博士、カードに手を出す
ここはとある異世界。
その異世界の僻地。
先日の魔人との戦闘以来、ここにキャリーの村の住民が増えた。目下、博士の要望による米の安定生産の為の農作業が進行中だ。
主な作物は勇者の身体で生き延びた稲。もとはゆめぴかりだがこの稲は進化していた。魔法でヒールを掛けると分げつがばばんと促進されるのだ。聖女との戦いでついた生きる力である。刈られても刈られても根だけになっても諦めず生き延びる稲。本来なら稲は茎がなくなれば新葉は出ない。根っこだけでは無理だ。しかし、この稲は不可能を可能にした!
そして博士は『シン・ゆめぴかり』と命名した。
シン・ゆめぴかりはヒールをかけると通常の稲の株の10倍の分げつをする。株はキャベツよりでかくなる! 凄いぜシン・ゆめぴかり! しかも、試食をしたらうまい!
働き手は魔人の身体をゲットした男達。実によく働く。生き延びることが出来たことへの恩返し。そして家族のために、新たな村の未来の為に働く。農作業で人間の三割増しの体力はおおいに役立っている。
しかしまだ米の収穫は無い。
畑での野菜の収穫が少ないながらあるだけ。結局博士のポケットマネーで村の食料を賄っている。
「博士ー、新米まだー?」
「素子君、次の新米は三ヶ月後じゃ。どうしてもすぐ食いたいというのであれば、またプランターと肥料を使わねばならんが、彼らも忙しいであろうし、連作で地力が弱ってるかもしれん」
「まー仕方ないかー。ところで博士、麦は作らないの?」
「うむ。麦も作りたいが慎重にいかねばならん。私も素子君も麦は素人で知識もない。持ってきた種はあるがの」
この国の主食は味気無いピザのようなもの。生地は麦ではなく芋。腹の足しにはなるが求めた味ではない。やはり麦は必須だ。パン、菓子、麺、他にも色々麦は役にたつのだ。メニューの多様性なら米以上。
「さて、素子君。農作業が安定するまでは現金を調達せねば蓄えが減る一方じゃ」
「やっぱお金よねー」
今現在キャリーはギルドに出ている。村の仕事は魔人(仮)に任せて現金獲得の為に町に出ているのだ。まさか魔人(仮)を町に行かせる訳にはいかないし。しかしキャリーの稼ぎは少ない。
「素子君、ギルドカードを出して見たまえ」
「これ?」
素子ちゃんは胸元からギルドカードを取り出す。
因みに何故ポケットでなくて胸元にいれているのか。それは『人前で出すときかっこいいから』だそうだ。
「このギルドカード、流石は異世界のテクノロジーじゃ。見た目は古くさくて気取ったカードじゃが、個人情報、各ギルド情報共有機能、預金管理が出来てセキュリティ機能までついておる。とても電気も使えない世界のテクノロジーとは思えん。まあ恐らくは別世界から来た何者かの置き土産じゃろう」
「凄いですよねー。でも、ギルドカードがどうしたの? はっ、まさかハッキングして預金泥棒?」
「素子君、流石によその冒険者の預金引き出しなんてせん。こういうのには手を出してはいかん。社会の秩序が無くなってやりにくくなるでな。そもそも冒険者は貧乏人ばかりじゃ。見てみたが、大半は借金持ちじゃ」
「なんだかんだ言って見たんだ・・・・」
「さて素子君、仕事じゃ。町に行くぞ」
「なんで?」
「だから仕事じゃよ、ふっふっふ。ギルドカード以外にもカードはあるからな」
「なんか悪い事考えてそう」
ーーーーーーーーーー
ここは勇者パーティー館。
聖女の作業場。先日『がん検診』をしたのもこの部屋だ。
「聖女様、お客様です」
職員の声に聖女はポーション作りの手を止める。出動、出張がなければ聖女はポーションを作ってることが多い。
ポーションとは治療薬だ。ヒール程の効果はないけれど、ヒーラーが居なくても治療ができるのは有難い。ただポーションは有効期限があるのでちまちまと作り続けなければいけない。だがこれも聖女の立派な収入源。
「仕事中すまんのう」
「聖女やっほー!」
ガタッ!
