バチバチですね
機体をドックから発進させ拠点の防壁を飛び越える。跳躍するとともにイオンスラスラ―を吹かすと空中に滞空状態で進んで行く。現在、自衛隊の防衛拠点は発電施設のある山の中ではなく勢いそのまま自衛隊駐屯地の再制圧に成功し防御を固めているようだ。
推進剤には余裕を持ってはいるがこまめに着地をして省エネ行動を取っている。機体重量が重く計算よりも推進剤とイオンスラスターに負担を掛けているようだ。勢いそのままに機体を製作してしまったためテストが不十分なのだ。
数十分程で目的地である駐屯地が見えてきた。地対空装備も少ないながら配備されているようだな、恐らく所属不明の兵器による襲撃が通達されているのだろう。残念ながら潰させてもらうぞ。
全天周型モニターのレティクルは空に向けてミサイル発射口を掲げている車両をロックオンした。すでにこちらに向け砲塔を回転させていたが……迎撃するか躊躇したようだが遅かったな。
オプティクスライフルから発射されたビームが地対空ミサイルを積載した重車両をを貫き誘爆した。他にも戦車が蛇行しながらこちらを狙って来ているので順次に破壊していく。
残念ながらM.A.Sはこちらの襲撃に参加しているようだな銃口をコクピットに向けると……ああ、彼女か。豪快な女傑である葉隠みつこが真剣な顔をしながらこちらへ向かって来ている。ビーム出力を最小にしてM.A.Sの脚部を破壊し機能停止に追い込んだ。回転しながら地面を転がってはいるが……まぁ、死にはしないだろう。
外部スピーカーをオンにして降伏勧告を行う。
『幹部級以上の人間は武装解除を行いここに集めろ。――おい、まだ抵抗する気か?』
建物の屋上から地対空誘導弾を構えながら狙って来ている。すぐさまビームを撃ち込むと上半身が蒸発するかのように消滅した。他にも十数名ほどの自衛官が狙って来ている。
『警告はした。――一、二、三、四、五、六…………ようやく理解したか』
死を宣告するようにオプティクスライフルとレールガンで撃ち抜いていく。ミサイルポッドで武装している集団を爆破したところで拡声器で降伏を受け入れる旨を叫んできた。
駐屯地内の建物は火災が発生し救助を行っているが間に合っていない。
『一時間後にまた来る。その間にさっさと救助でも迎撃体制でも整えておくのだな。まぁ、一人でも武装を解除していないことが分かればお前らを殲滅する』
そう言う事かよ。ご丁寧に地対空ミサイルを積載した車両まで用意して迎撃する気満々じゃねえか。近場の高層ビルの屋上に駐機させると無線の傍受を行いどこの馬鹿が命令したか解析を行う。
『――ザッ――一体どういうことだッ!! テロリスト共の新兵器を奪取できなかっただとッ! この無能めッ!!』
『――――ザッ――まぁまぁ、武田総理大臣。こちらには米軍機と協力して鹵獲する準備が整っています。一駐屯地の兵力では不可能だと報告にも上がっていたでしょう?』
『――山際官房長官。現在、テロリストは降伏勧告を行った後、再度自衛隊駐屯地に訪れると犯行声明を上げてきています』
『――ザッ――洋上に待機している米軍空母の戦闘機にスクランブルが掛かっています』
『――――よし、よし、よし。テロリストの新兵器を破壊して米国に提供すれば避難民の受け入れと武器弾薬の提供を受けれるとの契約だ。もう、東京はおしまいだ。米国へ引き上げれば再起を図れる……』
クソ共が。すぐさま推進剤とミサイルランチャーの弾薬の補給を行う。機体重量のイオンスラスターの調整はすでに行っている。ここから自衛隊の防衛拠点、米軍空母への射程は……レールガンなら有効射程距離内だな。
上空へゆっくりと上昇していく。すべに米軍空母の索敵レーダーの捕捉はされているだろう。モニターに一部が望遠機能に切り替わるとレティクル内に相獏湾に浮かぶ空母の艦橋が映り込んだ。
「撃て――ッチ。誤差修正。補正プログラムを更新しろッ! ――――命中。――命中。――命中。――クソが。戦闘機が出やがったか」
米国空母の艦橋と戦闘機の半分を処理し終えた頃に戦闘機が緊急発進。巡洋艦と駆逐艦からミサイルが発射される。数発程度なら機体装甲が耐えることが出来るがさすがにああ、まで乱れ打ちされるとキツイ。空母の艦橋ぶち抜かれてキレやがったな。東京都の心配なんて微塵もしてねえな。
