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博士、葬儀には出席しない

 ここはとある異世界。

 その異世界の王宮。




 あれから一月。

 五十五歳で生涯を終えた先代国王の葬儀が行われている。


 初日、示の儀

 中日、祈の儀

 末日、旅の儀

 大物有名人の葬儀は三日間。故人の偉業と遺言を示し、故人への祈りをし、故人の魂の旅立ちを祝う。

 国は三日間、喪に服す。




 で、案の定御隠居様はキャリー村で生きて居た。


「ううむ、ありきたりな展開になってしまったのう。これでは『◯スト キッド』ではないか」

「博士、バズー君はよくあの条件飲んだよね」

「本人が飲んだのだからいいじゃろ」

「でもねー」


 御隠居様は既に死を受け入れた身。若い頃は戦いに明け暮れ、何度もピンチに陥りながらもはね除け、壮絶な濃い人生を送った。そして病に臥せって自分の人生という舞台をの終わりを受け入れた。

 だが、土壇場で博士に出会い、細胞サンプルを渡し自身も生きることにした。それは説得されてだ。飛びついたのではない。

 御隠居様はある条件をバズー君に出した。それをバズー君は飲んだ。

 御隠居様はバズー君に魔力()を渡す事を認め、自身も生きる道を選んだ。御隠居様の内臓はボロボロで使い物にならなかったが、腸でなくても一部分健康な細胞があれば大丈夫。大急ぎで博士はSTAP細胞育成をした。これにはミリアの技術が大いに役に立った。ミリアの持つ技術は地球のSTAP技術より進んでいる。

 王宮から『御隠居様』の回収は秘密裏に行われた。なにせ、周りの者には秘密。

 まずは御隠居様に数日間意識混濁の芝居を打ってもらい、聖女医師団が診察に行き『中身のすり替え』を行った。運び容器として使ったのは紙工場の捕虜の体。

 その作業はグロく、語れるものではない。







 どさっ!

「ぐぐっ」

 バズー君が地面に叩きつけられる。今は格闘訓練中。


「すぐ起きろ! 戦場では休んでる暇など無いぞ!」

 御隠居様がバズー君を無理矢理立たせてもう一発投げる!

 今度は素早く転がり立って斜めから御隠居様に飛び付くバズー君。だがあっさり返り討ち。



 御隠居様は今絶好調!

 しかも、今使ってる体は魔人の体! 御隠居様曰く『面白そうだから使ってみた』だそうだ。

 サツマイモ色の肌。ワサビの根っこのような角。

 対人間で、高さ1.1倍、幅1.1倍、前後幅1.1倍。体力1.3倍強。

 現魔力はありし日の御隠居様よりは遥かに劣るが筋力では上回る!しかも中身はかつての鬼神!戦闘狂!そんな男が魔神の健康体を更に鍛え上げた。

 強い!

 強すぎる!

 バズー君は腸移植しているのに全く歯が立たない。筋力強化は既に使っている。魔力では魔人の御隠居様より上のはずなのに経験の差なのだろう。


 ついでにもうひとり一人地獄のシゴキ(とばっちり)を受けている。

 バズー君の組手の相手で呼ばれた筈なのに一緒に投げ飛ばされている。


「うげえ!」


 巻き添えでぶん投げられるキャリー。

 全く容赦がない。

『おっぱい触った!』

 と、抗議しても、

『そんなもんどこにも無い!』

 である。


 寝たきりの毎日から解放され、生き生きとする御隠居様。そして、めんどくさい身分から解放され晴れ晴れとした御隠居様。



 特訓を遠くで楽々眺めるのは博士と素子ちゃんとミリア。

「ミリア君にはどう見えるかね?」

「現状では御隠居様を100とすれば、主は14、キャリーさんが29と言うところでしょうか。肉体の差は二倍以内の筈ですがそれ以上の差を開けるのは流石は御隠居様です。訓練で主も成長していますが、御隠居様もまだ伸びてます。更に差が開いてるかもしれません。流石は闘将です」

「君にもそう見えるか」



 現在の肉体は御隠居様>バズー君>キャリー。

 魔力はバズー君>>>キャリー>>>>御隠居様。

 総合戦闘力は御隠居様>>>キャリー>バズー君。


 経験の差というのは恐ろしい。




「よく見てなさい」

 御隠居様は直径一メートル程のファイアボールを木に向かって射った。

 綺麗な丸いファイアボール。理想形と言われるもの。


「現在のファイアボールの主流はこれだ。パワーの集約化と到達距離の面から見てこれが理想形だ」

 フムフムと見つめるキャリーとバズー君。


「だが私はこう射つ」

 御隠居様はファイアボールの片手投げをした。普通の形じゃなく引っ張って伸ばしたようなファイアボール。ひょうたんのように歪なファイアボールは進みながら揺らめく。

 くるんくるんと回りながら進むひょうたん形ファイアボール。そして、立ち木に当たるというルートなのに回転の隙間に入って向こうに抜けた。遥か後ろで爆発するファイアボール。


「もう一発!」

 またもや木を跨いで向こうに抜けるファイアボール。

 やはり木は無傷だ。


「出来るかね?」

 キャリーとバズー君は唖然とした。不思議な使い方だ。まず、歪んだ形というのが出来ないし、回転をコントロールするのも出来ない。そしてこれが何の役に立つのか?用途は限られてるが、すごい技術には違いない。

 バズー君はファイアボール自体初めてだし、キャリーは軍時代は美しい球形が理想と叩き込まれてきた。(豆粒程度の大きさしか出来なかったけど)


