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拠点生活

 人工照明が設定された時刻に地下空間の世界を優しく照らし出した。


「んっ、んぁ……おはようございます。ジンベエ様……」


 寝起きのキスをしてくる白髪赤目の美しい女性。彼女は死の間際に生きることを願いメモリーキューブに記憶霊子と肉体を回収した人物。体細胞を培養し進化因子やナノマシン技術、結晶筋繊維技術、俺の縮退炉を部分解析し開発したナノマシン生成プラント兼エネルギー生成炉≪賢者の炉≫等、現在用いる技術を注ぎ込んで蘇生を果たした。今は過去の名をすて【フリッグ】と名乗っている。なぜかと聞くと――


「一度死んで生まれ変わったのですから新たな名を名乗りたいのです……それに、神の妻の名を冠するなら【フリッグ】が良いでしょう? ジンベエ様……」と。にっこり微笑みながらそう言った。――少し……いや、かなり彼女は俺を神聖視しているきらいがある。死の間際に強く手を握られた際に“神を感じた”だそうな。もしかして≪万能の鍵≫のせいじゃね? とか思っているが頑なに俺の意見を聞いてくれない。


 彼女は昨晩、俺の寝室に侵入してきて求めてきたので。喜んでッ! と応えてしまった。結構前の事なのだが、新たな身体へ生まれ変わっての初体験の際に俺でいいのか? としつこく確認したが「初めてだからいいのですよ?」と嬉しそうに笑っていた。死の間際の体験が壮絶で傷心していた彼女に手を出すつもりはなかったのだが押しに押しに押されて応えてしまった。――まぁ、好意を向けられることには嬉しいので。しっかりと受け止め応えていくつもりだ。


 フリッグが作ってくれた朝食を食べ終えると拠点という割には随分拡大してしまった地下拠点を歩き始める。


 ここの住人は五十九人。隣を歩いているフリッグを含め俺に着いて来てくれた子達。ゆくゆくは彼女達との間にできた受精卵を解凍し子だくさんな街になる可能性があるが、子育ては様々なタスクが落ち着いてから……。と彼女達と相談して決めている。


 中には子供が育てたいと母性本能全開の子もいたので子育ての環境が整い次第と回答して置いた。その言葉がきっかけで教育方針だの名前付けだの受精卵増やそうだのとママ友連合の間で流行ってしまい一時期大変だった……。ガンガン子作りして都市人口増やしちゃおうぜッ!! というノリで求められても身体は一つしかないのだ。


 母体での自然分娩も可能だが遺伝子強化を行うので人工子宮が開発され、この拠点のさらに深い場所には培養液で満たされたカプセルが数百も存在していた。このままでは俺の血族だけで千人を超える可能性が現実のものなるだろう……。まぁ、嬉しいのだがな。


 教師としての知識を持ったヒューマノイドAI作ろうぜッ! 食料プラントを自動管理するドローン作ろうぜッ! 一緒に遊んでくれる感情を持った友達増やそうぜッ!  やっぱちゃんと諫めて怒ってくれるお母さん欲しいな……。


 とノリノリで教師のような友達のような母親でもあるヒューマノイド達の製作を行ってしまった。AIの製作自体は難しくない。彼女達をそれそれ担当し補佐役を受け持っていたAIの擬人化を希望されメモリーキューブに封入。彼女達とずっと寄り添っていた為、彼女達の望む性格、存在意義を持った個性的なヒューマノイド達が誕生してしまった。それそれの名付けは彼女達が担当しているのだが。この、ヒューマノイド計画のせいといえばいいのか人口が倍以上に増えてしまった。


 しかも、全て交配可能な女性体で産み出してしまった……あとは分かるな? あるときお母さん役のヒューマノイドに言ったそうな。「私、妹か弟が欲しいの……でも妹の方が可愛い服を着せたり一緒に遊べたりするかな……」と。その後そのヒューマノイドが俺の元に来ると。


「グランドマザー(エクシアさん)に聞きました。子供が欲しければ造物主におねだりすればいい……と。可愛い娘の為に子供が欲しい……です」


 AIの人格を用いている為にヒューマノイドと種族名で言ってはいるがフリッグの身体と、機械的思考能力意外ほとんど変わらないのだ。つまり――だ。俺が腹上死しかけるだけだ。人類の軍隊からミサイルの飽和攻撃を受けた以来の危機を感じた。


