博士、村を救う?
ここはとある異世界。
そのとある異世界の郊外の農村。
「助けてー!」
「死にたくないー!」
「あなたあああああっ!」
「モリーナ!」
「あなたあああ!」
村は現在魔族に襲われてる真っ最中。
家は破壊され、食い物や牛は奪われ女子供が捕獲される。男は立ち向かうが無力だった。村で一番戦闘力のある者が無惨に殺され、もはや戦力の違いは明らか。
村を囲まれ逃げられず、助けを呼びにも出れない。
せめて勇者が助けに来てくれれば!と願うが現実は残酷である。
魔人は人と同じような姿をしているが、肌がサツマイモの肌のような色をしているし、ワサビの根っこみたいなツノがある。魔人はオークやゴブリンとは違う。人間と近い種族だがあちこち違って、なにより重要なのが違う国の民族ということ。ぶっちゃけ敵だ。そしてなんか危険な魔法をバンバン撃っている。見るからに悪役っぽい。
「おお、見たまえ素子君、キャリー君。魔人だぞ」
「すっごーい!本物?」
「ちょっと!ヤバいです!」
近くの山の上から村を見下ろす一行。
その先頭に立つのは博士。白髪で短髪、やや高くやスッキリとした体型。見た目のイメージは恐そうな科学の先生。
大きな鞄を持って後ろについて来たのは荷物持ち兼助手の素子ちゃん。未成年からオークまで虜にする万能名器の持ち主。
そしてビビりながら付いてきたのは元女騎士で現在冒険者と稲作をする兼業農家のキャリー。オークにもチェンジを要求されたまな板の女。昨日まで田んぼの畔を盛っていた。
博士はハード○フで千円で買った双眼鏡で村を覗く。
「異世界まで来た甲斐があるというものだ」
「魔人もウンコから魔力作るんですかねー?」
「それは手を突っ込んでみないとなんとも言えん」
内視鏡でいいんだが。
「あっ!」
キャリーが思わず声をあげる。キャリーの視界には、妻と子を庇って斬られた男の姿。斬ったのは魔人だ。
母子も危ない。
村人の危機に思わず駆け出そうとするキャリー!
だが博士ががっしりキャリーの肩を掴んで止める。
「離して!」
「落ち着きたまえ。これを」
博士は一本の鍬を差し出した。
「え?」
「武器は必要じゃろう」
キャリーは困惑した。よりによってなんでこれ? 確かに最近農具を使い慣れてきたけれど。
だが時間と武器は無い。博士から鍬を受けとると村に向かって全速力で駆け出した。
「行ったか」
「何あれ?」
「ふっふっふ。あれは聖剣の先っぽを切って足して打ち直した聖なる鍬じゃ。村で使わせてる鍬も聖剣をすこし刃先に使っているが、あれは更に多くの聖剣を含ませてある。魔力の強い今のキャリー君なら強力な武器になるはずじゃ」
「へー最近ガンガンうるさいと思ってたらそんなことしてたのねー。なんか、聖剣勿体ない」
「何を言う。大事なのは剣ではなく農機具じゃ。次は聖なる稲刈り鎌に聖なる熊手にも取り掛かるつもりじゃ」
キャリー速い!
騎士団でも下っ端で馬に乗れず足で走ることに慣れてるキャリーに魔力が宿ったなら足が速くなった!
改造手術後は縫合傷だらけの尻が痛くて数日ひょこひょこ歩いていたが、今のキャリーにそんな様子は無い。
術後少し落ち着いた所で博士に言われたように、肛門に指突っ込んでヒールを掛けたらばばんと完治した! 指突っ込んだままのフォームで快感と幸福感に包まれて変なものに目覚めてしまいそうだったがそれは秘密である。
走るキャリー。
今は兼業農家とはいえ、元は王国騎士団。国民の危機はほおっておけない。次々と斬られる農村の人達は救わねばならない。民の涙など見たくはない!
キャリーは必死に走った!
山を駆け下り柵を飛び越え、目指すは母子に剣を向ける魔族!
やけにしっくり来る鍬を振りかぶると魔人のガチャついた鎧に打ち込んだ!
鍬は刃が内向きなので長さの割には間合いが狭い。近づかないと攻撃出来ないのは戦いにおいては不利だが、恐怖心を怒りが上回る。そして超トップヘビーな聖なる鍬は厚目の金属鎧を貫いた!
鎧だけじゃない、魔人が構えてた剣も突破した! 流石は聖なる鍬!
