二つの村
日本のとある場所で一つの社会実験が行われました。
一つはMMTを基盤とした積極村。もう一つは主流派経済学を基盤とした主流派村です。
公平を期すために二つの村の人口はお互い100人からスタート。それぞれの立地も山と海と川に恵まれた好立地です。
お互い、村内でのみ使える独自通貨を設定。この独自通貨は日本円と両替可能です。
積極村の通貨単位はM。主流派村の通貨単位はSとしました。
「税は財源ではないとか、通貨発行すれば経済成長できるとか、そんな戯言を言う奴らが上手くいくわけがない。我々の勝利と発展は確実だ。」
主流派村の人々は鼻息荒く言いました。
積極村の代表は意に介さずに村人たちに宣言しました。
「とりあえず、この村で生活していくために必要な通貨Mを全員に均等に100万Mずつ配ります。これで当面の生活費には困らないでしょう。もちろん、この100万を元手に商売を始めても良し。貯金しても良し。投資に回しても良し。好きに使ってください。」
主流派村の人々は仰天しました。
「そんなバカな話があるか! なぜそちらは最初から通貨を発行できるんだ!? そんな財源を最初から持っているなんて聞いていない! 不公平だ!!」
積極村の代表は反論しました。
「そんな事言われても困ります。こちらは新たに設定した通貨Mを通貨発行権で発行しただけです。財源と言われても、そんな物はありません。」
「財源無しで通貨を発行しただと! なんと愚かなことを! それは借金だ! 将来へツケを回すことになる! 我々はそんな愚かなことはしない!!」
「では、この先の最初の給料が入る1か月先までどうやって過ごすのですか?」
「・・・。」
主流派村の人々は押し黙ってしまいました。
積極村の代表はアドバイスをしました。
「我々は村債を借金とは思っていません。単なる通貨発行の履歴だと考えています。どの道、誰かが負債を背負って通貨を発行するか、本当に村の外から借金をして当面の生活費を得るしかありません。それが嫌なら、1か月先まで物々交換をするしかありません。」
そう言うと、今度は積極村の村人に向かって言いました。
「早速ですが、今年の村予算を決めましょう! その前に、村の政治を取り仕切る5名を募りたいと思います。我こそはと思うものは1週間後までに立候補を表明してください。選挙は2週間後とします。」
またまた、主流派村の人々は驚愕しました。
「まだ税収がないのに予算編成だと!? 馬鹿げている!」
「だが、実際問題1ヶ月先までどうする? 本当に原始的な物々交換でいくのか?」
主流派村の出だしはのっけから躓きそうでした。
結局、主流派村も一人10万Sだけ発行する事にしました。
「初っ端から1千万もの赤字を背負うことになることは。。。」
「仕方がないだろう。本土である日本や、まして外国から借金をするわけにもいくまい。」
「これから死に物狂いで働いて、この1千万円を早く返さなくては。」
「・・・ところで、村運営のための予算はどうするのだ?」
「アホかお前は。税収がないのに予算なんか組めるわけないだろう。頭沸いているのか。」
「・・・。」
1ヶ月目
積極村の場合。
「この度、選挙で選ばれた村長です。同じく、選挙で当選したあなた方4名で村の今後を決めていきたいと思います。よろしくお願いします。」
「村長。早速予算を決めたいと思いますが、まずは村に何が必要なのかを調査するべきです。」
「私が見るに、インフラが全く足りていない。道路は舗装されておらず凸凹だし、バスも電車も走っていない。これでは移動が不便です。」
「若い人が結婚式の費用に困っているそうだ。籍だけ入れて式を挙げない人もいる。まあ最初の100万Mだけでは二人合わせても200万Mだ。とても足りない。他の人に借金をした人もいる。どうにかできないか。」
「それよりも港だ。魚業関係者が原始的な砂浜からの出航しかできないと嘆いている。早急に整備してほしい。」
「ふむふむ。皆さんの意見はわかりました。では必要な資金を計算して、その分の通貨Mを発行して全部やってしまいましょう。」
翌日、村長は皆を集めて言いました。