聖女は見たくもない人物の訪問に驚き椅子を倒す。美しい顔が青ざめる。
聖女としてはこいつらに関わるとろくなことにならないとビビりまくりである。
「ど、どうしてここに!衛兵は?職員は?」
「えー、勇者の病気治した博士だよーって言ったら通してくれたよ」
事実だ。
勇者の稲を枯らせたのは博士。
でも、田植えをしたのも博士だ。憎き博士達。だが聖女は強気に出れない。なんせ素子ちゃんに『恥ずかしい映像』を握られているから。
「ぐぬぬ!」
「それに彼の口利きもあってのう」
博士の後ろから現れたおっさん。衛兵でもなく職員でもない。だが聖女のよく知る人物。
彼こそは『聖女ファンクラブ』の会員No.1で会員のとりまとめ役でグッツ販売の権利を持つ男。つまりファンクラブ会長。
「でゅふふ。ご機嫌麗しゅう聖女様」
ひきつる聖女。
キモくて苦手な男なのだ。
だが彼を無下にするわけにはいかない。国民的アイドルの聖女のファンが暴徒化したら誰も止められない。ファンクラブとして統率してるからこそファンは節度ある態度をとるのだ。聖女の地方巡業で覗きや暴漢が近寄れないのもファンクラブのお陰だ。聖女の下着を盗もうものならファンクラブが地のはてまで追いかけて血祭りにするだろう。(まだ盗まれてない)
「よ、用件を言いなさい!」
「うむ。聖女君には一緒に風呂に入って頂きたい」
なにやらイヤラしい事を言う博士。
にやりとするファンクラブ会長。
聖女の背中にぞぞぞと嫌な汗が流れる。
「では始めようかの聖女君」
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ピコーン!
【聖女と一緒に風呂に入った伝説のバナナオークション開催決定!】
聖女ファンクラブ会員カードが町中で通知音を立てる!
聖女ファンクラブと素子ちゃんのコラボにより、『聖女と一緒に風呂に入った伝説のバナナ』のオークションが開催される。出品されるバナナはひとふさのみ。会長には報酬としてバナナを一本差し上げたら、そのバナナを胯間に挟んでウホウホ喜んだ。流石に聖女の風呂シーンを見せるとかしてない。それは聖女の女としての尊厳の為ではない。聖女の商品価値を下げない為だ。聖女に勇者の手垢がついてないのも幸運だった。
会長はよく働いた。たった一本のバナナで。
会員への臨時会報。一般への公示。オークション会場の準備に運営スタッフの確保。当日の屋台募集にバナナを頬張る聖女の巨大ポスターの製作。
イベント予定発表後、ファンクラブ会員が一気に増えた。そう、ファンクラブにはプレミアムオークション【聖女の胸に挟まれた伝説のバナナ限定一本!】に参加出来るのだ。実は会長に渡したのもこれと同じ谷間バナナだ。
ファンクラブカード発行は有料。
じつはこの会員カード。
博士がギルドカードの魔法術式を解読して更にアップデートした物。流石は天才だ。
ギルドカードに通信機能がついていることに博士は目をつけたのだ。そして博士は聖女ファンクラブ会員カード製作に着手した。ギルドカードに機能を追加インストールして流用する手段もあったが、管理団体の相手をするのがめんどくさいから無視。
かくしてギルドカードを見本にしながら、遥かに高性能なファンクラブ会員カードが発行された。
リアルタイム更新機能。
新着ニュース。
過去資料。
音声通信は出来ないが文字通信機能。
会員掲示板。
クラブ内自動決済。
会員送金サービス。
ポイント還元。
メモ機能。
電卓機能。
単なる会員カードでなくてモバイル通信アイテムとして物凄い人気が発生した。
驚いたのは、ファンクラブ会員が増えたらカードにAAで聖女を描く者まで現れた! カードには画像機能はなくテキストしか書けない。だが彼らは聖女を描いた! 博士も素子ちゃんもAAは教えていない。彼らが独自に編み出したのである。
欲望は発明の母!