「夕飯まで練習!」

 御隠居様は二人を置き去りにした。

 博士達の方に向かう御隠居様。ミリアが相変わらずの無表情で水を持ってご隠居様を出迎える。

「御隠居様有り難うございます」

「なんのことだ」

「御隠居様のお陰で主が死にたいと言わなくなりました」

「死と隣り合わせになれば、死にたいなどと言わん。私の力を受け継ぐのだ。強く成って貰わねば困る」

「でも、ミリアの言葉も凄かったよねー『強くなければ死ぬことも出来ません』だっけ。なんか意味深よねー」

「事実です」

「君は相当辛い世界に居たのだね。宇宙と言うところを私は知らんが、厳しい処なのだろう」

 そこからミリアは無言になった。



 ファイアボールを練習している二人の所に聖女が来た。

 聖女は今日は公務で忙しかったが終わったらしい。

 御隠居様の葬儀の出席で送辞もした。役職持ちは辛い。

 キャリーからなにやら説明を聞く聖女。そして聖女がひょうたん形ファイアボールを投げる! 木に当たってしまったが半分成功だ。 ドヤる聖女。遠目に見ても悔しがってるのが判るキャリー。バズー君は大人しい。悔しがってまたキャリーがばんばん投げるがことごとく失敗。形にすらならない。


 それを眺める素子ちゃん。

「やっぱ、聖女の方がキャリーより上手ねー、バズー君は覇気が足りないわねー」

 素子ちゃんがせんべい食べながら呟く。バズー君には何か決定的な意思の力が無い。目的は無いが強くなる意思を決めたバズー君。だがまだいまひとつ。

 ご隠居様が答える。

「ああ、彼は守るべきものを奪われ、行き先を失ったさ迷う小舟のようだ。恋人を奪われたといっても助けを求められてる訳ではない。『憎い』とか『死ね』とかは言われてないそうだから憎まれては居ないのだろう。勇者に窓から放り投げられたと言っても自分から突っ掛かった結果だ。勇者は自分にすがる恋人を守ったにすぎん」

「ご隠居ー、勇者って魅惑の魔法とか有るのー?」

 素子ちゃんは無礼な物言いだが、ご隠居様は咎めない。なんせ、今はただの魔人。王族とは無関係の存在。

 聖女やキャリーは気を使うが、DNAとしても王族ではない。

「さあなあ。皆それぞれ違うからわからん。魅惑は有るといえば有るかも知れん。思うに魅惑というより恐らくは相当の快楽を与える神経快感なのかもしれない。長年の愛をあっさり超える快感。話を聞く限り勇者の恋愛は寝取り行為になってるな。じゃあ、寝とったら満足するかと言ったらそうではないようだ。()()では毎日盛ってるらしいな。それもマンネリ化は無いらしい。()()だ」


「もし?」


「もしだ、いや私の想像だが女性たちは、まだかつての恋人を愛しているのかもしれない。だからこそ勇者は欲情する。そこに絶対的快楽を与える。勇者が絶対的快楽を与えるのは愛してる相手だけだ。歪んだ愛だが本気の愛だ。昔、そう言う勇者が居たらしい。それと近いかも知れない」

「じゃあさー、女の方が元彼の未練なくなったらどうなるの? 昔、そう言う人が居たんでしょ?」

「多分、捨てられる。勇者を愛した瞬間に捨てられる。そして勇者の愛の快楽を味わったら他の男では満足出来なくなる。そしてそれでも新たな愛を育めば勇者がまた寝取りに戻って来るだろう」

「なにそれエゲツなっ!」


 もし、女たちを勇者から引き離すには勇者に心まで惚れさせる。

 その時は惚れた勇者に相手にされないという悲劇が待っている。

 勇者が自分を愛するものを愛する恋愛観の持ち主だったなら平和でよかった。

 勇者は女を愛し女も勇者から離れられない体になる。


「バズー君に新しい恋人でもできれば張り合いがでるのかなー」

「いえ、主はそれはしない筈です。皆さんの話を聞いて居ますから。奪われるくらいなら誰も愛さないと言ってます。駄目だと分かっていても恋人と妹さんが心配で町を離れられない。恋人が出来ていればまた勇者の目にとまる。諦めきっています」

 珍しくミリアが意見した。


「なーんだ。キャリーと仲良くすればいいと思ったのにダメかあー」

「キャリーさんは主の好みでは無いです。町での主の目線の統計で解ります」

「げ! なにそれよく見てる!」



 ーーーーーーーーーー


 夜、バズー君にミリアがカマド兼暖炉のための薪を渡す。

 珍しくミリアがバズー君に発言した。いつもならバズー君が聞かなければ喋らない。


「主様、会えない二人のことが辛いですか? 」

 バズー君は答えない。

 ただ、表情で全て分かる。

「愛してる人に愛されないのは主様だけではありません」

「・・・・・・」




「私も同士です。あなただけではありません。共に耐えましょう」






【ご隠居様】

 秘密工作により精神だけ生き延びた戦闘狂。

 病気になってからは訓練場が見える部屋で若者を見下ろして目を細めていたが、実際は若者の汗ばむ筋肉を見てハアハアしていた。

 魂の入れ替えは寝ているベッドに『門』を置き、袋入りで生命維持装置付き生首をぶつけるという荒業をする。

 現在は村でストックの魔人の体を使っている。

 かなり気に入っている様子。

 制欲より戦闘が好きなおっさん。








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