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博士、納豆を欲しがる

 ここはとある異世界。

 その異世界のとある王都のとある狭い部屋。



「うう~よく寝た。お早う御座います博士」


「お早う素子君」

「あれ、まな板は?」

「まな板とは酷いのう。まあ勝者の余裕かの。キャリー君には朝飯をパシらせておる。もうそろそろ帰ってくるだろう」


 ここは先日のまな板女騎士のアパート。狭い。

 まな板女騎士の名はキャリー。

 先日のオーク討伐失敗のあと騎士団を辞め、冒険者(フリーター)になった。

 任務失敗は辞める理由にはならないが、オークの巣からボロボロな姿(はだか)で生き延びたことで、仕事仲間に『オークに一晩中ガン突きされた女』と認定されてしまった。かといって偶然居合わせた一般人を身代わりにして逃げたとも言えず、いたたまれないので失意のまま騎士団を去った。ついでにまな板もバレた。在職中、格安の騎士団宿舎を断り、外にアパート借りてまで隠しとおしたのに。

 まな板情報をばらした外門衛兵許さん!とキャリーは恨んでいる。

 少し恋仲になりかけたイイトコの長男は生暖かい目で別れの言葉をくれた。

 ぐぬぬ!


 キャリーはその時も思った。


 くっ、殺せ!



「戻りました」

「お、朝食が来たようじゃ」


 きっ!

 素子ちゃんがキャリーを睨むとキャリーはびくんと目を伏せた。立場は素子ちゃんが上である。逆らえない。なにせ、素子ちゃんに犠牲になって貰ったからキャリーは逃れたともいえる。

 因みに、役職としてはキャリーの方が上だ。

 キャリーと素子ちゃんは冒険者登録してパーティーを組んだ。リーダーはキャリーである、地元民だし。

 博士は登録しなかった。



 キャリーの買ってきた朝食を食べる三人。

 こちらでは普通なのか、具の少ないピザのような物と塩気の少ない汁物。


「どおーも、異世界の朝食は味気がないのう」


「す、すいません」

 ビビるキャリー。

 キャリーは現在極貧なのでこの食費も博士に出して貰った。美味く無いと言われると小さくなる。


「いやいや、文句は君に向けて言ったのでは無い。お国柄というものじゃろう」

「でもなーんか物足りないですねえ」

「す、すいません」


「よし、明日は納豆にしよう」

「ナットー?」

「あ、納豆いいかも」


「では決まりだ。これより納豆の準備に入ろう」

「あの、ナットーって?」

「食えば判る。ふっふっふ。素子君とキャリー君は醤油とカラシの代替え品を買いに行ってくれたまえ。ケンカするでないぞ」




 ーーーーーーーー




「博士ただいまー。あれ?その人たちは?」

「ただいま、え? うわああああああ!」



「ええい、五月蝿いのう。丁度勇者パーティーが居たんで協力してもらうことにした」


 部屋の壁際には紐でぐるぐる巻きにされ座らされた女。さらに床には縛られて手足を部屋の両端から引っ張られた男が二人並べられている。背泳ぎのスタート直後のフォームみたいな格好だ。



「ゆ、勇者様!」


 叫んだキャリーの顔が真っ青になる。

 そう、ここにいるのは勇者パーティーの皆様。

 縛られてる女は名高き聖女様。

 紐で手足を縛られビヨーンと伸ばされてるのは勇者その人である。ついでにメンバーの大剣士も。

 勇者パーティー(特別公務員)の勇者達はかつてキャリーにとって上司以上の存在。身分は騎士団長よりも遥か上。強さも上。キャリーが百人で立ち向かっても勝てはしない。

 聖女に至っては、コンテストを開かなくても国一番の美女という清楚系美人。ガチファンが多く、敵に回してはいけない存在。

 へなへなと座り込むキャリー。騎士団(公務員)やめといて良かったと内心思った。博士、恐ろし過ぎる。



「よし、素子君キャリー君、早速始めるぞ。

 勇者パーティーには聖女というお徳用専属看護婦がおる」


「あ、ヒールとか使う奴ですね」

「あわわわわわ」


「その通り。ヒールとはグログロな大怪我もぶおーんと治す便利なやつじゃ。私の仮説ではそのヒールの最中はその辺りは時間の進みが速いのではないかと思う。治癒の速度を早めるためだろう。そこでだ」


