博士、荷物持ち君を得る
ここはとある異世界。
その異世界の僻地、キャリー村。
村長は週に一度の研修の日で聖女の元に行った。因みにキャリーも会員カードを新たに買って一般会員登録した。
会長が聖女に一台どうです?と会員カードを勧めたが、カードのスタート画面が半裸聖女(ドット絵)だったので見た瞬間に拒否された。
久しぶりにゆっくりとした時間が取れたので、研究のために捕虜の魔人のケツに手を突っ込む博士。間違えてはいけない。性行為ではなく研究だ。そして麻酔はない。
そして研究のために使い終わった個体は山で処分される。魔人の亡骸には栗が植えられ聖女のポーションがかけられた。数年と待たず栗拾いが出来るかもしれない。
「うーむ」
考え込む博士。
「どうしたんですか? 博士」
「素子君。魔人達の腸は魔力を吸収する機能があるが、魔力を生成する能力は無い。或いは肝臓あたりに魔力生成能力があるかと疑ったがそれもなかった」
「へー、どういうこと?」
「つまり、魔力を宿したものを食べて魔力を得ておる」
「なに食べるの?」
「それはわからん。だが予想はある程度出来ておる」
「人間?」
「まあ、この世界の人間は魔力を持つから食べれば魔力を吸収できるはずじゃ。食糧の猫族も魔力を有している。猫族を食べるということは人間も食べるかもしれん。だが、見たであろう。猫族は加工されていた。やはり魔人も人型は食べるのに抵抗があるのだろう。だから加工する。我々日本人も好物だといっても、皆が牛を直接屠殺したりはしない。自分がしたくない、見たくないからスライスされたものを買う。魔人も人型の解体は見たくはないだろう。しかし、今のところ魔力を多く含んでいる食物は人間じゃ。猫族はその半分。他にも植物や野生動物にも魔力を持つものが有るのだろうがの」
「うわぁ、人間の敵じゃん!」
「もしこの世界に神というものが居るならば魔人の設定を聞いてみたいのう。食物連鎖の頂点としたのか、或いは自力で魔力を作れない落ちこぼれなのか」
「よくわかんなーい」
謎は多い。
さて、以前紙工場から捕獲してきた人間が居たのだけれど、半分は殺処分となった。残酷だが釈放とかは無い。彼らの持つ情報は猫族の悲劇の元になる。
さて、連れてきて保管されている人間の捕虜は8人。村の魔人(仮)は11人いる。村民(男)が人間に戻る為の身体として最初は8人全部必要だろうと思われたが、引き取り手がないのが4人出た。
原因は『好み』
贅沢な! とは言ってはいけない。一生を決める大事な決定だ。持病持ちと不細工は不人気だ。特に奥さん達の審査は厳しかった!
フツメンどころかイケメンを要求する。展示会では、奥さん達は体つきだけでなく捕虜のパンツを下げて細かくチェック。ケツ毛や胸板も厳しくランク付けされた。なんせ、倫理的村ルールで体の獲得は一回きりとしたから。何度も旦那の入れ替えとかは禁止。
当然妥協はしない!
今回決まらなければ次を待つ!