「村のインフラを整備するための人員を募集しています。賃金は毎月20万M。募集人数は10名です。5名は道路舗装。5名は港の建設に携わっていただきます。それと、今年成人する若者と結婚して夫婦になる人たちに無条件で1000万Mを支給いたします。つまり、今年成人したうえで結婚した人は2000万Mを受け取れます。結婚資金にしてもよし、投資に充てても良し。好きに使ってください。」
翌日から積極村には婚姻ブームが訪れました。積極村に所属する若者たちは、ほぼ全員が恋愛に夢中になり、結婚する人もどんどん現れます。
「結婚ブームの商機を逃してはならない。」
この合言葉と共に、その人たち向けのサービス(式場、礼装、ケーキ等飲食、その他もろもろ)は需要の増加をうけて一気に増えていきました。
「道路や港の整備に関われば、安定した収入が得られる。」
そう考えた人々が応募した結果、インフラ整備のための人員はすぐに集まりました。おかげで見る間に道と港は整備され、流通は加速しました。
安定した収入を得た人々は、積極的に消費をしました。
主流派村の場合
「とりあえず村長に就任したが、、、税収が無いから今月は何も出来ない。」
「仕方ありませんな。」
「インフラ整備だけで莫大なお金がかかりますしね。」
「初っ端で1千万円もの借金を背負った我々に、そんなお金はどこにもありませんからなぁ。」
「税率だけでも決めましょう。とりあえず消費税は絶対だ。早期の借金返済のためにも一律30%はかけよう。」
「「「「意義なし!!!!」」」」
この月の主流派村では、結婚ブームどころか恋愛をする若者はほとんどおらず、道路も港も初期状態の土と砂利と砂浜のままでした。
また、消費税がいきなり30%もかけられた結果、消費意欲も抑えられてしまいました。
2ヶ月目
積極村の場合。
「村長。本土と同じとはいきませんが、それなりの道が整備出来ましたね。」
「簡易ではありますが、港も出来ました。おかげで魚の水揚げ量がUPしています。」
「魚の料理や加工を始め、付随するサービスを提供しようと起業ブームが起きています。もちろん、結婚関連のサービスも徐々に充実してきています。」
「道路が整備されたから、流通が早くなりました。魚を町の中心まですぐに運べるようになりましたよ。」
「住民の皆さんが頑張って労働してくれたおかげですよ。我々は単に通貨を発行して仕事を割り振っただけです。」
積極村は1ヶ月で、それなりに文明的な生活が出来るようになりました。
「ところで村長。先月は税金を設定していませんが、それはどうするのですか? まさかこのまま無税を貫くのですか?」
「まさか。税金にはちゃんと役割があります。ただ、今はまだその時ではありません。それよりも法律と裁判所、そして警察と消防署を整備しましょう。」
翌日、村長は皆を集めて言いました。
「法律に詳しい人を募集します。お給料は1ヶ月50万Mです。そして、警察官と消防官も募集します。こちらは5名ずつ。お給料は30万Mです。」
1か月前とは違い、集まった村人たちは相談しあいました。
「法律に詳しい人って、裁判官とか弁護士だよな? つまり裁判所を作るのか。」
「給料が高いな。」
「そりゃ、専門知識を有するからな。」
「警察官と消防官も、先月の道路や港湾整備関係者よりも給料がいいぞ?」
「そこは危険手当込みだろうよ。」
翌日、警察官と消防官は集まりましたが法律関係の人は現れません。
「村長。裁判官がいないのでは捕らえた人をどうすればよいのですか? これじゃ、我々は警察官と言うよりも自警団ですよ。パトカーもないし。」
「でも、早速法律について学び始める人も出てきました。数か月後にはきっと裁判所が開けます。それまでは、私刑が横行しないように犯人を捕まえたら牢屋で隔離しておいて下さい。」
「村長。消防官に応じましたけど、消防車と救急車はないのですか?」
「今月は無理ですが、来月には用意します。それまではどうにか村内で用意できるもので凌いで下さい。」
何もかも不足していましたが、どうにかこうにか体裁だけは整えます。
「村長。消防車と救急車を来月には用意すると言っていましたが、具体的にはどうするのですか? それに、数か月も裁判官を待っている余裕がありますかね?」
「人口がまだ少ないこの村では、そうそう犯罪者なんて出ませんよ。現状は皆顔なじみですから。あと消防車と救急車、そしてパトカーは本土たる日本から購入しましょう。」
「購入資金はどうするのです? まだ村の収入はありませんよ?」
