痕跡は残っている可能性があるかもしれない、ってところかな?」


 癒しの森に関する話で盛り上がり始めているクラスメイトをよそに、モノの数秒で真実に辿り着いてしまい冷静な二人。


「でも、俺としては実母を癒してくれた場所であれば行って見たいと思う気持ちもわかるな」


 自らの母親が同じ状況であったならば自分も同じ行動をとるだろうと思っているジニアスに共感したスミナは、クラスの卒業旅行の行き先が癒しの森になる事については異を一切唱える事は無かった。


「でも、ここからどれくらい距離が……って、馬車で数日と街道から外れて徒歩で数日みたいだけど、正確な場所なんてリンがわかるのかな?」


 卒業旅行は日数が決まっている関係上距離の制約があるので、そこの所を気にしたジニアスが口にした瞬間ネルから回答を得たのだが、最早伝承と言っても良い癒しの森……ネルとブレイドの地上での元拠点にしっかりと辿り着けるのか不安になる。


「そこは不安だよね、ジニアス君。フフ、お花畑の痕跡がなければ周囲の森と何も変わりがないので、目的地についても到着したかわからないし、どうするのかな?」


 そうこうしている内に目的地はあっという間に決定し、リンが翌日に場所を父親から聞いて発表する事になったのだが、もちろん癒しと聞いて黙っている三バカではなく、各家に帰ってこの話をして公爵家の力をフルに使って調査を行った。


「皆、本当にごめんなさい。大体の場所は分かるけれど、そこが癒しの森と呼ばれている場所か、判別がつき辛くなっているみたいなの」


 翌朝リンが父親から聞いた情報を申し訳なさそうに伝えて生徒達が落胆したように見えたのだが、多少不自由な体を起こして気合を入れる三人の男がいた。


「いや、俺の、俺達の力でしっかりとその場所は把握する事が出来た。寧ろそのきっかけを作ってくれたリンに、俺達から礼を伝えてやろう」


 以前と比べると相当大人しくなっているのだが、未だに相当上から目線なのは変わる事のないヒムロがお礼とは言えない形でお礼を伝え、その後目的地について調べ上げた情報を担任の日和見ロンドルを始めとしたクラスメイトに開示する。


「スミナ、流石は公爵の力だ。あの場所であっているみたいだよ」


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