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今日も色々アリマシテ  作者: 葉桜 ヤク
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出会いは店で

中学三年生の寒い冬。制服のブレザーを着て家に帰ろうと歩いていた。あー寒い。早く帰ってあったまりたい、そう思いながらせっせと歩いているといきなり肩を叩かれた。ハンカチでも落としたのかと振り向くと暗い夕方でもよくわかる、全身真っ黒いマントを被った人型の何かが立っていた。


「きぃにいった!」


ソイツは子供みたいな声で言って不気味に笑った。逃げる間もなく、スッと僕の体に入った。そこからの記憶は全くない。でも、目が覚めると次の日の朝で自分の部屋のベッドの上だった。本当にあそこから起きるまでの記憶は全くなかった。

アイツが入ってから僕の生活はおかしくなり、普通見えてはいけないような、幽霊?多分、そういう人じゃないものが見えるようになった。例えば、真っ黒い大きかったり小さかったりする粘土の固まりみたいのだったり、エルフに吸血鬼、見た目だけ可愛い白い毛玉みたいのがいろいろ見えるようになった。それがただ見えるようになっただけならいい。けど、中には目が合うと襲ってくるやつが…。今は目が合ってもそちらを見ただけとしてスルーしている。




真っ黒い何かが僕の体に入って見えないものが見えるようになってから一年がたち、高校一年生の冬になった。いつもと違う久しぶりに通る道から家に帰ろうとしていると新しい店を見つけた。元はただの空き地で久しぶりに通る道ということもあって新しくできた店かと思い入ってみる。どんな店だろうとドアを開けるとカランカランと鈴が鳴った。店内は陳列されたカラクリやアクセサリー、古い本その他いろいろとあるアンティーク調のお店だった。誰もいないけど…と思っていると音に気づいた店主であろう人が店の奥から出てきた。出てきた人は見る限り男性で身なりのいい服装に紺色の布をヴェールとして被っていたのだ。その顔の見えないヴェールを被った姿に驚いて思わず固まる。

え、これは何を言い出せばいいのだろう。そのヴェールってなんですかっていう質問?気になるが初対面にしかも会ってほぼ三秒の人に容姿からツッコまれるのってコイツやばいやつ認定もらうやつだ…。


「珍しいですねぇ。人間のお客さんが来るなんて。大丈夫ですよ~そんな固まらなくても。」


なにか言おうとしたら先に言われてしまったが、どうやらこの店主は話せるらしい。良かった!まだ話す余地がある。そう思っているとこっちに近づいてきた。困惑し、後ろに下がって行く。そしてとうとう壁に背中がついて下がれなくなってしまう。僕とそのヴェールを被った謎の人との距離は一メートルぐらいと、逃げようと思えばドアから逃げれる距離。

僕は右手に持っていた学生かばんの持ち手をギュッと握る。


「ここの店ってなんですか?しかも人間の客が珍しいとか、それに貴方の恰好…なんか怪しさ満載です。」


さっきから思っていたことがスラスラ口から出てきた。そしたらその人はたぶん口がある部分に手をやって笑った。


「フッフッ。結構ストレートに言ってきますねぇ。しかも看板見ないで店に入ってくるとか。もう笑っちゃいました。この店はなんでも屋で、何かを誰かから買ったりそれを売ったり、頼まれた雑用をしています。ちなみに人間が珍しいって言ったのは限られた人間にしかこの店に入れないからです。」


店の謎はそれなりに解けたが限られた人間?さっき入ってきたときは特になんにもなかったし、警備員みたいな人も居なかった。


「どういうことですか?」


「それは貴方みたいに私たちファントムが見える人間だけが入れる店です。貴方は入られて見えるようになったようですが。まあ、どっちにしても見える人間は色々と危ないので学校が終わった放課後と休みの日、私の下で働いてください。」


「え?」


「ちゃんとバイト代は出るのでそこは安心してください。」


下で働いてください…思っていない言葉に開いた口が塞がらない。でも、ファントムと言うらしいアイツらから多分、守ってくれてバイト代は出て条件はいい。

目線をその人にやる。やっぱり見た目は怪しいが、話してみる限り人柄は良さそう。


「ファントムとかそういう世界の知識はないです。それでも良ければここで働かせてください。」


「ええ、勿論。これからお願いしますね」


「お願いします!」


胸に手を添えて後ろの方の腰らへんに手をやって紳士みたいなお辞儀をされ、自分もサッとお辞儀をする。さっきから気になっているヴェールが重力で前に垂れ下がるがやはりこの人の顔部分はサッパリわからない。


「そうだ白石佐久守(しらいしさくま)クン、これから私の事はオーナーと呼んでください」


「えっ。」


自分の名前を言われて困惑する。慌てて何か名前が書いてあるものがないか持っている物をポケットから鞄の中まで見ると、学生かばんの裏側に名前が書いてあった。それにやっと気づいた持ち主の僕の事をその人はクスクス笑いながら見ていた。きっと、ポカンとした顔になっているからだろう。でも、やっぱりこの人オーナーだったんだ。じゃないと人を雇えないし、そりゃーそうか。

どこからか音楽が流れた。毎日聞いている、五時のチャイム。振り返って窓の先を見る。今は冬ということもあって外は既に薄暗い。その上、風が強く吹いていて捨てられたお菓子の紙袋や丸っこい毛玉みたいのが転がされている。


「寒そうですねぇ。家の前まで送ってあげますよ。あ!そうだちょうどいい。()()どうなるか使わせてみたいんですよねぇ。」


「別に家近いんで大丈夫です。って、ちょっと!オーナー!!」


オーナーが横にあるごちゃごちゃ物が置いてある大きな丸い机から何かを取った。それをカチカチと回し、僕の左手に無理やり持たせる。それが手の中で強く光る。目を閉じて光がなくなり、目を開けると家の玄関ドアの前に立っていた。

本当に家まで送ってくれた。しかも、なんかよく分からない瞬間移動できるカラクリで。家の中に入りながらその、よく分からない無理やり手に持たせられたカラクリを見てみる。回るだろう周りの部分にはアルファベットが書かれており、真ん中のところはデジタル時計みたいな画面になっている。多分、周りのアルファベットを動かしたらそこに打った文字が出て、さっきみたいな感じで瞬間移動するカラクリ…だと思う。市販で売っているような物ではなさそうだし、きっと調べても出てこないだろう。明日、バイトだし聞いてみよう。


「オカエリナサイ!」


「ただいま」


カラクリ人形のチャーリーが何とも言えないロボットボイスでお帰りと出迎えてくれ、僕はローファーを玄関で脱いで自分の部屋へと階段を上がる。


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