「通貨Mを発行してそれを円と交換しましょう。通貨発行は何も考えずにやりすぎると毒ですが、これは必要な発行です。」
主流派村の場合
「ようやく税収で村に財源が出来たぞ!」
「これでやっと道を整備できる。」
「何を言っているんだ? 借金の返済が先だ。まずは借金を無くさないとスタートできない。」
「「「「異議なし!!!!」」」」
「だが、思ったよりも税収が少ないぞ。予定していた税収の半分もない。これじゃ1千万円中300万円ほどしか返せない。」
「仕方がない。消費税を上げよう。35%だ。」
「それではさらに消費が抑制されるが?」
「お前は馬鹿か? 借金を返す=財政破綻の心配が無くなり通貨Sの信任が高まり、将来への希望が増える。それすなわち消費が増えるという事だ。税金は上げれば上げるだけ消費も増えるのだ。」
「村長の言う通りだ。我々は目先の事だけを考える愚か者ではない! 未来の事を考え、借金の無い村を子供たちに残すのだ!」
「「「「異議なし!!!!」」」」」
「………。」
主流派村では、今月も何も変化は起きませんでした。むしろ、消費税が増えてますます消費は低調になりました。
3か月目。
積極村の場合。
「村長。消防車と救急車、そしてパトカーがきて立派な消防署と警察署が出来ましたね。」
「まだまだ見かけだけです。それよりも今月は何をしましょう。」
「保育所と学校を今から整備しておこうと思うがどうだろう?」
「道だってまだまだ不十分だ。山の上の集落まで届いていない。彼らから道路延伸の陳情がきている。」
「公共交通機関が全然ない。電車はともかく、バスくらい整備出来ないだろうか。」
「了解。全部やりましょう。」
積極村では今月もさらに村が豊かになっていきました。
主流派村の場合。
「税収が減った!? どういう事だ!」
「これじゃ、借金を半分しか返せない。」
「税金が上がって、さらに消費が抑制されたようだ。」
「そんなはずはない! そんな愚かな者はこの村にはいない!!」
「そうだ! 健全な財政の重要性を理解出来ぬ者などこの村にいようか。きっと何か別の理由があるのだ。」
「その理由を探る時間が惜しいし、なによりそれを研究する財源がない。その前にとにもかくにも早く借金を返さねば。消費税を40%に上げるぞ!」
「「「「異議なし!!!!」」」」
「………。」
3ヶ月経っても、主流派村では何も起きませんでした。道路も港も無く、公共機関も整備されませんでした。
4か月目。
積極村の場合。
「山の上の集落まで道が伸びて、流通網がさらに活発になりました。海の幸が山の集落へ、山の幸が海付近の集落に行くようになって、さらに経済が活発になっています。」
「それはよかった。そして、役員の皆さん。今日は重要な話があります。」
「何でしょう?」
「ついに税金を設定する日が来ました。3ヶ月が経ち、村人の間に経済格差が生まれています。格差を全否定するわけではありませんが、ありすぎるのも問題です。さらに、税金が無い事により想定以上のインフレが起きています。これに対処するために、累進課税方式の所得税を設定したいと思います。法人税も同じです。ただし、法人税は従業員への給料を上げたら上げた分だけ免除することにします。」
「うーん。今まで税金が無かったから、反発がありそうですな。」
「それでも、ここらへんで一度調整しないと後々が大変なことになります。過度な格差もインフレも社会を不安定化させます。」
翌日、税金の話を聞いた村人たちは一部が猛烈に反対をしましたが、大多数は仕方がないと受け入れました。反対した者は現時点で相対的に豊かになっていた者が大半でした。
彼らは平等な税金を主張して消費税を主張しましたが、大多数の村人の反対により断念せざるを得ませんでした。
主流派村の場合
「本来ならとっくに借金を返し終わっているはずなのに、まだ残っている! 何という事だ!」
「消費税が重いから消費が低調で、物を売るために安くせざるを得ない。デフレになって、それでますます税収が減っているようだ。」
「愚かな…。税金を納めれば納めるほど借金が減って豊かになる事がわからないのか? 税金が増えたから消費を減らすなど…。そんな馬鹿はこの村にはいないはずだ。」
「だが、現実に殆どの村人が貧困層だぞ。」
「貧困になるのはそいつの努力不足だ。それを政治に求めるなどなんと浅ましい!」
