戦闘
よろしくお願いします。
ノクリアが女性を牽制している間に、私の元へと向かっていたフィリィが到着する。
彼女の息は切れていて、余程無理をした事が見て分かる。
「大丈夫ですか?リア様」
「う、うん。一応‥‥」
この様子を見ていたノクリアは安心したのか、攻撃の質を一層上げる。先程までが嘘のように速く、鋭い。
私たちの様子を気にかけていた彼女の瞳は、もう何処にも無かった。今そこに映るのは、眼前の敵だけだった。
「さすが剣術王。さっきまでの腑抜けた攻撃は前座だった訳ね‥‥ならいいわ」
何が良いのかはさっぱり分からないが、言い方的に何かしらの隠し球を持っているに違いない。
女性は持っていたナイフを地面に叩きつけ、身につけていたローブを脱ぎ捨てた。
凶器よりも凶器している胸部が顕になり、ちょっとだけ目を惹かれた。だが、隣にいる婚約者が心なしか呆然としているのですぐにやめた。
「‥‥空気がお変わりになられましたね」
変化を察したノクリアが仕掛ける。
「私たち教徒は本気を隠すものよ。最初から本気でやり合う気は無いわ」
ナイフを捨てた女性は完全に素手での攻防にシフトチェンジし、ノクリアの剣を容易く凌ぐ。
凌ぐと言っても素手なのでダメージはあるはず、と見てみたが傷一つ入っていない。
「貴方、何をされたのですか?私の予想ですけれど、貴方の本気というのは硬質化‥‥でしょうか?」
「御名答ですわ」
間髪入れず女性は返す。
硬質化されている女性の体は、どこを見ても普通の体と変わらず見分けがつかない。そこに気づけたノクリアの実力は、素人目から見ても分かるものだろう。
だが、少し不味いかもしれない。
ノクリアの体力的な問題は大丈夫だとしても、彼女の剣が女性の硬質化に耐え切れていない。
刃こぼれも尋常ではなく、いつ折れても仕方が無かった。
ナイフ有りの女性の戦闘スタイルは多少の優雅さを残していたものの、素手の今は獣のように荒い戦闘をする。
一々防いでいたら、あと十発もすればノクリアの剣は確かに折れる。
「これは不味いですね‥‥いくら、ノクリア様と言えどもあれは‥」
フィリィは戦況を見て、言葉を溢す。
「大丈夫‥かな?」
私の意図せずに出た不安を含む声音を受けて、フィリィは私をギュッと抱きしめる。
「大丈夫とは、言い切れません。ですが、ノクリア様が時間を稼いで下さっている今なら、逃げる事は可能かと‥‥」
逃げるのは可能と言えば可能だと思う。でも、それは意外と危険な手でもある。
女性が本気で私を殺しにくるのであれば、身元もある程度は調べられているだろう。そうすれば、どんな人が助けにくるとかも分かる。
つまりは、何らかの手を用意しているはずだ。ここから脱出不可となりそうな何かを。
「結界‥‥とかは?」
結界があるのかは分からないが、異世界ものならテンプレート並みに存在しているそれを言ってみる。
「結界、ですか‥‥」
この反応なら有りそう。
「‥‥探す?」
「いえ、ここからでも確認は取れます」
フィリィは庭にあった石ころ一つ取り出し、多少の躊躇いを振り切って屋敷の方へ全力投球する。
投げられた小石は、勢いを止めぬまま屋敷へ激突‥‥せず何か壁に反発したかのように、何も無いところで跳ね返った。
「‥‥有りましたか」
「結界‥‥?」
「はい。範囲は多分ですが、この庭かと‥‥」
なら、元々入ったモノを逃す気など様々なく、全員を皆殺しにするつもりだったという事になる。
異世界は何処までも大胆だ。
「ノクリア‥‥」
さて、ノクリアに目を移す。
まだ剣は折れていないが、先程よりも刃こぼれが酷い。推定であと三発で折れる。
重要なのはここからで、折れた後に女性がどんな対応をしてくるのかに掛かっている。
「剣術王。貴方は強いお方ですが、得物もお気になされましたら?」
「そんな事は、分かっています」
一発目、ノクリアは女性の右ストレートを弾く。
「さあ、さあ、さぁ!!!!時間は迫っていますわよ!!」
「────ッ!!」
二発目、女性の足蹴りを凌ぐ。
「さあ、ラストスパートですわ!」
三発目、いや迫り来る打撃のラッシュ。
あと一撃で破壊される可能性すらあった剣は、女性の猛攻を受け、刀身が木っ端微塵に砕け散る。
「剣術王、その得物で────」
「────貴方と殴り合うことは出来ます」
ノクリアは女性の言葉を遮ると、柄だけとなった剣を捨て、肉弾戦の体勢に入る。
それを見るなり、女性は笑みを溢す。
「いいえ、違いますわ」
「何‥‥?」
「もう一度言いますわ。貴方、その得物で彼女たちをどうお護りになられますの?」
「‥‥まさか!?」
ノクリアは勘付き、此方に全速力で駆け寄る。だが、彼女が到達するよりも先に、女性は指示を下す。
「殺しなさい」
女性の声がした刹那、私たちを黒い影が包み込む。
正体は、仮説であるが女性の刺客。
得物の太刀並みの長さの剣を、私目掛けて振り翳す。
「リア様‥‥!!」
「‥‥え?」
完全に油断した。
この間合いなら確実に私は殺されたと、全ての力を抜いた瞬間、フィリィが身代わりとなって私を護っていた。
何故、忘れていた?あんなにも危惧していた最悪の結末を‥‥
「フィリィ──────ッ!!!!」
次回も早く!!!
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初作品ですので、至らぬ点が多いです。
そんな作品を読んでいただきありがとうございます。