倒れて動かなくなる魔人。
「うおおおおおおっ!」
この瞬間から聖なる鍬の戦士の無双が始まる。
たった一人の女が鍬で完全武装魔人を次々と倒す!
硬い鎧ごと身体を貫き更に振り切ると魔人の身体は引きちぎれて転がる。キャリーは感覚で悟った。この鍬は強い。
強そうな魔人と打ち合いになるが、鍬の柄も表面を粉末聖剣コーティングしてあるのでつばぜり合いでも負けたりしない。ただその時は鍬の刃を自分に向けないように注意だ! 当たると痛いからな!
聖女の77.7パーセントの魔力を得て聖なる鍬を自在に操るキャリーは強い! 伊達に農作業はしていない。
次々と魔人を血祭りにして追い込む!
強い! 強いぞキャリー!
事態の急変に集合して陣を組む魔人達。
それにひとり仁王立ちしたキャリーが聖なる鍬を構える。
「おお、よくやっとるのう」
「うわー、怒ったまな板こええ」
「聖女より強いではないか」
「今回は思わぬ収穫じゃ」
「なに? キャリーのこと?」
「いや、魔人の身体じゃよ」
「村じゃなくて?」
「うむ。余ってる村人スカウトしに来たがもっと良いものが手にはいるのう。早く解剖したいぞ」
「解剖、うああ、きもっ!」
そしてキャリー。
怒りは収まらないが自分でも気付かない疲れが溜まって来ている。体力か、あるいは魔力がヤバいのかもしれない。両方かも。
だが、頭に血が上ったキャリーはそれに気付かない。
「下がっておれ」
魔人の集団からひと際美しい鎧を纏った魔人が一歩踏み出す。
「お前が親玉か!」
キャリー、強気である。
「如何にも。ワシは魔王につかえる四天王のひとり、テンプー・ラである。女よワシの剣を受けてみよ」
素子ちゃんは山の上でこの名前にウケていた。
「私はキャリー。村人の仇! お前を殺す!」
更に進むテンプー・ラ。
鍬の柄の真ん中辺りに右手を上げるキャリー。威力より速度優先。
キャリーの右足の踏み出しを合図に二人が突進する!
ぶつかる剣と鍬! はねかえりからもう一撃!
テンプー・ラの圧に横に吹っ飛ばされるキャリー!
まだまだ! 突進するキャリー、何度も打ち合う!やや分が悪い。
「ううーむ、疲れてきたのかのう。まあ、あれだけの数を相手にすればのう」
「やっぱ、ダメかあ。モブだもんねえ」
「いやいや立派なもんじゃ。どれ私が行ってこよう」
「いってらー!」
キャリーの劣勢に博士が向かう。手には怪しげなゴツい銃。
「くっ!」
遂にキャリーに土が付いた。序盤の勢いは無い。
肩で息をし、聖なる鍬を持つ手も下がり気味だ。そしてテンプー・ラはまだまだ余裕。
見下ろすテンプー・ラ。見上げるキャリー。やはりくっころなのか?
その時!
「伏せたまえキャリー君!」
いつの間にか現れた博士が太めの銃をぶっぱなす!
ボッ!
やや気の抜けた音を出して飛び出した弾丸はテンプー・ラの右肩近くを通過した。
にっと笑う博士。
思わずわず嫌な予感がして振り返るテンプー・ラ。さっき弾が通過するときの感触、ヤバい!
振り向いたテンプー・ラの目に映ったのは大勢の部下がひとり残らず密着して、ひとつの大玉になっている! くっついたまま離れられずもがく部下達!
それだけじゃない、自分の身体も大玉に引っ張られている!
「何をした!」
「なあに、貴重なサンプルじゃ。魔人採集しただけじゃよ」
悪い笑みをする博士。
テンプー・ラは我を忘れて博士に剣を構えて走る! きっとこいつさえ倒せば部下は解放される!
だが、博士は銃のツマミを反転させてテンプー・ラにもう一発ぶっぱなした!
弾はテンプー・ラの胸に当たった瞬間爆発した!
そして煙が消えて残ってたのはテンプー・ラの膝から下だけ。
唖然とするキャリー。
そして魔人達。
こうして魔人の軍は壊滅した。博士の使った銃には超科学的重力弾。ブラックホール爆弾の開発途中でできた副産物。しかも銃は切り替えることで中性子弾にも替える事が出来る。
だが全てが終わった訳ではない。
「あなたあああ!目を開けてええええ!」
瀕死の男に寄り添い泣き叫ぶ妻。別の場所でも同じような光景が起こっている。
魔人は男ばかり殺し、女は残していた。奴隷の使用目的がよく分かる。
悲しみに抗う様に必死にヒールを使うキャリー。しかし、キャリーの疲れはマックスだ。そもそもヒールが上手い訳ではない。ヒールは発動している。だが怪我の方が大きい! 死ぬかもしれない、いや死ぬ!