「――ミサイル迎撃ッ! ……――次は無理だな……クソッ!! 撤退だ」
上空に向けイオンスラスター全力で吹かした。地面に向けて高速落下するとともに次元保管庫内へ撤退。墜落したと見せかけてやり過ごすしかない。
次元保管庫を研究開発施設や隠れ潜むことに使用できる。しかし、次元潜行などの技術は存在するが研究開発はできていない。――本当に機巧の神は楽をさせてくれないな。まぁ、エクシアさんが協力して次元保管庫を使用できるだけありがたく思わなければな。
「はぁ……地対空ミサイル程度ならとタカを括っていてこれだよ。ミサイル舐めていたわ。俺が異文明の知識や技術を手に入れても扱いきれていなきゃ意味ないもんな……人類の現行の技術や兵器でも俺には脅威だったな」
なぜ人類の生存を望みながら人類と戦っているんだ? まるで意味がわからん。ミサイルをやり過ごしたので機体を収納したまま移動を開始する。機体を撃墜したと仮定して残骸の回収部隊がやってくるかもしれないからな。
現在の情報を拠点の彼女達に簡潔にまとめてモバイルターミナルに送信する。彼女達に配布したモバイルターミナルの機能はインターネット閲覧はもちろん、現行発売しているゲームソフトをローカライズして入れてある。そして通話機能や簡易的なM.A.Sの遠隔操作プログラムも入っている優れモノだ。
『どういうことだっ!? 何があった!!』
「反応が早いな。俺の未知の技術に興味深々な日米の上層部に目を付けられた。撃墜もしくは鹵獲命令が自衛隊内部に発令されていた。救助の助けになればとM.A.Sを提供した途端にこれだよ。目の前の避難民の救助よりも大事らしいぞ?」
慌てているかすみちゃんにわかりやすく状況の説明を行う。緊急事態の為通信を繋げてきた彼女達は黙って情報を噛み砕いて行っている。
傍受した上層部の無線の会話内容を一斉送信する。UIに表示されている彼女達の表情はドンドン憤怒の表情へと変わっていく。それとともに避難所で顔を合わせた事のある自衛官との戦闘映像には悲しそうな顔をしていた。
「やつらは俺の拠点を知っている。君達の顔もだ。人質を取られたりはしない……とも言い切れないのが現状だ。東京都民の命なんて気にしてもいない。――まぁ、顔見知りの自衛官達は違うかもしれないがな」
人質のワードが出た時に彼女達の表情が青ざめた。ミサイルを都内に何十発も撃ち込んでいる米国海軍のミサイル攻撃を見ているからだ。
「俺の軽挙な反撃行動がこの事態に繋がったことに申し訳なく思っている。本当にすまない……。他県に避難するというならできる限りのサポートをする。――それと、俺は衛星軌道上に避難しいずれ月に拠点を持とうと思っている」
宇宙へ行くための宇宙艦の構造はそこまで複雑ではない。無重力下での生存可能な食料や酸素の供給に問題は無い。航宙艦の製造を次元保管庫内で行いつつ生活物資の資源回収を行わなければいけない。
「間もなく拠点に帰還するが……とにかく移動の準備だけ頼む。責任を持って数年分の生活に困らない物資と拠点の作成を約束する――以上だ」
現在拠点で活動している子達は総勢で五十八名。避難場所に家族が居たり自衛隊と共に他の避難場所へ家族を探しに行った子もいる。家族の生存が絶望的で心の拠り所として生活している者もいた。実は簡易的な診断プログラムを行ったところほぼ全員がPTSDに掛かっている。
M.A.Sを欲しがったり戦闘行動すら行おうとしているのは過度な承認欲求や、強固な集団としての共依存で自己保存を図っているようだ。まぁ、愛を囁いてくれる子もかなりいるのだが父性を求めているのか愛を求めているのか判断が難しい所だ。
そういう事情があっるので拠点にいる子達と軽いキスやハグを頻繁に行っているが最後まで踏み込めずにいた。責任を取れと言うならいくらでも取れるがキチンと彼女達に様々な選択肢を持ったうえで決断して欲しいと思う。
◇
拠点の会議場に入ると全員が集合していた。私物は家の前に纏めて荷物を置いているらしく後で回収する。
