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(10)貴族の悪知恵(2)

 普通に活動はするけれど大怪我をしても困るので、明日の球技大会の時には今使える力を少しだけ使わざるを得ないだろうな……悪目立ちする可能性が高いからその後が面倒くさいが、ここまで来てしまったら仕方がない。


 俺の力の一部がばれて鑑定されても、何の能力も得ていない状態であるのは間違いないからな。


 良し、方針は決まったしスミナからの申し出は断る事にしよう。


「いや、大丈夫……です。もし良ければ、そのポーションをこの店に卸して頂けませんでしょうか?それ一本であいつらが買い漁ったポーションを補填できるので、この辺りの皆が助かります」


 今後の行動を決めていたので少し間が開いてしまったが、俺の声を聞いたスミナは何かに気が付いたように周囲を見回す。


 すると、彼女にも状況が理解できたのだろう……周囲で様子を見ている住民達の視線に気が付いたのだ。


 何とも言えない悲しそうな表情でこちらを見ている、少々具合の悪そうな人々の姿を……


「わかりました。私は明日もこのポーションを準備しておきますから、決して無理はしないで下さいね」


 優しい微笑みと共に、彼女は無償でポーションを店に譲渡した。


 その日に希釈されて作られたいつもの品質のポーションは、元となる高品質のポーションを無償で入手できた事もあり、必要な人々に無料で配布されたのだ。


「お~、よく来たな。てっきり来ないかと思ったぜ」


 翌日教室に入ると、あれだけ住民達に迷惑をかけていた事すら気が付いていない、にやにやした表情の三人がこちらを見ており、特にヒムロが勝ち誇った表情でいる。

 何故ここまで勝ち誇れるのか意味が解らないまま、一人で球技大会の準備を行っている内に事実が判明した。


「あの、ジニアス君。ごめんなさい」


 かなり疲れた上に落ち込んだ顔をしたスミナが、俺の前で泣きそうな顔をしながら謝ってくるのだ。


 いつもなら、俺に話しかけているスミナを見れば三人が何かと邪魔をするのだが、今日はニヤニヤとこちらを見ているだけ。


 俺もそこまで突き抜けたバカではないので、この状況はあいつらが作り出した事は理解できる。


「どうしたのですか?落ち着いてください。特に何も謝られる事は有りませんよ、スミナさん」


「ごめんなさい。あの……ポーション、準備できなかったのです。何故か家に帰ると、在庫のポーションが全て買い取られた後だったのです……強制的に!」


 たかだか球技大会の為だけにここまでするのか、とも思わなくもないが、貴族社会とはそう言った見栄にお金をかけるのが普通なのだろうか?


 堅苦しいな。平民の俺には理解できないし、したくもない。


「スミナさん、大丈夫です。ポーションは必要ありませんよ。僕が怪我をしなければ良いのです」


「ブハハハハ、おいおい、随分と面白い言葉が聞こえて来たな。俺達手加減なんてしてやらねーぞ?変な期待すんなよ?平民!」


「そうですね。何か勘違いしているみたいですね」


「あ~、笑いすぎて喉が渇いた」


 相変わらずの三人だが、三人目のビルマスはわざとらしく喉が渇いたと告げると徐にポーションを飲み始めた。


 そう、昨日スミナが持っていた物と全く同じ物を……


 その姿を睨みつけるスミナ。


 彼女も既にこの三人の行いは把握しているのだろうが、爵位の関係から強く言う事はできないのだ。


 あまりこの状況を続けるのは宜しくないと考えた俺は、一旦彼女から離れる事にした。


「スミナさん、重ねて言いますが問題ありませんよ。じゃあ僕は外の準備もありますので、失礼しますね。ありがとうございました」


 誰も手伝う事のない校庭で、一人準備を淡々とこなす俺。


 本当にここの教師連中もダメだ。


 教師ですら俺が一人で準備するのは当たり前のような姿勢になっているのだから、教える師と言う名前は撤回した方が良いと思う。


 このように少し真面目な事を考えて校庭でひたすら準備をしていると、視界の片隅に走り寄って来るスミナの姿が見えた。


 制服ではなく、動きやすい服装に着替えてきたのだろう。


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