ゾンビ:ノヴァス
機巧甲冑が世界中に広がり、世界各地からゾンビが駆逐されていきました。
地下に潜伏し変異を続けていたゾンビウイルスは恐怖を覚えていた。その中でも統率者たるゾンビは考えた。数を揃え人類を駆逐しつつあった状況はすでに過去の事。そこで深い暗闇の中で考えて考えて――なぜ、怯えなければならない? これが、怒りと言うものなのでしょう。憤怒した統率者は駆逐する対象である人類の姿形をしている事に嫌悪感を抱きます。そこで、腕を千切り、腹を引き裂き、足を外します。そして、人の姿を捨てました。
掌は五足歩行を始め目や歯が増え、内臓は毒や酸を吐き出し、足の爪先は鋭くなりました。そして、脳は巨大化し、節足動物のように外骨格に纏われ節くれだった関節が生まれました。
統率者は誓います。今一度人類の駆逐を――造物主の意思の元に、今。
◇
地方都市の露店が数多く並ぶ場所で特製缶詰を販売していた。今まで作成した中でも自信作で様々なフレーバーが取り揃えられているのだが……売れないねぇ。
手慰みに手に持つ懐かしきブロックのパズルをカチャカチャと音を鳴らして遊ぶ。半年以上にもわたる機巧甲冑の頒布作業も終了している。後は、機体の兵器を換装できるノウハウを少しばかり情報として売ってしまえばありがたがって開発研究が過熱した。
今も、目の前を歩いている機巧甲冑は脚部をキャタピラを装備し、方にはミサイルランチャーが装備されていた。コクピットブリックは開かれており気が強そうな美女が機体を操作していた。
「ゾンビは邪魔だったがようやく臨んだ光景が眺められるとはな。美少女×ロボットの再現が今、現実となった」
できればゾンビがいなければ機巧甲冑のバトルを商業化したり、アイドルロボットなんかも出てきたり……ああ、そういえばゾンビウイルスの発生源を探していたら、ね? 俺が死にかけた時心臓部に縮退炉が生成された時に時空振が発生。その、次元の隙間が地球の各地に発生してゾンビウイルスが広まったみたいなんだよね……。
――さすがに言えないわこれ。
ちょっと……いや、もう少し人類に優しくしようと誓ったね。美少女優先だけど。
最近は貨幣の流通が新たに始まっている。まぁ、俺が仕掛けたんだけど。【キューブ】という様々なエネルギー源にもなる四角い小さな貨幣。世界を回るついでに膨大な量を利用できる発電機や車両と共に配り歩いた。いやぁ、死ぬかと思った。現行の経済が死滅しかけてこれじゃあ不味いなって新たな価値基準を作ったわけ。機巧甲冑の余剰エネルギーをキューブ状に変換する装置もセットでパイロットである彼女達に配って回って……。ちょこちょこ、美味しい思いをしたりと……。
もちろん最初は顔をガスマスクで隠して怪しい商人です、と名乗ったのは悪かったと思うよ? だけどAIが造物主だと説明してからはトントン拍子に配布していった。一般の流通路に発電機や専用車両の設計図も流してな。
それを軌道に乗せるだけで一年以上かかるとは思わなかった。おかげで凛子ちゃんも大きくなってしまったよ……ヴァルキュリアス達との間にできた子供もかなりの人数生まれて育児が大変なことに。さすがに、死にそうな顔をした俺に気遣ってくれたのか息抜きに地球へしばらく行っといでと快く送り出してくれた。
まさか、彼女達があんな子煩悩になるとは……みつこすら子供に囲まれて牙が抜かれたように赤ちゃん言葉で話かけてるんだぜ? いや、可愛いけどもびっくりしたよ。
そんなこんなで機巧甲冑の女の子達とたまにイチャコラしたり、開発者である俺を指名手配したりされたり、変な宗教組織に追われたりと忙しく過ごしてきたわけだ。
後五年もすればゾンビはいずれ駆逐されると――いいなぁ……。いかないか……。急に街中で警報が鳴り響いた。これは――ゾンビの襲撃警報。しかも、不味いレベルの、だ。
「あんたぁ! 缶詰売れないからってボサッと座ってないでシェルターに避難しな!! この警報はマズイって知らせてるんだよ!?」
さっき、缶詰を味見してくれて絶賛していたおばちゃんが避難を進めて来る。なかなかマシンガントークが止まらない気のいい人だ。
「了解っと。過去は美少女だったおばちゃんも気をつけてな~!」
「余計な一言だよ甲斐性なしっ!!」
すたこらさっさと走っていくおばちゃん。さて、と――様子を見に行きますか。トンッと跳躍。屋根の上を飛んで進んで行くと防壁の上へと辿り着く。視覚を望遠に切り替えるとゾンビが――ゾンビ?