ヒールの合間に真っ赤な目で必死に博士に何かを訴えるキャリー。
「博士ー、助けた方がいいんじゃない?」
「ううーむ。どうするかのう。おお、そうじゃ!」
そういうと博士は鞄から何か取り出した。
それをかしゃんかしゃんと組み立てる!
出来上がったのはドアの無い入り口みたいな物。その入り口には『上』、反対に『下』と書いてある。
そして、
「奥さんちょっと来なさい」
そう言って博士は泣く奥さん達を集めた。素子ちゃんにも呼びに行かせ、村中から未亡人予備軍が六人集められた。六人に何やら説明する博士。未亡人予備軍達は唖然としていたが、何か決意した一人が魔人大玉のうちの一人を指差した。それの額にマジックで数字を書く博士。それに続いて次々と未亡人予備軍が魔人大玉に指をさす。次々と魔神の額に数字を書く博士。
許可は得た。
「素子君。そっちの入り口から転がってる旦那を投げてくれたまえ! まずは1番じゃ!」
「らじゃー!」
「せーの!」
博士が拘束した1番の魔人に向かって門ごしに素子ちゃんが血だらけの1番の旦那を投げつける!
「どうか・・」
横では手を組んで祈る奥さん。
そして番号順に次から次へと魔人と死にかけ旦那をぶつける!
そして作業は終わった。
その後、追加でお一人さんもテキトーに選んだ魔人とぶつけた。
地面には死にかけ男と魔人が一杯転がっている。
ムクッ。
魔人が起き上がる。
未亡人予備軍のひとが恐る恐る魔人に話しかける。それに優しい顔で返事する魔人。抱きつく奥さん!
こんなやりとりがあちらこちらで次々と。
「凄いです博士!」
「うむ。魂移植はうまくいったのう」
恐る恐る会話に加わるキャリー。なにがなんだかわからない。
「あの、魂移植って・・」
「うむ。キャリー君は知らんだろうが、我々の居た世界では『学校の階段でぶつかって転げた二人は中身が入れ替わる』という現象があるのだ。この門の中には外からは見えないが、学校の階段が構築されておる。さっき見ていたであろう。この門の中でぶつけて魔人と死ぬ寸前の男の中身を入れ換えたのじゃ。今頃は魔人の魂は皆死体と一緒に死んでおる。そして旦那はこのとおり」
「そんな途方もないことが」
「キャリー君が知らないのも無理はない。他にも夢で男女入れ替わってオナニー三昧とか色々あるぞ」
「さっすが博士!」
「うむ。これでサンプルを運ぶのが楽になったわい。なんせ自分で歩いてくれるしな。残りは少ないから運ぶのは楽じゃわい」
「博士ー! 連れていくんですか?」
「うむ。身体が魔人では生き辛いであろう。目立たない我々の僻地の世界に連れていくとしよう」
結局話し合いで『入れ替わり者』とその妻は、全員博士についていくことにした。姿がアレなので秘境にいる方が都合がいい。そして入れ替わり者は行方不明ということにしておくことにした。生きてるとか死んでるとか決めずに曖昧にボカすのだ。
そして農業しながら代替えの身体が手にはいるのを待つという方針で手打ち。
まあ、元の村は働き手が減るが自力で頑張って貰うしかない。
「こ、こんなことが・・・・」
色々驚きっぱなしのキャリー。
まさか魔人の体と入れ替えるなんて思ってもみなかった。
「キャリー君、しっかりしたまえ。君が暫定で村長じゃ」
「ええっ!」
【魔人豆知識】
魔人は人間より平均1割増しの体格。力は三割ちょい多い。魔力も大体三割増し。遺伝子的には人間に近い。
そして魔人の社会では権力者が多くの女を娶り、下っ端は未婚が多い。欲求不満は人間の女で解消する。
【登場人物】
テンプー・ラ
魔王の部下 四天王の一人。現在バツイチ。
欲求不満解消の為に人間の村を襲う。あとついでに食料も。
キャリーとの戦闘中に、キャリーの胸元からポッチリが見えた。