そして、オークションイベントは大成功を納めた。会場は都内の1番デカいイベント場。会場は大勢の入札者と滅多に見れない聖女を近くで見ようとする人で溢れた。
会場外に沢山の屋台も並び、無関係の即売会もやってた。ファンクラブ直営店では聖女のポスターが山のように売れた。ついでに、非公認の聖女のヌードポスターまで売っていた。(実際よりも胸が少し大きく描かれていた)
本来なら、風呂バナナと谷間バナナに値がつくはずはない。作り話だろうと疑われる。実際当日朝まで殆どの人たちがそう思っていた。だが、当日オークション会場に本当に聖女が現れ、男どもの血圧が急上昇!
そう、素子ちゃんが無理矢理聖女を登場させたのだ。これがなければ風呂バナナの信憑性はなく値は上がらなかっただろう。
イベント終了後、ゲリラ販売していた聖女のヌードポスターを見つけた聖女は怒り狂っていた。
ーーーーーーーーーー
イベント終了。
ここはファンクラブ会長の事務所。
今収支が確定して、現金を振り分けている。今回の主催はファンクラブとエージェントの素子ちゃんの協同開催。あくまで博士は表に出ず、素子ちゃんが対応にあたる。
「ではこれが今回の素子さんの取り分です」
「やったー!」
会長がお盆にきちんと並べたお金をテーブルに置く。
金額ざっと600万G。
カードの売り上げの3割。
オークションの代金の4割。
である。
聖女にはオークションの売り上げの2割があとで渡される。
残りはファンクラブと会長の取り分である。会長は今回頑張った。事前投資は全部会長個人資産の持ち出しだし、イベントの企画進行と各種手配も全部会長だ。
見た目はデュフフと気持ち悪いがデキる男なのである。そして方々に顔が利く。
「でゅふふ、博士は凄いです。たった2万Gのバナナを700万Gにまで吊り上げるんですから。他にもいっぱい売れたし」
「うむ、高価と言っても伝説のバナナをチマチマ売っていては儲からん。かといって人工栽培して数を増やせば価値が落ちる。この方法が1番儲かる。何度も使える手ではないがの。オークションも何度もやれば段々値段が下がるし、聖女の価値も下がる。ここ1番という時でなければやらない方がよい。これで暫くはうちの村も安泰だしの」
「でゅふふ、セリは凄かったですなあ。風呂バナナは複数の入札者が手を組んでみたり、落札したあとに一本分ける前提で資金援助を募ったり、見てて面白かった。まさかあんなに吊り上がるとは。谷間バナナもとんでもない値がつきましたし」
「またやりたーい!」
「落ち着きたまえ。今回はこのカードを広める事が出来たのが収穫じゃ」
「会員カード?」
「そうじゃ。素子君にはまだ説明してなかったが、来月から新規サービスを組み込む予定じゃ。のう、会長」
「でゅふふ。楽しみです」
「なにするの?」
「オークションサイトじゃよ」
「すっごーい!」
「じゃが、今の所画像が表示できないので道のりは厳しいが、まあなんとかなるじゃろう」
村へ帰るとキャリーが600万の大金に圧倒されていた。
因みにキャリーのこの1週間のギルドからの報酬は2万100Gである。
【登場人物】
聖女ファンクラブ会長
一見キモオタだが、4万人の会員を従える大物。
聖女グッツの売り上げだけでなく、会員の人脈を使ってどの分野の仕事もこなす全分野興行師。
風俗に行くときはBカップの嬢を指名するが、その理由は聖女が推定Bカップだから。
どんなに目の前で素子ちゃんがスケスケを着ても下乳全開でも動じない!。彼は巨乳に興味はない。
今回のイベントをきっかけに博士の一派となる。