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博士、ミリアに心を見る

 ここはとある異世界。

 その異世界のとある孤児院。


 孤児院の聖堂は地獄と化していた。

 首を真横に切った傷口から吹き出すように血を吹く娘。

 最後の言葉はざっくり切れた喉のせいで声にはならない。口だけが弱々しく動く。ミリアの読唇術だけが読み取る事が出来た。

 そして口すら動かせなくなった少女にミリアは強く答えた。


「ロナルドには貴方は強くあったと伝えるわ。この死は貴方の愛の証だもの」


 ミリアの声を聞いて娘は涙で濡れた瞼を力なく半分閉じた。

 娘の生涯は今終わった。

 ミリアが彼女を優しく横たえ手を組ませて瞼を閉じさせる。




 時は少し遡る。


 勇者が繰り返す青姦ショー。

 もはや国で知らない者は居ない。

 ショーが起こる度に人だかりができた。

 第一皇女もショーに7回晒された。

 怒った国王は勇者パーティーのギルド代表に言い放った。

「勇者の破廉恥行為をやめさせろ、でなければギルドを潰す!」

 ジータとマリーだけなら国王も我慢できたが第一皇女を晒し者にして金を取ったのは許せない。

 第一皇女に婚約破棄と勇者パーティー脱退を言いつけたが、逆ギレされて勇者を嗾けるとまで言われた。

 聖剣を失って弱くなったと言われる勇者だが、王宮を攻め落とすくらいは容易い。

 だが、第一皇女を晒し者にされて引き下がる訳にもいかない。

 ならば王はギルドに圧力をかけた。そのことについては第一皇女は何も言わなかった。青姦を否定されただけで勇者との間柄には問題ない。


 勇者パーティーのギルド代表は考えた。

 口頭で禁止されたのは青姦だ。管理地内、しかも屋内なら問題ない。中庭くらいは良いだろう。

 安全の為、第一皇女は引っ込めよう。そうすると女優が4人から3人に減る。補充が必要だ。

 情報集めをした結果、いいものが見つかった。


 借金持ちの孤児院と年頃の女性孤児シャーリー。

 シャーリーは美しい。

 シャーリーは大恋愛の末、大工の見習いロナルドと結婚間近。もうすぐ孤児院を出てロナルドと暮らすはずだった。

 誰もが二人の未来を祝福した。


 その日、ギルドは孤児院に現れた。勇者パーティーを連れて。

 ギルドは孤児院の借金を買い取って居た。立ち退きを要求する権利を買ったのだ。幾ばくの引っ越し代は渡すという。

 ギルドはこの孤児院を勇者のショー会場として使うつもりだ。

 この孤児院は旧教会で素性の良い建物。だがそれは慈善事業の孤児院には少し維持費が高い。それもギルドの狙い通り。


 ここの他にあと二箇所同じような建物が購入計画に上がっている。

 ここを含めた三箇所で『勇者パーティーの営業』をするつもりなのだ。


 そしてギルドの思惑通りシャーリーは罠にかかった。

 大恋愛の彼が居るシャーリーを勇者は見逃したりしない。

 孤児院の危機に怒って立ち向かうシャーリーに勇者は一気に距離を詰めた(物理的に)

 直接手を握り愛を囁く勇者。シャーリーは驚いた! 心と体が侵食される!

 必死に得体の知れない力に逆らおうとするシャーリーの背中を抱く勇者。

 更に得体の知れない力は押し寄せてくる。

 必死に逆らうシャーリー。


 孤児院を訪問しに来た素子ちゃんとバズー君とミリアが異様な気配を察して慌てて中に押し入る!

 今日は孤児院にバイト募集に来たのだ。

 野次馬と冒険者をかき分けて入った孤児院の広間で見えたもの。

 それは自身の生活用ナイフで首を掻き切る娘の姿!


 勇者への肉欲に逆らい愛するロナルドへの想いを死守する為に死を選んだ。

 シャーリーは聖女ファンクラブ会員カードは持って居ない。そんなのを買うお金はない。だが、勇者の危険性は噂では聞いて居た。そんな事があるものかと信じて居なかったが、得体の知れない力に全てを悟った。


 そして自分の道は二つしか残されてないということも。

 勇者に股を開くか、ここで死ぬか。

 シャーリーは迷わず選んだ。




 場が凍りつく。




 ギルド代表は焦って居た。

 女は全員勇者に完落ちすると思って居た。まさか自害するとは!

 焦りながらも勇者にはこの娘は頭がおかしかったと言い訳する。

 勇者パーティーの女3人は愛を貫いたシャーリーにとててもない敗北感を植えつけられ、眠り始めて居た罪悪感にまた包まれた。


 そして必死に血だらけの娘の治療を訴えるバズー君と素子ちゃんをミリアが制した。

「もう手遅れです。身体中に麻薬が蔓延してますから。せめて彼女の最後の意思を尊重してあげてください。彼女は恋人への愛を貫いたのです」

 ミリアの言葉に勇者は何も理解出来ないで居るが、女3人には心臓を叩き潰されたのごとく痛く理解した。それでも性欲に逆らえない自分達。


 ギルド代表が叫ぶ!

「その女は自殺だ! 勇者は殺してない!」

 それは事実。


 青姦を見に来てたのに青ざめる()()


 ミリアが声を荒げる。

「この汚物め」

 ミリアが睨むのは()()


 素子ちゃんはただただ泣き、バズー君は勇者に向かって剣を抜きかけたがミリアに制止された。

 あくまでこれはシャーリーの自殺。

 彼らは手を下して居ない。


 その場はそれで収まった。

 この孤児院はギルドに立ち退き要求されなかった。

 こんな事件の現場でショーが出来る訳がない。

 キャリー村の勧誘も少し様子をみることにした。



 シャーリーの葬儀の後、ロナルドも自殺した。

 勇者パーティーの青姦ショーに沸いて居た人々も数割正気に引き戻された。





 後日、博士は考えた。

 明らかにミリアには人の心が存在すると。









【クオラと御隠居様】

 数件しかない魔族の村で『クオラと御隠居様の結婚式』が執り行われた。

「あなた達、誰にも祝って貰ってないんでしょう?」

 優しい地主の老夫婦と近所の老人達に祝ってもらう。過疎化してる村だから参列者に若者は居ない。

 差し出した土地代も半分返された。

『貴方、仕事も失って実家も捨ててこれから大変なんだからお金は大事にしなさい』

 と優しい言葉で諭される。



「ざ、罪悪感が・・・・・・」


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