更に独身者も好みがうるさい。町でナンパをするにはイケメンじゃないと厳しい。彼等も必死だ。
更には特殊なケースで、魔人(仮)と致してしまった奥さんが出たのだ。『ヤってはいかんぞ』と博士に言われていたにも関わらず。
魔人のアレは人間の長さは1.1倍だが1.3倍強さを持つ。(強さってなんだよ) 好みは人それぞれだが、その奥さんは大変満足したらしい。その奥さんは身長があり、以前の旦那の体はちょっとアレで物足りない日々だったようだ。
この奥さんからは『ガチムチ高身長希望』とはっきり言われ、旦那は未だに魔人(仮)のまま。旦那は『早く人間になりたーい!』と言ってたが。
そしてなんだかんだ言ってみんな村に留まっている。
そして猫族。
安全なキャリー村に来たはいいけれど、村には魔人と人間が居る。理屈では分かっていても嫌なのだ。安全だと言われても見た目は散々危害を加えて来た相手。
だから、猫族は奥地に移り住んだ。オーク村より奥地に。元々警戒心が強いという性質も持つし。
だが猫族村は上手く行ってない。食糧難だ。
なんせ元は家畜。
今まで働いたことがない。
見よう見まねで狩りや栽培をしてみるが上手くいかない。技術と経験が無さすぎる。しかも、オスは肉と皮を増やすために飼育で太らされた。ちょっと走るとすぐにバテる。猫なのに豚だ。
仕方なく、定期的に人間村に食料を貰いに来る。恐怖心を克服した猫族の仕事だが。
なんやかんやでキャリー村の食料は大半を外から購入している。
村長はキャリーだが、大黒柱は毎週大金が振り込まれるカード持ちの素子ちゃんだ。
そして村長キャリー。稼ぎで貢献出来なくても、医療で貢献したいと聖女に弟子入りを申し出たのはキャリー本人だ。
キャリーと接してみて、聖女は常識人のキャリーを心から弟子にすることにした。だが、制限はある。キャリーは博士一派だからおおっぴらに仲間にはできない。
ぴこーん!
「あ、キャリーから報告だ」
会員カードを読む素子ちゃん。キャリーは都内のアパートに泊まる時は連絡することになっている。
「キャリー君はなんと言っとる?」
「今週ずっと聖女が公務暇だから毎日教えてくれるって。だからアパートに寝泊まりするから、村のこと宜しくってさ」
「ほう。それは良いことじゃ。キャリー君がポーション製造をマスターすれば短期栽培に役立つしのう」
「そうよねー! あ、勇者パーティー速報。期待の新人の娘が加入だって。異例のスピード出世の女弓使いで荷物持ちが幼馴染の男の子だってー」
「ほほう、これはこれは」
「やばいよねー、いかにもで」
翌日。
ぴこーん!
「あ、やっぱりだ」
「素子君、キャリーはなんと言っとる」
「勇者が新人の娘にべったりで聖女の機嫌が悪いって」
「やっぱりのう」
「もう秒読みじゃん」
更に翌日。
ぴこーん!
「どうなった?」
「うーんと、相変わらず聖女の機嫌最悪でビンとか投げて荒れてるって。それから荷物持ちの幼馴染君も落ち込んでるって」
「いよいよじゃな」
そしてまた翌日。
ぴこーん!
「あちゃあ」
「もしや」
「勇者と新人の娘ヤっちゃったって。朝から修羅場だったって。そこで聖女も知ったみたい」
「勇者だからのう」
「三日で寝取ったかあ」
ぴこーん!
「どうなった?」
「キャリー、『助けてー!』だって。何故かキャリーのアパートで三人で呑む羽目になって、聖女と荷物持ちが大声で泣いてウザいって。うわあ勇者やるう! 新人の娘は処女だったって!」
「仕方ないのう」
「助けるの?」
「酔っぱらいなど相手にしておれん。朝になってから行くとしよう。キャリー君にそう言っておいてくれ」
「『明日いく、おやすみ』っと」
ぴこーん!
