博士、キャリーを聖女の弟子に押し込む
ここはとある異世界。
その異世界の勇者パーティー館の聖女の部屋。
「はああ」
聖女がポーション作りの作業台に突っ伏す。具合が悪いのではないし、疲れたのでもない。
「辛いわあ」
そう、辛いのだ。
何が辛いって、最近勇者と交流とか接触がない。
世の中は割りと平和だし、雑草が体から消えたら自分の元を去ってしまった。
治療と称して愛する勇者を裸にしたままあれやこれや出来たのは今となってはかけがえのない日々だった。治療の為といってはベタベタ触りまくり、治療の為といっては超至近距離でガン見したり。
いっそ口でぱくりとしてしまいたかったが、突然勇者が目を覚ますことがあるのでぐっと堪えた。勇者が目覚めなくても後ろのドアから世話役メイドが来るかもしれない。一応、人払いをお願いしてあるが、急用なら入ってくるだろう。
草が枯れて良かったのは確かだが、それきり勇者は出ていってしまった。今、勇者は寝たきりの間に溜まった仕事に追われているという。 あんなに献身的に世話をしたのに治ったら顔を見せにすら来ない。
仕方なく自分自身も勇者の治療している間はポーション製作をしていなかったから、毎日部屋に缶詰めになりながらポーション作ってる。
終わって初めて貴重な日々だったと思うようになった。雑草が生えていたとはいえ、勇者のアレを堂々と弄くれた日々はもうこない。
「はああっふうっ、勇者様・・」
「つらそうじゃのう」
「!!」
がたん!
誰も居ないと思っていたのに声を掛けられ聖女は驚いた!
咄嗟に服から手を引き抜いて後ろを振り返ると例の三人組! 誰が許可してコイツら入れた!
よりにもよって見られたく無い所をよりにもよってコイツらに見られた!
そして会いたくない奴No.2の素子ちゃんが聖女の肩を叩く。
「うんうん、辛いよねえ。オークションにも愛しの勇者来なかったしねえ。全然相手にされてないねえ」
「まあ素子君、その辺にしておきたまえ。今日はお願いが有って来たのだからな」
そう言うと博士は後ろに居たキャリーをズズズと前に押し出した。
「このキャリー君にポーション作りを教えてほしいのじゃ」
三人のなかでは唯一普通人に見える赤毛の女。よく博士の側でおまけの子みたいに見かける女。
だが聖女は警戒を怠らない。博士の一派なら普通でないのは明らかだ。
それ以前にこいつらには関わりを持ちたくない。
「帰ってください。普通の人には無理です」
冷たい。
だが、聖女の言葉は理由が無いわけではない。この国でちゃんとしたポーションを作れるのは聖女のみ。
他にもポーションを作る人は居るが効き目が低い。
言うなれば『劇薬』と『健康ドリンク』くらいの差がある。そのお陰で聖女のポーションはアイドルグッツとならずにちゃんと医薬品として扱われる。
「ポーションは魔力が低いと出来ません。諦めなさい」
「まあ見たまえ聖女君。キャリー君やりたまえ」
博士の言葉のあとキャリーは床に向かって片手でヒールをかける。
手から床まで届く青い光。
聖女は驚いた。
自分以外でこんなくっきりとしたヒールは見たことがない。普通の人なら弱すぎて光にすらならないし、神殿で有名な者でも僅かな距離、せいぜい手のひら付近が青く光るだけ。自分と同等のヒールを見たのは先代聖女(享年55歳)以来だ。
「聖女君、どうじゃね?」
「ま、魔力は合格点です」
「どうじゃね?キャリー君に教えてやってくれんか」
「いやその・・・・」
この三人組とは関わりを持ちたく無いと粘る聖女。
しかし抵抗虚しく従うことに。
なんせ素子ちゃんがスマホ(仮)をふりふり見せて来たから。あの日の動画を再生なんてされたら堪らない。
最も、キャリーはそんな聖女の動画は知らない。それどころかキャリーも博士の手をケツに突っ込まれたシーンを素子ちゃんに撮られた同士だ。
「わ、分かりました」
「お願いします」
了承した聖女に頭を下げるキャリー。
とはいえ、ポーションの製法会得は時間が掛かる。通いで習うことになるだろう。
「それはそうと聖女君。勇者君とはまだヤっとらんのか? 治療だといって跨がれば良かったじゃろう。悶々として穴弄るくらいならやってしまえば良かったろう」
突然の直球発言に聖女がぴしりと固まる。頼むさっきのは忘れてくれ。
「一回も誘われてないの?」
素子ちゃんが追い討ちをかける。
「そのようじゃの」
「ううう・・」
力が抜けて椅子に沈み、項垂れる聖女。
心の傷を抉られ立ち直れない。
「聖女様、落ち込まないで下さい! 聖女様は美しく素晴らしい女性です! きっと何か訳があるんです!」
落ち込む聖女を唯一の常識人として慰めるキャリー。
だがこの発言が不味かった。
「そうじゃな。理由が有りそうじゃ」
「理由って?」
「素子君、会長に連絡してくれたまえ」
ーーーーーーーーーー
翌日夜、聖女は博士の指定してきた宴会場にやってきた。流石に1人では来ない。護衛と従者がそれぞれ二人づつついてきた。聖女は強いがもしもと言うこともある。そして5人は博士の指定どおり一般人の服装でやってきた。博士から『聖女だと気付かれないように』と言われて化粧も変えた。
宴会場は大物有名人がイベントで使う大きな建物で、追加料金で料理やサービスがでる施設。
入り口でキャリーが出迎える。
「聖女様、お待ちしておりました。どうぞこちらです」
丁寧に、そして博士の関係者とは思えないほど常識的に応対するキャリーだが、なぜか顔がひきつっている。いったい中では何が?