蠢く異形の存在は人の形を成していない。耳の様なものが空を羽ばたき、大きな手が地を駆け、ミミズの様な腸が触手のようなもので這いずり近寄って来る。その速度は速く人間の足ではとても逃げることはできない。そして、飲み込まれた人間は――解体されブクブクと膨れ上がると奴らの仲間となって人類の敵となった。
「エクシアさん。新型のゾンビが発生、脅威度の上昇を確認――あれ、ヤバくない?」
『同種のゾンビを他国でも確認。恐らく群体としての活動――同時に進化していっています。独自のネットワークで互いに欠点を補い、様々なものを喰らって増殖進化していっています――その中には無機物をも取り込み融合、反機械化している個体も確認できています。脅威度が今もなお増大。このまま放置すればいずれ地球という惑星は丸裸になるでしょう』
それはマズイ。ヴァルキュリアスの出動かもしれん。俺個人だけでは手が足りないかもな。
「どう、思う?」
『介入するべきかと。禍根を断つべきです』
「了解――ヴァルキュリアスの出動を要請。根を丸ごと断つぞ」
すでに機巧甲冑は戦闘行動を始めている。機体に這いずり回り振りほどけないでいる。このままでは内部に侵食し喰い殺されてしまうだろう。ここの機巧甲冑のパイロットとは何度か肌を重ね合わせている美人ちゃんなのだ。
「A.A.S――出るぞ」
愛着が湧いている黒い艶消しボディの我が愛機。そろそろ名前付けてくれないかな~? という機体からの怨念を感じる。搭乗するとそれに答えるように頭部のセンサーのラインが光る。代表的な顔は全面をバイザーで覆い視覚カメラはモノアイ形式を採用させてもらった。ちょっとイカツイい凶悪なツラってカッコ良くない? ヴァルキュリアスの子達にそう言ったら生暖かい眼で見られたけど。
そう考えている内にイデアフィールドを展開、数秒後には機巧甲冑の元に辿り着く。掌を機体に向けると警告した。
『じっとしてろ――衝撃が来るぞッ!』
パゥッ――。拡散させたフィールドが機巧甲冑に纏わり付いていた新種のゾンビ。【ゾンビ:クロウラー】を排除する。
『後退しろ。ダメージは少なくないハズだ』
『――ありがとうっ! って、その声――ジンベエッ!? うっそだろお前、なんだその機体――』
『いから行けッ! お礼はベットで返してくれよ?』
機巧甲冑が地面から起き上がると腕を軽く上げ去っていく。その際に、外部スピーカーで周囲に聞こえるように返事を帰してきた。
『たっぷりとお礼をしてやるから死ぬなよ! ダーリンッ!! こいつは私の旦那だからなっ!? 粉掛けんなよ!?』
それに気付いた機巧甲冑のチームのメンバーが応じる。不味ったな……。
『え、ジンベエ? 他の子にも手を出していたの!?』
『ん? そのでっかい機体――ジンベエくんかい? 僕、今夜ベットの予約してたんだけど……』
命名した呼称。ゾンビ:ノヴァスを殲滅しながら応答している辺り優秀なんだなこの子達。
ゾロゾロと津波のようにやって来る異形共。人間を巻き込まないように殲滅するには……っと。センサー起動――生命反応――無し。拡散型イデアフィールド展開。
機体の掌を前面に掲げる。何重もの円環が交互に回転する光輪が発生する。
『ちょっと、被害が凄まじいけど……おまえら、直ぐに後退しろぉッッ!! ――【拡散型:イデアフィールド】』
すでにゾンビ:ノヴァスの大群はすぐそこに迫っている。
眩い程輝きを放ち回転する光輪が前面に移動する。――音速を超え。光速に迫る勢いで通過した地点には何も残らない。蒸発も、粉砕する事も許されない、存在そのものが削り取られるような攻撃。そして、何もなくなった空間には大気が急激に流れ込み膨大な気流が発生する。
――轟ッ!!