「なになに、『すぐ助けてよー!』だって。『がんばれ♥️』っと」
ーーーーーーーーーー
「起きろ、いつまで寝てるんじゃ!」
怒鳴る博士。
もぞもぞ起き出す3人。
3人とはキャリーと聖女と荷物持ち君。
キャリーはともかく、残りの二人はまだ酒臭くてゾンビのような動き。おはようの挨拶どころではない、吐きそうだ。
そして素子ちゃんが部屋に入って来て荷物持ち君をまじまじ見る。
「へーこれが噂の寝取られ君かあ」
その男の子はまだ10代で普通顔だが若いから年上から見たら可愛らしい。だが、同世代から見たら超普通。
特徴のない体つきでなんか凄い特技とか武器とかは持ってない。
いかにも寝取られ役って感じ。
「誰ですかこれ」
「これなんて言わない方が良いわよ。逆らっちゃいけない人No.1なんだから」
「聖女様、じゃあこの人が昨日言ってた博士?」
「そう、敵に回したら死ぬわよ、マジで」
「なんじゃ、自己紹介は要らんようじゃの」
飲み疲れで聖女は声がひくい。テンションも低い。
ついでに営業スマイルもない。
「今日は君に話があって来たのじゃ。名前を何という?」
「バズーです」
「え? パズー?」
「バズーです」
素子ちゃんは何かと勘違いしたらしい。
だが、何か悟ったようだ。
「ひょっとして彼女の名前はジータ?」
「はい、ジータです」
やはりか。
「まあ、いい。バズー君。君をスカウトしたい。キャリー君の村の一員にならんかね? 食い物と寝るとこは保証するし、彼女に会いたくないなら引きこもるには丁度いいぞ。どうせ彼女と顔をあわせられんだろう。行けばまた見せつけられるかも知れんぞ」
「うんうんバズー君、おいでおいで。なんなら村長もあげるから。歳食ってるけど」
「私はまだ若いです!」
「幾つよ?」
「・・・・・・」
謎にしとこう。
どのみちバズー君よりは年寄りだ。
「ところで博士、バズー君誘うなんて優しいっすね」
「素子君、この寝取られ君は『実は』とか『ザマァ』の可能性がある」
「あ、そうか!」
にやにやする博士と素子ちゃん。
残りの3人は何のことやら解らない。
「さあ、バズー君。一度村を見てからでも良いじゃろう」
博士がバズー君の手を引くと、バズー君は自力で立ち上がった。
彼は博士の提案に応えた。今は彼女と顔をあわせるのは辛いだろう。勇者パーティーにも居られない。荷物持ち要員なら他の2軍の人でもできる。元彼女は勇者パーディーに居て、もう勇者の恋人で勝ち組だ。こつこつ積み上げて来た長年の愛など3日間で簡単に打ち破られた。そしてあの夜の彼女の声と姿が忘れられない。思い出すたびに胸が張り裂けそうになる。
そしてあの二人を見ながらすぐ側で暮らせるわけがない。
バズー君は村に行くことにした。永住かどうかはまだ分からないけど、とにかく王都を離れたい。
「私も行きたい・・・・帰りたくない・・・・」
そういえばここにも敗者がいたわ。
身分と仕事でがんじがらめで逃げ場のない奴がいた。
国1番の美貌と、最大限の献身と一途な愛を持っていても選ばれなかった敗北者。あんな垢抜けない田舎娘が一晩中がんがんしてもらえるのに自分は手すら握ってもらえない。嫌がってたはずの弓士は押し倒されたのに、いつでもオッケーな自分は放置。
もう勇者パーティー館に帰りたくないとうなだれる聖女。
「仕方ないのう。聖女君も来たまえ。しばらく親戚の法事に行くとでも手紙を書きたまえ。今から変装じゃ。それから村で見たことは内緒じゃぞ」
「ううう、ありがとうございます」
まさかにっくき博士に助けてもらう日が来るとは。
ーーーーーーーーー
キャリー村。
聖女とバズーは目を丸くした。驚くことが多すぎる!