なにかとても心苦しい表情のキャリーに通されたのは、ホール。
中には大勢の若い女性が集められていた。男性も居るが半数以上は女性だ。その中を歩くホールスタッフ達も忙しそう。パーティー?貴族のパーティーにしては衣装がバラバラだ。女性達は身分どころか職業も違うみたいだ。ただ共通しているのは女性達が「美人」のくくりに入ること。そしてエスコートが居ないこと。
そして、ホールの上座には十字架があり、1人の男が張り付けにされている。
薬のせいかなんなのか動かない男。顔と髪は覆われて隠されている。服は無く身に付けてるのはパンツだけ。
だが、聖女はこの体をよく知っている!
あの乳首、膝小僧、へその形、ワキガ、毛が少ない足。
全てを知っている!
「声を立てないで下さい」
キャリーが聖女を制す。
思わず聖女は『勇者様』と叫びそうになった!
従者と護衛はあれが勇者だとは気付いていない。
そして右角のエリアにあるお立ち台に見覚えのある男が立つ。
「本日はお集まりいただき有り難う御座います。今より第1回美人コンテスト実行委員会発足パーティーを開催致します! お集まり頂いたのは実行委員会とスポンサーと自薦他薦による参加予定の皆様です。料理にドリンクもたっぷり用意して御座います。ビンゴゲームにミニゲームも有ります。どうぞ今宵は楽しんでください!」
聖女は絶句した。
美人コンテストなど聖なる存在の自分の出るところではない。それよりなにより勇者のあの扱い!
「堪えて下さい。私も耐えますから」
キャリーが聖女に小さく声をかける。聖女はキャリーを見る。間違いない、彼女は常識人だ。ここでの味方はキャリーだ。彼女がそう言うなら聖女は耐えることにした。
パーティーは普通に進み、ビンゴゲームや歓談で盛り上がった。酒を飲んでる者も。
そして問題のゲームが始まった!
「皆さん注目! 只今から魅力かけゲームをします! この被験者の男を一番興奮させた人が優勝です! 一位から三位の方まで景品を差し上げます! では今からどうやるのか見本をお見せします!」
「はーい!素子いっきまーす!」
現れたのは能天気な素子ちゃん。今日は珍しくゴスロリでなく普通の綺麗系の服。十字架の脇の職員に記録用紙を渡すと、いえ~いと言いながら十字架の男に軽く抱きついた!
どっと沸き上がる会場!
聖女ははらはらしたが勇者の股間はハードケースが巻かれていて触れないようになっていて少し安心した。
しかし、なんか変。
その股間のハードケースからなんかヒモのようなものが伸びている。そしてそれは十字架の上にある変な四角い板に繋がっている。
ピピピピピピ!
ポーン!
板、いや 巨大カードに現れる数字!
「おおっと! 得点は25点と表示されました!」
「どうだー!」
ガッツポーズの素子ちゃん。
「さあ、皆さん頑張って下さい! 上のカードの表示が男の興奮度得点です!」
また沸き上がる会場!
いやーんとか嫌だあとか聞こえるが、かなり盛り上がっている。十字架の脇の職員さんが赤いボタンを押すと数字が消え、勇者もくたんとした。
「さあ、つぎはエルサさんの挑戦!」
「ええ、恥ずかしい~」
と、言いつつ、
「えいっ!」
ピピピピピピ!
ポーン!
