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「ジニアス君。なんだか最近帝都の雰囲気が良くなったと思わない?」


 とある日、何時もの様にヨルダン帝国の帝都にある教会で作業を終えたスミナが、最近のヨルダン帝国の環境変化について感想を述べている。


 既に帝都にあるアズロン男爵邸は人が住める状態ではなくなっているが、今のスミナであれば日帰りで領地と帝都を往復する事など容易く、今尚教会で癒しの作業を継続して実施している。


 一方のジニアスは、当初スミナの安全確保の為に陰ながら護衛として魔獣を手配していたのだが、今はスミナの言う通りに国力が大きく減少している事も有って貴族を含めた面々の羽振りは非常に悪いが、逆に言えば権力や財力を笠に尊大な態度を取れなくなっているので民にしてみれば安定していると言える状況の為、過剰な助力は既に控えている。


「そうだね。スミナも安心して作業が行えるので、良いんじゃない?」


 こうなると、帝都で干されていながらもシラバス王国からの助力もあって反映している豪商マハームは国内でも商売ができるようになっている。


 その理由は貴族達の見えない締め付けが緩んだことに加え、別の理由もあった。


 皇帝シノバルやダイマール公爵は自らの懐を満足する為に増税を即座に検討したのだが、そこに待ったをかけたのが宰相であり、仮にそのような暴挙をジニアス側に知られたらどうなるのか・・・と言われ、現状を維持せざるを得ないと眉をしかめていた。


 おかげで、帝都にあるジニアスが良く利用していた店もジニアスの継続的な援助もあって繁盛しており、周囲の民も普通に生活している。


 例外と言えば、皇帝や三大公爵を含む貴族とその関係者であり、日々金策に走りかつての贅沢などできる訳も無く、時折恐怖の対象であるジニアスやスミナが帝都に来たと情報を得ては息をひそめて隠れている。


 三バカであるヒムロ、ビルマス、レグザに至っては邸宅から出てくる頻度も激減しており、最早使用人達に当たり散らすほどの気力も残っていなかった。


 そもそも公爵家としての立ち位置も不安定になっているので使用人も過去ほどおらずにさびれ始めており、貴族としての体面をとれなくなるのもそう遠くないだろう。


 レベル9の冒険者達は過去の貯えの内ジニアス達に知られずに手に入れられる分だけを持ち、今はその存在を隠蔽するかのように非常に慎ましく生活している。


 特段依頼を受注するわけでもなく、普通の人として貯蓄を崩しながら一町民としてどこかの町に溶け込んでいるので、今後ジニアスだけではなく周囲の民に対しても脅威になる可能性は絶対にない。


 過去に学園で三バカからされた事も含めて一切の興味が無くなっているジニアスとスミナは、こうして日々一冒険者と教会の職員として活動している。


 領地に戻れば史上最強のパーティーと言われているヒューレットパーティーもいるし、隣接しているシラバス王国とは友好的な関係であり外敵は存在していない。


 正に順風満帆と言う言葉が相応しい状況で、日々の生活を謳歌している。


「ねぇ、ジニアス君?私達、あの学園で会えていなかったらどうなっていたかな?」


 突然スミナが“たられば”の質問をしてきたので、確かにどうなったのだろうかと少し真剣に考え始めたジニアス。


 恐らく・・・自分がチャリト学園に行かずに母親と行動し続けていた場合、自らの能力について変化はなく何れは全てレベル10の力を入手していただろうが、アズロン男爵やヒューレットパーティーに対しての接触はなかったと考えた。


 その結果・・・恐らくスミナの母親はダイマール公爵の手にかかるかそのまま死亡し、どちらに転んでもスミナやアズロン男爵家は悲惨な最期を迎えていた可能性が高い。


 更にはシラバス王国の留学生もダンジョンの奥深くで死亡してしまい、最悪は国家間の戦争が起きていた可能性すら否定できない。


 真実を知らなければ自分達の住む町を破壊しに来たシラバス王国と映ってしまうので、最悪の状況であればシラバス王国と懇意にしているヒューレット一行も含めて自らの手で対処してしまった可能性すらある。


 そう考えると、自分とスミナが知り敢えて現状に至っているのは奇跡だと感じているジニアス。


「ウフフフ、きっと今私と同じ事を考えていると思うよ、ジニアス君。今の幸せがあるのも、ジニアス君のおかげだね?」


「い、いや・・・全部が全部そうとは言い切れないと思うし、スミナの努力もあるだろう?そこは認めないとダメじゃないかな?」


「そうだね、ありがとうジニアス君」


 帝都の街並みを歩いている二人は周囲から温かい視線を受ける事が多く、時折話しかけられて何やらお土産を強制的に持たされることも少なくない。


 一応周辺の民は二人が良い感じになっている時は話しかけないと配慮していたのだが、常に甘い雰囲気を出しているので配慮し続けては感謝の気持ちを伝えるタイミングがないと、多少強引に話しかける事が多くなっている。


「あの・・・先日スミナさんに母親を治療して頂きまして、ありがとうございます!コレ、ウチの店で売っている果実です。貰って下さい!」


 今日も今日とて教会での成果なのか一人の少年が話しかけ、強引に美味しそうな果実を押し付けて走り去っていった。


「スミナも頼りにされているのが分かって良かったよ。最近では霞狐に慣れている人が撫でて良いか聞いてくることもあるのかな?」


「そうなの!やっと皆も慣れてもらえたようで、嬉しいわ!」


 何処までも優しく、その心を表すかのように吸い込まれるような笑顔を浮かべたスミナを見て、頬を赤くしながらジニアスはポツリと呟いて今の幸せを噛みしめ・・・そして長く幸せが続く様に祈っていた。


「俺もスミナに敢えて、本当にうれしいよ」


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