 博士は一握りの大豆を取り出した。


「ここに日本から持ってきた少々の大豆がある。これだけでは人数分の納豆には足りないので、この二人の体を畑にして増やそうと思う。豆は既に水に戻してある」


「博士すごーい! 豆育てるんですね~」


「その通り。私の予想なら今日だけで数キロの大豆が収穫出来る。なんなら残りの時間で味噌作りも出来るかもしれん」

「やったー!」

「えええええっ!」


「では早速取り掛かろう。素子君、この二人の服を剥いでくれたまえ。キャリー君は大量の水を用意じゃ」


「うごーうごー!」

「ふがーふがー!」

「ごふーごふー!」

 猿ぐつわのまま悶える勇者パーティーの皆様。

 二人の服を遠慮なく切り刻む素子ちゃん。だって紐が邪魔で脱げないんだから。

 びよーんと引っ張られた畑役の裸の男二人。勇者と大剣士である。

 あ、なんか勇者泣いている。


「博士ぇ」

「なんじゃ」

「勇者って、思ったより小さいですねえ。ゴブリンより小さいし。そっちの人はまあまあか」

 その言葉にさめざめと泣く勇者。小さいとは当然アレのこと。

 ちなみに素子ちゃんは異世界きてゴブリンに襲われたことがある。博士の命令で「異世界には蚊がいない説」を検証するために草原で裸になってたら襲われた。

 博士は助けない。それどころかゴブリンの肌に虫刺されの跡がないか観察していた。


「仕方なかろう。君が通なだけじゃ」


 素子ちゃんにしてみればそう感じるのも無理はない。先日だってオーク四人(大根四本)を一晩中相手にしたばかりてある。

 逆にキャリーには、ポークビッツですら未経験であるが震えながらもガン見している。


「次はヒールの準備じゃ。素子君、そこの剣を貸してくれたまえ」

「これ?」

「さっき勇者からカツアゲした聖剣じゃ」

「マズイ!マズイです!」

「心配いらんキャリー君。あ、ほれ!」


 そう言うと博士は勇者と大剣士の身体をまんべんなくザクザク切り始めた。流石は聖剣、勇者の強靭な肌もザクザク切れる。


 仲間の惨状に側で目を剥きながらうーうー唸る聖女。猿轡でも五月蝿い。因みに勇者と大剣士は気絶してしまった。


「よし、素子君豆まきだ!」


 そう言うと博士と素子ちゃんは分担して豆まきする。勇者と大剣士の身体に載せられる豆。

 もう素子ちゃんの倫理観は博士に破壊されてしまった様だ。血まみれの男達に全く動じない。それどころか豆が転がり落ちないように傷口に挟んでいる。

 そしてキャリーはこの光景に失神寸前だ。


「では、聖女の出番じゃ」


 博士が聖女の縄を解くと怒った聖女が勇者の上の豆を払い除けようとする。だが、


「余計な事をするでないぞ」

 聖女の喉元に聖剣を突きつけ制止する博士。

「貴方って人は!」

「大人しくヒールをかけんか。これは朝食の・・いや、科学の実験じゃ」

「くっ!」


 聖女はキッと博士を睨むが仕方なく二人にヒールをかけ始める。命令に従うのは屈辱だがヒールをしないと勇者が死ぬ!

 なんか、へんてこな呪文の後に聖女の手元が青く光る。

 それを治したい者に向けると青く照らされた部分から治癒が始まる。聖女のヒールの甲斐あって出血は止まった。

 そして。


「おお、素子君成功じゃ!豆が育っておる、もっと水じゃ日光じゃ!」


 博士は目一杯窓を開け扉も開け、素子ちゃんは小刻みに水を撒く。

 良い畑でぐんぐん伸びる豆の木。

 この成長ペースは観察日記をしていたらスケッチが追い付かないくらいだ。

 勇者と大剣士の全身に茂る木に実る大量の大豆。茂りすぎて身体が見えない。びっしりと身体にまとわりつく根っこ。そして豆の木が黄色くなってきた。豆のさやもふっくら。


「ううむ。畑がいいと育ちがいいのう。素子君そろそろ収穫しよう。聖女くん、もういいぞ」


 直後意識を失い床に崩れ落ちる聖女。倒れるときにさらりと床に流れる衣装はやはり高級品のようだ。流石は高給取り。そして床に崩れ落ちただけなのに絵になるのは美人故。

 聖女、疲れでくたばったらしいが放置。

 ザクザク豆の木を刈る博士と素子ちゃん。それを吊るして天日に干す。

 ここまでざっと1時間。流石は勇者パーティーである。


「よし、良い出来じゃ。後は乾燥、水戻し、煮豆、納豆菌使って熟成じゃ」

「博士、納豆菌って?」

「稲ワラにくっついておる菌じゃ。少々持ち合わせが有る」

「イナワラ?」

「米の茎じゃ」


 二人はそこではたと気が付いた。

「「ごはん!」」


 そう、納豆には白米が必須。

 パスタ、焼きそば、サラダなど納豆を使ったメニューは多いが、やはり白ご飯が最強だ。


「素子くん急げ! 時間は無いぞ! できれば二毛作するのじゃ!」

「はい!」

 鞄からモミ(ゆめぴかり)を取り出す博士! そのまま田んぼ(二人)を耕し始める、聖剣で。

 素子ちゃんは種モミをぬるま湯に浸し、気絶してる聖女に往復ビンタをかまして叩き起こす!


「あわわわ」

 腰を抜かすキャリー。





 かくして翌朝、ホカホカのご飯と納豆という最高の朝食が出来上がった。

「博士、美味しいです! 納豆も美味しいです!」

「うむ。昨日採れたばかりの新米だからの!」




 だが、

「腐ってるぅ・・・・・」

 一人食えない奴がいた。←キャリー

 アーメン。







【登場人物】

 勇者

 まさしく勇者で人類最強・・の筈。チートだが心は打たれ弱い。畑にされてあっさり気絶。わりとイケメン。

 聖剣は博士にカツアゲされる。

 米収穫後解放された後、聖女によってヒールをかけられると刈り取った筈の稲の切り株からまた生え穂が実るという珍事が起きる。慌ててブチって投げ捨てたら、王都で雑草化した稲が広まる。


 大剣士

 勇者の次に強い人。

 勇者と同じ目にあうが、切り株から伸びた稲の穂は聖女にブチってもらえず、自宅への帰り道、自分でぶちって周囲に捨てた。ここも稲がばら撒かれることになる。

 実は聖女が好きだが、そうと言えないシャイ中年。


 聖女

 貴重なヒールを盛大に使える。

 他にも魔法技があれこれあるが特技はやっぱりヒール。だが、ヒールは水虫には逆効果。

 美しく清楚な見た目。貧乳だがまな板ではない。自称『美乳』

 聖女は建前上、神につかえるので結婚は出来ないとされているが、隠れて勇者と付き合いたいと思ってるムッツリ。隠れて付き合えるなら愛人(セフレ)でもいいと思っているが、勇者はナニもしてこない。

 聖女にはファンクラブがあり、そこから結構な収入がある。

 大剣士はおっさんだし、自分より低収入なので無視。



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