「急がせてすまない。大まかなものを俺が回収して拠点は破棄する。それと――これを利用して移動するから少し試運転を頼む」
車輪の無い中型のスクーターのような移動用の飛行する乗り物だ。フロントから伸びる強化プラスチック製のカウルを後部まで覆い座席はタンデムシートとなっている。こういう移動用の乗り物にこそ次世代型高性能バッテリーが生きて来る。推進器はイオンスラスターで操作性はバイクとあまり変わらない。高度や障害物はオートで検知、予測回避してくれるのですぐに乗り慣れるだろう。
タンデム――二人乗りなのははぐれないように纏まって行動する事と操縦の交代要員として考えている。取り敢えず人数分のフライトバイクを出していく。スクーターの内部にエンジンをイオンスラスターとバッテリーを搭載するだけなのでポンポン作っていく。一度設計図さえ描いてしまえばこのサイズなら生成することにそれほど苦労しない。
「すっごっ!! なにこれ! 空飛ぶやんけ!!」
「はわわわわ~、どいてどいてですぅ~!」
「ちょ~凄いんですけどッ! ジンベエちゃんさいきょーっしょっ!」
「…………楽しい」
「こんなものまで開発するとか俺TUEEE展開ですね! ですね!」
「私、こういうのを運転するの苦手なの……」
「ふわぁ……しゅんごい」
「ひゃっはぁああぁぁぁぁあああぁぁっ!!」
「ずっとついて行きますぜ、ジンベエの親分!!」
…………意外と元気だな。この子達。操縦の訓練の間に拠点の物資や荷物を全て回収していく。外壁はそのままで建物や施設は全て分解していく。一度作成して設計図も持っている為移動先で再び建築や製作する事が可能だ。
このドックも長い事……いや、それほど時間は立ってないし愛着が湧いてるわけじゃないな。M.A.Sも現状、戦力的に性能不足だし一度解体してから新造しなければな。
回収や分解が終わると彼女達に声を掛ける。
「――移動開始するぞ? フライトバイクにあるモニターには目的地へのナビをしてくれるはずだ。はぐれないように着いて来てくれ。一応、友軍がマップ上に表示されるから問題ないと思うがな」
俺もフライトバイクに搭乗すると始動させ浮遊する。ハンドルを捻ると前方へゆっくりと加速していく。――ちゃんと着いて来ているようだな。
数十台の空飛ぶバイクは壮観だが危なっかしい運転をしている子もいるな。崖から落下しても問題は無いが推進剤をかなり消費してしまうからな。なるべく崖の少ない道を選び木々を潜り抜け県境へ向かう。
元々の拠点一が発電所近くの山奥だったので自然と山道を移動する事になる。広域レーダーに捉えられないように上空への飛行ができない為こうして低空飛行での移動を行っている。
自衛隊全てが協力的ならこういう特異技術の共有も考えないでもなかったんだがな……決定的に決裂してしまった今、考えてもしょうがない。
山の谷間を一気に浮遊しながら飛び越えて行く。ふわりとした浮遊感、眼下に広がる木々は美しいな。後方に追従する彼女達もきゃっきゃ楽しそうに笑っているようだ。
通信装置で各員に繋げる。
『騒ぐのは良いけどはぐれないようにな。このフライトバイクは後で全員にプレゼントするからたまの散歩ならしていいからな?』
『『『『はぁ~い』』』』
なら良し。
◇
一時間程進むとすぐ近くに滝が流れるそこそこの高度の山の谷間に着陸する。眼下には湖が一望できるし傾斜のある滝の近くの山肌を削ればお洒落な住宅ができるだろう。今はまだ肌寒いがキャンプ地としては最高のシチュエーションではないだろうか。
川沿いにフライトバイクが沢山駐機しているが休憩する為の道具を次々に出していく。テーブルに椅子にお菓子と飲み物に……なんか執事にでもなった気分だな。
現在の時刻は昼過ぎなのだが急がなければ日が落ちてしまう。前に建てた大人数が入れる集会所を建築して明日にでもインフラを敷設するか。
『『『ありがとう~がんばってね旦那様』』』
ケラケラ笑いながら全員で声を合わせてお礼を言って来る。こいつら面白がっているな。ここまで色々な経験をすればそりゃ団結力も高くなるよな。こいつらにずっと尻に敷かれそうな予感がするのだが……。
ふう……。まずは滝横の岩肌を掘削していくか……。