砂漠を超えてやって来た田舎はなんかの作物が植えられ、家が立ち並んでる。
それはいい、問題は住人。
人間と魔人が仲良く暮らし、オークが伝説のバナナを差し入れに来て、見たことのない猫族が食い物をねだりにくる。
しかも魔人は中身が人間だとか訳がわからない。村には見たことのない道具もある。
「まあ、座りたまえ」
そう言って聖女とバズー君を村の広間に休ませる。
そうしてる間も聖女とバズーはきょろきょろしっぱなし。初めて見るものが多すぎる。
「聖女様、こちらをどうぞ」
キャリーが持って来たのは伝説のバナナと見たことのないお菓子。
それと野菜ジュース。それがバズーや他の人にも出される。
聖女はまず、伝説のバナナをひとつ食べる。美味い。
どうしてこのバナナが?しかも量が半端ない。
聖女すら年に数本しか食べられないものがどっさりある。
「これはオークが貢いでくれるんです。オークは素子さんを女神と崇拝しているんです。ですからよく手に入るんです」
優しい言葉のキャリーの説明。
実際はオークが素子ちゃんにがっつきに来るときのお土産。昨日も来た。
それから謎のお菓子を口に入れて見る。
硬い。でも簡単に砕ける。しょっぱい。
美味いかも。
色違いのものも食べて見る。やや甘い。
これもいい。
「これは?」
聖女がキャリーに向く。
「ええと、なんと申していいやら・・・・これです」
そう言って見せたのはあの悪魔の草。
勇者の体を蝕んだあの悪魔の草!
聖女は思わずお菓子を置いた。
「大丈夫です。害は有りませんから! これはせんべいという米菓子です。実をお菓子にしたものです」
「そうじゃ。悪魔の宿った植物ではない。ヒールを使えばどの植物も同じように生えるのじゃ。これはただの作物の実じゃ」
そう言われて聖女はもう一度せんべいを手に取りまじまじと見た。恐怖心は消えた。
信頼しているキャリーが言うのなら信じよう。
そう、米は出来るようになったものの、ご飯は人気が無かった。
人は主食については生まれながら食い続けているものを好む。
ただ、お菓子はそうではない。新しいものも受け入れられやすい。
そしてせんべいはこの世界の人にも美味しく受け入れられた。
ちなみに納豆は全否定された。
だが、枝豆は人気である。
聖女は食べ終わりぽーっと景色を見ていた。
ただ村人が行き交うのを見て、ただ草が靡くのを見て、たまに猫族が走るのを見る。
平和な村だ。
いままで身分と名誉と公務の毎日。報われない恋の相手を見る毎日。
それがここにはない。
不便かも知れないが平穏な村。
「こんなところに住んでみたい・・・・」
「聞いたかね?」
「ばっちりです、博士!」
悪い顔の二人。
「ささ、こちらへ」
「?」
変な門の前に立たされる聖女。
この門の前に何故立たねばならない?なんの意味が?
「うそ!本気で?ええっ!」
門の反対側には、魔人(仮)の二人に抑えられずるずる運ばれて来たキャリー。
「「「せーのっ!」」」
素子ちゃんと魔人(仮)達のかけ声が響いた!
どっすーん!
門の下でぶつかって転がるキャリーと聖女。
あいたたたと起き上がり、体を触りまくる二人。
そしてこのセリフ。
「「私達、入れ替わってる〜〜!!」」
【登場人物】
ジータ
弓使いで強い魔力持ちな女の子。
田舎から出て来て王国軍に入る筈があまりの有能さで勇者パーティー一軍に大抜擢。容姿はまあまあ程度だが幼馴染の彼氏付きの処女という勇者のドストライクな存在。
幼馴染と永遠の愛を誓っていた割には勇者に3日で食べられる。アノ声はデカい。おかげで夜中なのに職員が皆起きて集まった。
バズー
弓師の幼馴染で専属荷物持ちで今や寝取られ彼氏。
ここまで童貞処女を守ってきただけに寝取られのショック倍増。彼女がアノ声デカいのですぐ分かった。悲惨にも合体を目の当たりにするが、その場は泣くだけの敗北者。
勇者が寝とりをするときにドアの鍵かけしないのは法律で決まってるらしい。
能力は平均値。
【異世界で人気がでたもの】
おせんべい、枝豆、米粉生地のピザ。
【だめなもの】
納豆、味噌、醤油、もち。
【今後の課題】
バナナセーキ、日本酒、焼酎、ビール(要冷蔵庫)、栗ご飯、筍ご飯。麺類。




