(102)学園イベント(学園祭3)
このクラスの誰も、トステムや教師陣すら知らない事実だが、レベル7の回復系統を持つスミナはネルの指導によって効率的に術を行使できるようになっているので、実際に他の術者と比較するとレベルでは説明できない力を行使できるようになっている。
一部ネルが作成した新たな術による影響もあるのだが、そこを踏まえても異常に効率の良い、所謂魔力を術に変換するときの損失がない発動を行えるようになっているので、スミナが三バカに術を行使すればほぼ完全に回復させる事は可能になっている。
現状としてはジニアスやスミナからは当然助力を断られているので、三バカが回復する事は無いのだが。
一人、また一人と意識を失っているので、生徒の立場としては全く練度を上げるような講義を聞く訳でも術の発動に対するアドバイスを受ける訳でもなく、無駄に魔力を無くして意識を飛ばすだけと言う結果になっている。
「……これ以上は無駄ですね」
トステムが正確に現状を把握し、術の影響が最大限であった時でも三人に一切の変化がなかった事から、これ以上は自分の魔力を無駄に消費するだけだと判断して術の行使を中断する。
この回復術に一縷の望みをかけていた三バカは、再び現実を突きつけられて失意のままトステムと共に教室を去って行き、残されたのは意識のない生徒達とその様子を黙って見ているロンドルを含めた教師数人。
「では、私達も食事に行きましょうか?」
ロンドルは公爵家への恩を売る事に失敗してしまったので、使えない生徒達と言う意識がある事からこの場を放置して教室から他の教師と共に出て行き、暫くしてから食事を終えた他の系統の力を持つ者達が教室に戻り、この惨状を目にして慌てている。
楽しく充実した活動をしていたのに、食事を終えて気合を新たに教室に戻ってきてみれば、回復、補助両系統の面々が意識を失って倒れており、その面々を集合させていた教師ロンドルの姿が見えないのだから、慌てて職員室に駆け込む。
「先生!先生!大変です。補助と回復を持つメンバーが全員意識を失っています!」
「あら?まだ意識が戻らないのですか?でも大丈夫ですよ。魔力が枯渇しただけですから、自然回復している内に意識は戻りますから」
焦っている生徒とは裏腹に、食事をゆっくりと食べているロンドルは自らの知識を披露するのだが、言われた生徒としては非常に微妙な感情に襲われる。
何が起きたかはわからないが、誰がどう考えても教師であるロンドルが何かをして二系統のクラスメイトが意識を失っているのに当人は平然と職員室で食事をしているので、色々と言いたい事はあるのだが、一先ずクラスの活動、思い出を作る為の活動に影響が無いのかを聞く。
「せ、先生……午後の癒しの活動はどうなるのですか?」
「あぁ、それですか。残念ですが自然回復と言っても緩やかですから、午後に術を行使する……できる人はいないでしょうね」
完全に他人事のように伝えてきたロンドルの答えを聞いて肩を落として教室に戻った生徒は、教室に戻って驚いている他のクラスメイトに事情を説明しつつも倒れている面々を移動させ、午後の癒しについては中止せざるを得ないと判断した。
「おや?このクラスの出し物で痛みが取れたと喜んでいたのを聞いたのだけど」
「僕の怪我、治してください!」
午前中に回復させた人々の噂を聞いてきてくれた人に対して、回復系統の力を持たない生徒では対応する事が出来ずに本当に申し訳なさそうに断りと謝罪の言葉を出そうとした所……
「あぁ、やっぱり問題が起きたか」
「予想通りと言えば予想通りですよね、ジニアス君」
クラスメイトとしては恐怖の対象になっているジニアスとスミナが戻ってきた。
二人は、学園を去って行くトステムと失意の表情で馬車に乗る三バカを目撃したので、確実にあのクラスで何かがあったと判断して戻ってきていた。
ジニアスの力が有れば現状を把握する事は容易であり……生徒やロンドル達はどうでも良いが期待と共にこの場を訪れてきた第三者を裏切る事はしたくないので、止む無く相当力を抑えて回復術を行う事を決意したのだが、ジニアスが術を行使するのは憚られたので、スミナが矢面に立つ。
「ジニアス君。ここは私の実力の見せ所……で良いのよね?」
輝く笑顔のスミナを見て、頬が緩みながらもサポートするべく訪問者を列にして一人ずつ案内し始めるジニアスと、これでクラスの出し物は継続できると喜びつつもジニアス達に少々怯えている生徒達。
何故かロンドルを始めとした教師達は、最も重要な回復イベントが失敗に終わった失意からか安全を担保すると言う作業すら行わずに職員室でダラダラしており、その間にスミナとジニアスの活躍もあって癒しは的確に行われる。
流石にネルの指導をしっかりと受け魔力変換効率が異常に上昇しているだけあって、事前に相談していた通りに過剰な回復を行う事は無いながらも一人で全ての癒しを行使して尚、魔力枯渇にはならずに元気な状態を維持しているスミナ。
その雰囲気、そして見た目から癒しを受けた人の中にはスミナを聖女と呼ぶ人もいた中で、イベントは終了する。
ロンドルの言っていた通りに、過剰に術を行使して意識を飛ばしていた面々は学園祭終了直前に意識を取り戻し始めていたので、午後は全く活動する事も出来ずにその補填にジニアスとスミナが入った事から、他のクラスメイトも自分だけ抜けて他のクラスの催し物を見る事などできる訳がなく……
完全に予定が狂ったまま、学園生活最後の学園祭と言うイベントは終了してしまった。
唯一の救いは、一部の面々は午前中だけの活動となってしまったのだが、活動自体は非常に充実して喜びを感じる事が出来ていた事だろうか。