「そうだ。借金自体は減っている。もう少しだ。もう少しで全て返せる。そこからがスタートだ。」
「最後のひと踏ん張りだ。消費税を50%に上げるぞ!」
「「「「異議なし!!!!」」」」
「………。」
5か月目
積極村の場合
「税収のほうはどうですか?」
「概ね好調です。インフレがやや収まり、格差もほんの少し是正されました。」
「それはよかった。」
「集めた税金はどうするのです?」
「税金は集めた時点でもうお金としての役割を終えています。わかりやすく説明すると村が人々に通貨発行権を使って10万M支出した。この時点で村は-10万M。村人は+10万Mです。税金で10万M回収しました。村人は-10万M、村は+10万M。この時点で±0Mです。」
「え? でも現実にお金はここにありますが?」
「存在はしていますが、帳簿上では0です。あつめたMは景気よく燃やしてしまいましょう。」
「もったいないですよ。村の財源にしたり、いざと言うときのためにプールしておくのは駄目なのですか?」
「気持ちとしてはわかりますが。そもそも通貨発行権があるので村の運営に財源なんて必要ありません。インフレ抑制のために回収したのに使って市場に流れたら意味がありません。プールするのはまだありだとは思いますが、必要なお金は結局刷ればいいだけなのであまり意味がありません。これが個人であればあなたの意見は正しいのですけどね。」
「通貨発行権を持つ村の運営と個人や企業の家計は全く別物ということですね。わかりました。」
「それで今月はどこに支出しましょうか。」
「将来の人口増を見越して田園を拡張したい。」
「そろそろ村独自で科学の研究機関を発送させたいと思うのだがどうだろう?」
「港湾の拡張のほうが先では?」
「公園を整備してほしいとの要望がお母さん方を中心に出ている。」
「わかりました。村の未来とこれから生まれてくる子供たちのためにも全てやりましょう。」
主流派村の場合
「とうとう借金を返し終わったぞ!!」
「「「「万歳!!!!」」」」
「これでようやくスタートが切れる!」
パチパチパチパチ
「ちょっといいか。最初に発行した1千万Sを税金として回収した結果、村人は殆どお金を持っていない状況になったんだが。」
「それがどうした? 村の未来のため、生まれてくる子供たちのために借金なき村を目指してここまできたのだ。村人にお金がない事は重要な事ではない。」
「生まれてくる子供達? 誰も結婚していないこの村で子供が生まれると思っているのか? 誰かの妊娠報告を君らは聞いたことがあるのか?」
「それはこれからだ!」
「積極村ではとっくに道路も港湾設備も整備されていると聞く。若者は殆ど結婚しているとも。なぜここまで差が付いた。」
「あれらは全て借金で作ったものだ。現に債務が膨れ上がっているではないか! あんな事がいつまでも続くはずがない!」
「そうだ! 財政規律が崩壊したら本当に村は崩壊してしまう。我々はそれを防いだのだ! あいつらの繁栄は見せかけの物だ! 何時か必ず崩壊する!」
「全てはこれからだ! 税金は税源ではないなどと妄言を吐く連中に目見もの見せてくれる!」
「それで、借金が無くなったからまずは何をするんだ?」
「いや、借金を返し終わっただけで村の金庫は空だ。本当の意味での税収を得られるのは来月からだ。だから今月はまだ何も出来ない。」
「………。」
6か月目
この月、大きな出来事が起きました。
大地震が二つの村を襲ったのです。
少なくない死者と負傷者を出し、道路は裂け、整備した港は破壊されてしまいました。
積極村の場合
「何という事でしょう。建物の耐震化を進めていなかった私の責任です。」
「村長、今はとにかく人々を救うのが先です。一時避難先のテントや水食糧を確保しなくては。」
「瓦礫の撤去に時間がかかりそうだ。本土からも応援を要請しないと。」
「家や財産を失った人が多い。特に山の上の集落が大きな被害を受けている。再建のための支援が必要です。」
「それに関しては問題ありません。通貨Mを発行して、全ての被災した人に家の再建に必要な金額を渡してあげてください。」
「かなりの金額になります。財源は大丈夫ですか?」