「おおっ、29点が出ました! エルサさん、素子ちゃんを越えました! 現在暫定一位! 次はアリーさんどうぞ! おおっと残念14点。次はーーー」
次々と十字架男に挑戦する女性達。
もう誰も恥ずかしがらない。十字架の男は単なるモノ扱い。誰も勇者だとは知らないし、動けなければやはりモノ。
聖女は勇者の扱いに腹が立つが、それよりなにより恐れていた。勇者に抱きつくのが怖い。
既に20人も抱きついた。
最高点は75点。
2位が73点。
最下位が11点。
自分なら何点が与えられるのだろう? 最高点は自分であってほしい。
「まだやってないの~」
素子ちゃんが能天気に言ってきた。
怖い。
何点出るか知りたい。
でも知るのが怖い。
とんでもなく低かったらどうしようと臆病になる。
「無理してやらなくてもいいですよ」
振り向く聖女。
暗い顔のキャリー。
「あー、キャリー12点だったもんねえ」
「くっ!」
実は機械のテストでキャリーは一足先にやっていた。
結果、12点は屈辱だった。
博士はやってない。
「い、いくわ」
聖女は前を見た。
キャリーの12点を聞いて少し勇気が出た。少なくともこれよりは上だろう。
少なくなった十字架前の列に並ぶ。前にあと二人、後ろに数人。
番が来た。
聖女は紙を職員に渡し、恐る恐る勇者に抱きついた。
ちょっと強めに胸を押し付ける。
お願い!
自分の勇者への想いは本物。
ピピピピピピ!
ポーン!
「おおっと、リカさん(偽名)31点! 次の方どうぞ!」
ーーーーーーーーーー
パーティーは終わった。
来賓も一般職員も帰り、残ったのは数名のみ。
勇者は意識のないまま服を着せられ博士に運ばれていかれた。
話では勇者は昼寝を襲われ連れてこられ、これから自室のベッドに送り返してくるという。勇者は自分が誘拐されたことすら知らないで目を覚ますだろうと。
そのことに少しほっとした。だが気分は落ち込んだまま。
護衛と従者には廊下で待ってもらっている。
抱きつきゲーム。
参加者37名。
最高得点86点。
最低得点10点。
キャリー12点。
素子ちゃん25点。
聖女31点で26位。
不参加21人
この数字が聖女に重くのし掛かる。
しかもお付きの従者も面白半分で抱きついたら32点と60点が出た。(非公式記録)
「戻ったぞ」
ドアから博士が戻ってきた。勇者を無事返品したらしい。どうやって置いて来たんだろう。
「博士、これを」
会長が博士に一枚の紙を渡す。(当然植物紙)
「どれ、ふむ・・」
紙に見いる博士。
そして納得したように顔を上げる。
「どうやら予想は当たっていたようじゃ」
「予想って?」
「素子君。勇者寝取り魔の法則じゃよ。間違いない」
「へー、 まさかあの勇者も?」
「うむ。今回の実験は勇者の理性でなく本能の反応を使った。相手の気配に敏感な勇者なら寄っただけで相手を判断できる。結果がこれじゃ。この聖女がモテない筈がない。貧乳(B)を国の美乳スタンダードにするほどの美貌の持ち主じゃぞ。問題は勇者にある」
この博士の言葉にようやく聖女が顔を上げる。
どん底に落とされ、今の今まで自分の容姿を疑っていた。
「あの、博士さん。その・・・・勇者の問題とは・・」
「この集計表によると上位13名は全員彼氏持ちじゃ。4位と8位に至っては人妻じゃ。そして、1位と2位は幼馴染の彼氏がおる。しかも1位の彼氏は勇者とも面識がある。処女か経験者かは関係ないのう」
「博士さん、それってつまり?」
「そう。勇者は寝とり魔の血が流れておる。本人に自覚は無いだろうが体は正直じゃ。意識が無くても体が求めておる。いや、こっちが本心かもしれん」
「そんな!」
「聖女君、他に彼氏は居るかね?」
「居ません」
「君を諦めてない幼馴染とか居るかね?」
「居ません・・」
「他に彼氏を作る気は?」
「勇者様一筋です。それに聖女は一般人とはお付き合いすら禁止されてます」
「ちらっとでも誰かと付き合う気はあるかね?」
「ありません!」
「絶望的じゃ」
「そんな!彼氏でなくともファンクラブの皆様は!」
「恐らくは勇者の目にはファンクラブ会員は映っておらん」
「あちゃあ、駄目だこりゃ。寝とりは勇者の定番だよねー」
うんうんと頷く素子ちゃん。
「キャリーさん、貴方は?」
「ええっと、私も彼氏は居ません」
「私も居ないんだなー」
それは見ればわかる。
「まあ、落ち込むでない。生きてれば良いことがあるかもしれん」
そして翌日から聖女の化粧がワンランク落ちた。
【第1回美人コンテスト】
またしても聖女ファンクラブ会長と素子ちゃんの共同開催。
この壮行会も『勇者寝取り属性確認』のために開催したが、会長はちゃっかり企画をものにして一月後にコンテスト実行予定。
一般人には手の届かない聖女でなく、『普通の女』を並べることでファンクラブの新たな顧客を増やす目論見。ナントカ48のパクリである。
更には女性会員向けのイベント『美男子コンテスト開催予定』も発表となり、女性会員も益々増えた。
そして聖女ファンガチ勢は『プレミアム会員』となった。