 倍だ。今までの倍だ。もう、研究も開発も遅れまくってエクシアさんとネメシスさんが彼女達に怒らなかったらどうなっていた事か……。


 その代わり俺の身体は共有財産扱いにされヴァルキュリアス小隊の分隊同士の模擬戦やくじで決めたりと楽しんでいるようだ。まぁ、愛情は感じるしこの事がきっかけにみんなの中を深めたりしているようなので暖かく見守っていくつもりだ。


 ちなみにいつまで嫁さんを「ちゃん」付けするんだ!? と、怒られてしまった。確かに……。それ以降名前で呼ばせてもらっている。少し、その、恥ずかしいというか照れてしまうけどな。今までおっさんだから年上だからという理由で一線を引いていたのかもしれない。きちんと守るべき大事なお嫁さんとしっかり意識して行こう。

 

 拠点のあちこちには彼女達のプライベートスペース。趣味部屋が出来ている。書籍で囲まれた図書館みたい場所だったり、様々な花や植物を育てる植物園みたいな場所だったり、アクセサリーショップや、漫画やアニメの製作所、スポーツ大会を開催できる広場を作ったり……。


 ぶっちゃけみんなで住んでいる住居の十倍以上がプライベートスペースで埋め尽くされている。拠点の拡張を何度も行う羽目になった。


 でも、地球にいる時より笑顔で溢れていた。そんな彼女達を眺めているのは幸せな気持ちになる。


 フリッグが俺の腕を絡めとり引っ付いてきた。


「なに考えておられるのですか? 私はずっと。ずっとそばに居りますよ?」


「いや、な。こうしてみんなの笑顔が見れる事は幸せだとな」


「あなたが守ってきたのですよ? ――もちろん、私も」


 いい笑顔だなぁ。



 月の裏側に拠点を築き半年を過ぎている。地球上の情報は入ってきているが停滞、いや衰退していっている。ゾンビが一時期減少傾向になっていて生存圏は拡大した。だが、散発的に表れるゾンビがすべて強くなっており。手痛い反撃を受ける。事実、入って来る情報を加味すると地下に潜り込んでコロニーのような場所を築いている可能性が高い。社会性を獲得したゾンビの進化を考えるとどうにかしなければこのまま人類は滅亡する。


 そこで生存能力に長けた俺が単独で行動を開始する事となった。もちろん心配してくれているが次元跳躍。四次元である次元保管庫の技術を解析し獲得し現実に完成させることのできた技術。副次的に重力場と重力子を解析する事に成功しこの拠点の人工重力制御装置や反重力制御装置をA.A.Sや様々な分野で技術革新が起きたのは嬉しかったな。


 簡単に言うとだ。行きたい場所の次元座標を特定。ピンを刺した場所と現在の座標を折りたたむだけだ。次元跳躍とは言ったものの量子テレポートといっても変わりないかもしれない。事実、跳躍の瞬間はどちらにも存在しているのだからな。座標の特定が次元観測の技術を使っているので【次元跳躍】と呼ばせてもらっている。


「ジンベエはん。ほんま気を付けたってな? ウチのやや子をはよう育てたいねん」

「ジンベエちゃん……真っ白なお城まだ建ててくれてないんだから早く帰って来てね? 超~二人だけの夫婦生活まだ満喫してないんだからねッ?」

「ふふふ。私はすでにお腹の中に孕ませてもらったから夫の帰りをまっているだけだね~「あんた! また、勝手に着床させてんじゃないわよ!」あ……しまった」

「性格のいい子なら住人増やしてもいいよ~? でもでも、妾だかんね? 分かってる? い~ちばん大事なのはあ・た・し・た・ち!!」

「私も…………行きたい…………ゾンビ殺す」

「……妻は夫の帰りを待つものだと聞いた……涙を呑んで待つしか……ないのか?」

「あ、ジンベエ。回収お願いしていたラノベお願いね? あと、グッズも残っていれば欲しいかな?」

「ふ~ん。今更、地獄のような地球に未練はないです……つまり、勝ち組はこの私ッ!」

「紙媒体の本をお願いします。図書館の位置データ送っていますので……あとで舌を噛み切らせてください……」

「ジンベエちゃんのやりたいことを好きなだけやってきていいんだよ~? 帰ってきたらたっくさんおっぱい吸わせてあげるからねぇ~」

「確保できなかった世界中の植物の種や作物お願いで~す。お礼は手に寄りをかけた美味しいご飯ですよ~」

「人類の軍隊の通常装備かっぱらって来てくれない? 兵器開発のいいアイデアが浮かぶかもしれない。あ、お礼としては五発――飲んであげる」

「ジンベエ様を阻む者など殺してしまえばいいのです。人類も……好きではありません」 


 俺の耳穴は二ヵ所しかないんだぞ。まぁ、分かるけど。あいあい了解。


「すぐに帰ってこれるから心配するな。嬉しいけどな。あのテストしている機巧甲冑を投入しようと思ってな。まぁ、俺達の専用機のダウングレード版だけどな。イデアフィールドも重力制御装置もオプティマスライフルも無いんだし」