「財源? 先月も言いましたが、通貨発行権を有する管理通貨制度において財源の議論など無意味です。そりゃあ、むやみやたらと通貨を発行していいわけではありませんが、供給力とインフレが許す限り何の問題もありません。そもそもお金自体は何でもいいわけですしね。江戸時代の旗本、荻原重秀も「貨幣は国家が造る所、瓦礫を以ってこれに代えるといえども、まさに行うべし」と言っています。」
「それはどういう意味です?」
「お金は国家が作るものだから、たとえ瓦礫であってもかまわないという意味です。そもそも、村で発行している通貨Mだって村への信用で成り立っています。村が発行してこれはお金だよと宣言して、実際に使えるから皆使っているんです。本当に重要なのはお金ではなく、物やサービスを生み出す能力と、それを支える人そのものです。それが疲弊してはお金が幾らあっても意味がありません。あなた、東日本大震災で空っぽになった都内のコンビニやスーパーを見たことがありますか? あの状態では幾らお金があっても無意味です。」
「人や物があって初めてお金が生きるという事ですね。わかりました。全ての被災者が元通りの、いえ、もっと豊かで災害に強い家に住めるように通貨Mを適正量発行し、有意義に使われるよう監督いたします!」
主流派村の場合
「なんて事だ! これからと言う時に!!」
「だが、幸いなことに今月は財源がある。決して多くはないが、支出自体は可能だ。」
「被害の補償には全然足りないぞ。そもそも港も道も未整備だったから被害がとんでもないことになっている。ここは赤字国債を発行してでも村の再建を優先するべきでは?」
「なんだと!? 支出は税収以内で納める。これ以上の健全財政はない! 赤字国債などとんでもない!」
「そうだ! 借金を残すことは次世代に対して無責任だ! なんてことを言うんだ!!」
「この村で、次世代が生まれる気配はないがな。」
「やかましい!」
「双方落ち着け。今は復興の話が先だろう。とにかく、ある分の金で出来るだけの事はやろう。」
「だから、それでは全然足りないといっているのです。山の上の集落は壊滅状態だ。再建には時間とお金がかかる。」
「はあ? あんな過疎地域を復興してどうするのだ。無駄だから集落ごと移転させろ。」
「あそこの住人たちは、この社会実験が始まる前から何百年もの間、先祖代々あそこに住んでいたのだが。」
「だからどうした? そんなノスタルジックな考えで古臭い老人だらけの集落を再建しろとでも? そんなの金をドブに捨てる行為だ。さっさと移住させろ。したくないというなら勝手に野垂れ死にさせろ。」
「全くだ。人口が減るのは避けられないから、どんどん過疎集落は放棄して人口密集地に人を集めよう。その方が効率的だ。」
「そもそも、棺桶に片足突っ込んだ老人連中など財政の足を引っ張るだけだ。この際、医療費も削除しよう。その分の金が浮いて若者に回せる。」
「老人に死ねと言うのか。。。我々もいつか老人になるのに。。。」
「老人は死んでくれた方が若者のためだ。それに、我々は延命治療など求めない。」
「………。」
7か月目
積極村の場合
「村長。十分な支援金と期間限定ではありますが減税によって被災者たちの懐は大きく傷つかずにすみそうです。安心感から消費も思ったほど落ちてはいません。皮肉なことに、むしろ防災関連の商品が売れまくっています。家の耐震化を希望する人も増えています。」
「では、家を耐震化する人には減税を実施しましょう。その方が結果的に町全体の耐震化に繋がります。」
「補助金のほうが良くないですか?」
「補助金を配る手間と、補助金を支給する過程で利権が発生しかねません。減税の方が効率がよいでしょう。」
「そんなもんですかね?」
「山の上の集落はどうですか?」
「再建は一筋縄ではいきませんが、住人同士が協力して頑張っています。ただ、数名しか住んでいない集落にリソースを割く必要があるのか懐疑的な人もいます。」
「過疎地域だからと切り捨てて行って、人口を集約してそこが襲われたらどうなると思いますか? そんな事を言ったら東京だって危ないし、日本のどこにも住めなくなります。」
「それはそうですが。。。」
「金融ではリスク回避で分散投資が賢明と考える人が多いのに、こと人口密度で考えると纏まった方が良いと考えるのは変だと思いません? 災害時においては、人は広く薄く散らばっている方がダメージは少ないはずです。自分たちが被害にあったとき、他所から支援を受けられるのと全員被災して誰も他者を支援する余裕がないのと、どちらの状況がマシですかね。」
