(1)ヨルダンと能力の卵(1)“説明回”
ここはヨルダン帝国にある誰もが通える学園、平等を謳っているチャリト学園。
一応建前ではそうなっているが、基本的には皇族や貴族、財を成した豪商の一族、高ランク冒険者の子供などが数多く通っている、やたらと費用が必要になる学園だ。
因みにヨルダン帝国だけではなく、周辺国家も同じような構造になっている場合が多い。
何故こぞってこのような学園に子供を通わせるのかと言うと……各国家の学園により詳細は異なるが、チャリト学園では卒業年度の一年間の間に全員同時にではないが卒業の証として、この世界に存在する外観が異なる能力を与えてくれる卵のうちある程度の力が保証される緑色以上の卵を必ず一つ分け与えられるからだ。
「おいジニアス、今日も俺は忙しいんだ。夕方の掃除、俺の代わりにやっておけよ!」
おっと、色々考えている内に下らない日常が始まった。
子供のような態度を取って来るこいつは、貴族のヒムロ。これでも公爵家の嫡男だ。
ふざけた事を言って来るおかげで、俺は両手の痣に意識が向いて黙り込んでしまう。
「じゃっ、頼んだぜ!お~い、レグザ!お前の言った通り、ジニアスは快く俺のお願いを聞き入れてくれたぜ。これで遊びに行けるな!」
「でしょう?どうせ平民は大した事もしていないのですから、私達の為に掃除くらい自分から引き受けるのが当然ですけれど」
俺が必死に自分の両手にある痣に意識を向けている事で無言になっている間に、勝手に話を進めて、同類のレグザと言う貴族と話しながらさっさと教室を出て行く。
まったくこいつらは、俺がお前らの事を必死で守ってやっているのも知らないで気楽なもんだ。
そう、俺の両手の痣には、俺に付き従っていると思われる魔物が二体隠れている。
なんでこんな事になっているかは俺自身でも一切わからないが。
「はい、今日は皆さんが手に入れる事が出来る“能力の卵”についての授業をします」
そんな事があった翌日の授業は全員が真面目な態度で受ける唯一の授業、能力の卵に関する知識を得るための授業だ。
ヒムロを始めとして煩い貴族連中もこの授業だけは静かに受けるので、担任であるロンドル先生の機嫌も良さそうに見える。
落ち着いた雰囲気の中で、ロンドル先生の授業は進んで行く。
「皆さんが学園から渡される予定の能力の卵は、全てダンジョンと言う地下迷宮から得る事が出来ます……」
先生の説明によると……
能力の卵とは文字通り所有者に能力を与えてくれる卵の事で、その卵の価値は外観で決まっており、価値の高いと言われている外観の卵程レベルの高い系統能力を与えてくれると言われている。
実際に与えられる系統能力は五系統あり、
攻撃系統、防御系統、補助系統、操作系統、回復系統
に分かれていると言う事だ。
「はいっ。と言う事で、もう少しすると皆さんも卵を貰える学年になります。どの系統の能力が与えられるかは本人の希望通りにならない場合が多く、一説によれば最も適した能力が自動で選択されるために本人との希望との間にずれが生じていると言われていますので、どのような系統となっても落ち込まないで下さいね」
「え~、先生!何とか系統を選ぶ方法は無いのですか?私、可愛い獣と触れ合うのが夢なんです。絶対操作系統が欲しいのに」
得られる系統能力に希望があるのであろう女生徒が、先生に藁にも縋る思いで聞いているのだろうか?自分の希望通りの系統能力を得る方法がないかを必死に質問している。
あの子の希望する能力は獣と仲良くなりたいと言っている事から、獣や魔獣を従える魔術が行える能力が必要になる。
その術は“従属魔法”と呼ばれている魔術であり、この魔術を習得するには操作系統の力を卵から得なくてはならない。
「ごめんなさい。今まで同じような質問をしてくる人が沢山いました。ですが、今の時点で希望する系統能力を得る方法は確立されていないのです。残念ながら大陸中の国家全てで同じ事が言えますので結論を言いますと、希望する系統能力を得る方法はありません」
きっぱりと希望がないと言い切るロンドル先生。
少々非情に聞こえるかもしれないが、俺としては無駄に希望を持たせるよりはよっぽど好感が持てる。
だが、そんな雰囲気を平気でぶち壊すバカは何処にでも存在する。
「バカだな。確かに系統能力は選べないと言われているが、そんなのは甘えた考えだ。覚悟がないんだ。強く思えば希望の力が得られるはず!当然俺様は攻撃系統で決まりだ。もう既に俺はお前らと違って攻撃系統の力を得られると確信しているから、攻撃系統に属する術、魔術や体術を学んでいる。どうせお前らは希望する系統を思い浮かべているだけで、ここまではしていないだろう?」
「流石はヒムロ君ですね。そこまで自信満々に行動できるのがヒムロ君の凄い所です」
ヒムロの暴走に対して、公爵嫡男と言う立場があるので褒める事は褒めているが、中身については正しいとは一言も言わないロンドル先生。
他の生徒が誤解しない様にしているのだろうか?
あいつに感化されて、他の生徒が能力を得ていない今の時点で系統に属する術を修練されると、全く別の系統能力になった時に全てが無駄になりクレームが来るかもしれないからな。