 【機巧甲冑】パイロットは女性のみ。搭乗者は身体改造され強化される。起動する為には【賢者の炉】が必要となりAIによる思考調査が行われる。悪性の人間であれば女性だろうと起動させることができない。もちろんマスターコントロールはこちらが握っているし。機巧甲冑の構成要素は黒いキューブ状である【マシンコア】のみ。あとは周囲の物質を吸収し機体の基礎フレームを作り出す。なので損壊しても何度でも再生する事が出来る。初期設定時に女性の体内にナノマシンを注入し賢者の炉を生成するのでそれを動力源に起動する。


 機体の基礎フレームを解析しようとも現在の人類技術ではほぼ不可能だ、と思う。だが、基礎フレームだけでは近接戦闘しかできない為。意図的に分かりやすいよう兵装を追加できるスロットや背部のウェポンラックには様々なソケットが用意されている。まぁ、AIに言えばラックやソケットの増設をできるのでパイロットはぜひAIと仲良くなって欲しい。


 ある意味人間がでかくなって武装しているようなものだ。機巧甲冑と呼んでいるのは巨大化したAIの人形体だからだ。


 すっぴんの機体で戦うのには厳しいと思うので初期装備位はオマケしておこうと思う。機体が強くなるかどうかは兵装の開発か賢者の炉のスペックを上げるか、だ。敵をぶっ殺して霊子を強奪すればきっと強くなるから、多分。RPGの経験値を意識してあおばと一緒にノリノリで開発したのだが意外と馬鹿にできないシステムだったな。なので最初の身体改造でゾンビウイルスから抽出した進化因子をパイロットに注入するのだ。なのでぶっ殺せばぶっ殺すほど生身でも英雄級の力をてにいれられると思う。


 俺達は回収した霊子を加工して彼女達の賢者の炉をガンガン強化していっているので殺す必要はないな。まぁ、開発者特権と思ってくれ。絶対に、絶対に彼女達に死んでほしくないからな。目指せ生身での大気圏突破。


 強化した関係なのか知らないが彼女達の髪の毛が皆白く変色しつつあるんだよな。目も赤くなってきているし。気にしていないと言われたが結構へこんでいる。いや、綺麗なのだがな。様々な要因があり過ぎて調査に難航している。フリッグは「仲間ができてうれしいですね」と喜んでいるが。


 俺の専用機に搭乗する為にドックに来た。A.A.Sも改造に改造を重ねて原型を留めていない気がする……。イオンスラスターも排除しているし。一段階だけ封印解除した俺の縮退炉が優秀過ぎてジェネレーターもあまり必要ないのだ。緊急用にサブジェネレーターとして核融合炉は搭載したままだがあくまで補助だ。


 重力子を圧縮して撃ちだすグラビティキャノン。圧縮された弾丸が解放されると周囲の重力を圧縮して削り取ってしまう。コレを開発している時はクソったれの軍事上層部がいる基地にぶち込むことを思い浮かべながら殺傷能力を追求したものだ。もちろん、オプティマスライフル、キャノンともに射程距離の延長やレールガン、キャノンの命中率の向上を図っている。防御性能はイデアフィールドで生成したバリアフィールドが優秀過ぎて助かっている。


 月で採掘した時に得られた希少鉱石でアダマス合金よりも性能の高い合金が製造され装甲を増強させている。基本的にイデアフィールド推進を利用しているが重力制御装置の補助により空中での高機動能力も獲得している。これでミサイルが飛んできても直角に避ける事が出来たり変態機動を行っても問題ない。


 全長十メートル。艶消しブラックのカラーリングは変わりないシンプルな機体。腰元が細いのは人間的機動を取りたい俺のこだわりだ。シートに座ると全身の感覚が機体と同期すると巨大化した感覚が伝わって来る。


 拠点内に通信を繋ぐと出発の挨拶を行う。


「では、行ってきます。お土産まってろよ」


 元気のいい返事が返って来る。ステルス化、ジャミング装置起動、次元座標特定。―――イデアフィールド展開。次元跳躍開始。

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