「集約は効率化と同時に、そこがやられたら一巻の終わりという弱点も抱えるという事ですね。わかりました。山の上の集落を再建することは巡り巡って、自分達にも恩恵があると周知いたします。」
主流派村の場合
「無駄をカットして支出をなるべく抑えたぞ。」
「全然復興が進まないのだが。。。」
「そんなものは自己責任だ。何でもかんでも政治に頼ろうとすんじゃない!」
「絶望した老人が自殺し、若者が出て行っている。残っている者も日本に出稼ぎに行っている。」
「だから、そんなものは自己責任だ。努力でどうにかしろ!」
「こんな事を続けていたら、わが村は滅びる。」
「そんなわけはない。村債務残高GDP比が0%のわが村が滅びるわけがない! でたらめを言うな!」
「そうだ! 積極村は借金を積み重ねた上での繫栄だ。あんな事がいつまでも続くはずがない。いつか痛い目を見る日が来る!」
「その痛い目を見るのは何時だ?」
「知らん!! いつかだ!!!」
「とにかく無借金経営。プライマリーバランスの黒字化は絶対だ!」
「その通り! 支出するには必ずどこからかお金を持ってこないといけない。村内なら予算を付け替えなくてはいけない! こんな基本的な事が積極村はわかっていないのだ!」
「………。」
1年経った頃。
積極村ではベビーブームが起き、地震からの復興もほぼ終わり、賃金と物価も1か月目と比べて随分と増えていました。健全なディマンドプルインフレにより、昭和時代の日本のような活気を見せていました。
対して主流派村では殆どの人が出て行ってしまい、残った人も高い税金を払いながらデフレに陥って何も生み出せない村で、村の財政が健全であることを誇りながら貧乏暮らしを続けていました。
そんな主流派村の中で、今日も元気な声が響き渡りました。
「「「「「財政規律万歳! 健全財政万歳! 積極村は何時か破綻する!!」」」」」
※おまけ
「無駄をカットして支出をなるべく抑えたぞ。」
「全然復興が進まないのだが。。。」
「そんなものは自己責任だ。何でもかんでも政治に頼ろうとすんじゃない!」
「絶望した老人が自殺し、若者が出て行っている。残っている者も日本に出稼ぎに行っている。」
「人口が減っているなら移民を入れるしかないな。」
「異文化を入れて大丈夫か?」
「それは差別発言だ!」
「人口減少が避けられないのだから移民を入れるのは当然だ。彼らが働いてくれれば税収が見込める。」
「………。」
翌月から5名の移民を主流派村では受け入れました。
やがて彼らは家族親族を呼び寄せます。
「移民で人口が増えたぞ!」
「だが、、、働かずに生活保護を受ける者もいるようだが。。。」
「それは言ってはいけない。」
「人口は増えたのだから経済にはプラスだ。」
「社会の多様性が増すのでいい。多文化共生だ!」
「グローバル化が進む以上、移民は不可避であり、止められない。」
数か月後、彼らは生活習慣や政治に口を出してくるようになりました。
「今や移民は村に無くてはならない存在だ。特にサービス業と製造業は彼らがいないと成り立たない。意見を飲む以外に選択肢はない。」
「だが、食事や埋葬方法まで自分達に合わせろと言ってきたぞ。」
「仕方ないだろう。これも多文化共生だ。」
「多文化ではなく異文化強制の間違いだろう。こっちの文化や風習はどうなる?」
「それを言ったら猛批判に晒されるし、彼らにボイコットされるのは困る。」
「先月も10名が村に入った。このままでは元からいた我らが少数派に転落するぞ!」
「それもグローバル化の宿命だ。」
「………。」
翌月、移民たちとそれに同調する人は外国人参政権を求めてデモを起こしました。
「この村に暮らして税金を払っている彼らに参政権が無いのは差別だそうだ。認めるしかあるまい。」
「政治的に村が乗っ取られそうなんだが。。。」
「彼らは参政権をくれないなら祖国に帰るといっている。」
「それは困る!」
「そうだ! 既に村人の4割は移民なんだ。認めないほうがおかしい。村は村人だけのものではない!」
「村の若者が外国に出稼ぎに行き、移民と言う外国人が村内のサービス業と製造業に従事するとはどういう事だ! 逆転しているではないか!!」