近くにいた機巧甲冑の腕を器用に掴むと後方へ撤退する。扇状に広がった荒野は地平線まで続いていた。無秩序に放たれた拡散型のイデアフィールドは見える範囲では減衰せずに全てを喰い尽くしていった。もちろん、被害を考慮すれば早々に使用できない技だが殲滅戦にはかなり効果的だ。
しばらくして荒れ狂う気流が収まると家屋やビル群などが一切存在せず、綺麗に整地されたような地面だけが存在していた。う~ん。気持ちが良いね。被害を考えなければ。
『ジンベエ……お前、これ、ヤバくね?』
男まさりで快活なけいこが半壊した機体から声を掛けて来る。後退しろって言ったのにまだいたのか。
『ジンベエ……私だけって甘く囁いてくれたのに……』
『うっひゃ~。すごっ! 僕もその機体の兵装欲しいなぁ~。結婚したらくれないかな? 結納品とかで? 僕ももちろんジンベエくんに尽くすからさぁ~』
甘えたがりのなつこに学者肌にかがみが何か言って来ている……。さて、帰るか――
機体を浮上させようとすると両足と背後に機巧甲冑がしがみ付いて来る。こいつら逃がさないつもりか……。
『なぁ、ちょっとナシ付けようぜ?』
『ちょ~っと話がしたいなぁ~?』
『ちょっと婚姻届けを書くだけで僕が付いて来るんだよ? お得じゃない?』
……。機体を降りると地面に展開した次元保管庫に機体を収納した。地面を蹴って跳躍するとなつこの機体の肩に飛び乗った。
「ほら、取り敢えず帰るぞー。警戒解除。片づけを防衛部隊に任せて酒でも飲もう」
そう言って座っている機体の装甲をカンカンと叩く。渋々といった感じで移動を開始するがどう誤魔化すか思考をフル回転させている。――うむ。一時間後の自分がどうにかしてくれるだろう。
その後、何とか誤魔化たがベッドに引きずり込まれ、三人と色々とお話をさせて頂きました。ちょろっと秘密が漏れてしまい甲斐性があるなら……。と、籍を入れさせられそうです……。
まぁ、好印象なのも相性がいいのも俺の体細胞が悪さをしているかもしれません。エクシアさんは違うと言っているようですが……。
◇
世界中で発生した新種のゾンビ:ノヴァス。ヴァルキュリアスも全員出動し高高度から遠距離砲撃をして殲滅。第一波を駆逐した。もちろん、手が足りるわけもなく。秘匿していた攻撃型監視衛星を使用し、低軌道衛星の周回上から高高度爆撃。すぐさま、既存の監視衛星を破壊し、こっそり成り替わっていることがバレました。
今までは破壊した監視衛星の機能をウチの攻撃型監視衛星ちゃんが肩代わりしていてバレなかったんだけど、今回の爆撃で「なんだあれは!? あんな兵器を監視衛星に付けていないぞッ!?」と、気づかれました。
だからなんだという感じですが。世界中の通信情報を全てすっぱ抜いていたので、謎の監視衛星に対する警戒度が上がっちゃいました。まぁ、怪しい監視衛星を利用する以外の道はないし今更、新規の監視衛星をシャトルで打ち上げる余力もないからね。人類は。
駆逐はできたんだけどゾンビ:ノヴァスの発生源は地下なんだよね……。そこまでは探知できていないし潜在的な敵に潜られると弱いな……。大地ごと破壊する訳に行かないし。地下を掘り進めて侵攻されるとマズイ。喰われれば増えるし小型が潜り込んだらまず分からない。いつか、戦略的な動きをしてくるとは思ったがこう来たかぁ……。
ヴァルキュリアスの作戦結果の報告を空間投影モニターで呼んでいると、ベットの上のけいこがもぞもぞと動きだした。
「う……んぅ……なんだ……起きてたのか……お前激し過ぎんだよ。腰がいてえじゃねぇか。――ん? それは……上空からの映像?」
「今回のゾンビ:ノヴァスの侵攻は世界中で起きている。ウチの部隊であるヴァルキュリアスが殲滅作戦を決行。その、報告書だよ。いずれけいこにも紹介すると思うぞ」
この報告書は全ての機巧甲冑にも送っている。考え得る対策法と脅威度。イデアフィールドの制御装置の限定解除も、だ。これで彼女達は空を舞い、ゾンビ:ノヴァスを駆逐してもらうつもりだ。事態が収束すれば再び封印する事になるがな。
「けいこのAIにもイデアフィールド――今日俺が使用した兵装だな。あれ程ではないが飛行できるようになるし攻撃方法も増えているハズだ」
「――マジかよ……。AIが造物主造物主って言ってたけど……マジだったんだな」
「ああ、俺が製作者だからな。機巧甲冑も人類が兵装を開発したりすれば問題ないかと思ったが……事態はそれどころじゃなくなったからな。出し渋りたくはなかったがこちらの脅威になりかねなかったし現に色々な国に狙われているからな、俺らは」
「そっか……すっげー兵器開発して周りから狙われちゃあ、たまったもんじゃねぇよな……。――ありがとな……あの、機巧甲冑のお陰で私は生きていられたんだしな……。へへっ、私の旦那様はすっげー男なんだな」
そういうと胸元に抱き着いてたわわな物を押し付けてきた。すると他の二人の寝たふりをして聞いていたのかにじり寄って来た。
「ねぇねぇねぇ、他の兵装とかってあるの!? 僕の専用機飛んじゃうの? ビーム兵器とかある!?」
「ヴァルキュリアス……小娘には負けないです……」