「今更そんな事を言っても仕方ないだろう!」
翌月、外国人参政権を与えると今度は外国籍のまま立候補を要求するデモが起きました。
「どういう事なんだ!?」
「だから言ったでしょうに。。。」
「認めざるを得ないだろう。今月も新しい移民が入って今や人口の5割は移民だ。」
「こちらの文化を認めず、自分たちの神に反するからと寺や神社に放火しようとする者までいる。犯罪を犯しても彼らのコミュニティに逃げ込まれて逮捕も出来ない! このままでは村は完全に彼らの物だ!」
「村の中にもう一つの村が出来てしまった。。。」
「元居た村人との摩擦と衝突も増えていく一方だ。治安が悪化して、ますます村人が外に出て行っている。。。」
「後悔しても、もう遅い。。。人口が減っていく我が村の運命だったのだ。。。」
数か月後。主流派村は完全に移民の村になり、元居た人たちは出ていくか狭い土地に押し込められて移民に逆に差別されながら縮こまって生活するしかなくなりました。
※おまけのおまけ
「なんか、主流派村が酷い事になっているようです。」
「そりゃあ、ただの通貨発行を借金だと認識していればこんな事にもなりますよ。そもそも、村に払う税金を村人の皆さんはどこから調達していると思いますか?」
「大抵の人は自身の所属する会社からだと思いますが。」
「では、その会社は従業員に払う給料分のお金をどこから調達しているのです?」
「売上から…ですかね。あと銀行から融資を受けるとか…。」
「では、会社に売り上げをもたらす人々はその会社の製品やサービスを買うお金をどこから調達しているのですか? 銀行は融資するお金をどこから調達しているのですか?」
「やっぱり自身の所属する会社…ですかね。銀行は…お金を預けてくれる企業や人々から…。」
「では、銀行にお金を預ける人はその預けるお金をどこから持ってくるのです?」
「………。」
「ね。「お金は天下の回りもの」ということわざがありますが、そもそも誰かが生み出さないと回る事すら出来ないのですよ。これは本土である日本でも同じことです。お金の流れを遡れば、自ずと荻原重秀の「お金は国家が作るもの」という意味が分かるはずです。実際に、国や然るべき機関で作られたお金以外は全て偽札となり重罪です。私達に出来るのは物やサービスを生み出すことで、お金その物を作り出すことは出来ないんです。もしも、あなたの周りで「自分のところでお金を作ってそれを従業員に渡しています」なんて企業があったなら是非教えてください。」
「そんな企業あるわけがないです。」
「でも、主流派村の人々は最後までそれを理解しませんでした。働いたらお金が出てきて、それを納税されて初めて村運営が出来ると思い込んでいました。そうである以上は、どのみちあの最後は避けられなかったでしょうね。」
※先に申し上げます。かなり極端に書いてはいます。
ですが、
「借金を返す=財政破綻の心配が無くなり通貨の信任が高まり、将来への希望が増える。それにより消費が増える。税金は上げれば上げるだけ消費も増える。」
「支出は税収以内で納める。これ以上の健全財政はない。」
「借金を残すことは次世代に対して無責任だ!」
「人口が減るのは避けられないから、どんどん過疎集落は放棄して人口密集地に人を集めよう。その方が効率的だ。」
「老人は死んでくれた方が若者のためだ。なお、我々は延命治療など求めない。」
「支出するためには、どこからかお金を持ってこないといけない。予算を付け替えないといけない。」
「財政規律が崩壊したら本当に国は崩壊してしまう。」
これらは本当に過去、私が新聞や雑誌、SNS(Twitter、現X)で見聞きした主張です。
最後の、おまけのおまけで書いたように、皆さんが税金を払う際のお金は何時何処で誰が生み出したものでしょうか? あなたの所属してる会社ですか? 個人事業主ならお客さん自身がお金を作ってそれで支払ってもらっていますか? 銀行から融資を受けたならその融資されたお金は銀行自身が作っているのですか。信用創造なら可能でしょうが、その信用創造をするためのお金はどこから調達してきたのか。払われたお金、給料としてもらったお金、それを遡っていけば「税金がないと国の運営が出来ない、支出は出来ない。」なんて事はおかしいと気が付けるはずだと考えます。