乱入者
よろしくお願いします。
「どちら様ですか?貴方は」
フィリィは幼い私を覆い隠すようにして前に立ち、黒髪の女性に立ちはだかった。
彼女の足は震えていて、今にも崩れてしまいそうなほど脆かった。まるでガラス細工のように。
「貴方に用はないのよ。私が用のあるのは、その子なの」
女性は私へ指を差す。
「何故、リア様を‥‥?」
うん。私もびっくり。
だって私は、この女性と話した事もないし見た事もない。死を所望される程大それた事をやってのけた記憶もない。我まだ二歳ぞ?
「その子は、数年に一度生まれる神の遣い‥‥と言えば分かりやすいかしら?」
「リア様が!?」
ちょっと待って。何で私が。
確かに転生した元百合豚ですけども。それはそれは自負出来る程にはキモいオタクでしたけども。
心に一切の偽りなく言おう、断じて神には会ってない。ってか、こんな事になるなら面くらい寄越せ神。
いやいや、そんな一人語りをしている暇はない。
今は目の前の要注意人物に全神経を向ける事に専念をするんだ。
「その子は、私たちが崇めるお方の前では厄介な存在になってしまう。だから、幼少期の頃に潰してしまいたいのよ」
この流れ、アニメや漫画で見たぞ。
次に来るのは「だから、分かるわよね!?」と叫びながらの、此方に武器を向けての突撃だ。
見切れ、奴の武器を。攻撃を。
駄目だ。全部隠されて全く予測が出来ない。前世なら呼吸をするかの如く、簡単に出来たのに。
「だから、分かるわよね!?」
女性は力強く地面を踏み込み、得物のナイフを突き出して攻撃を開始する。
台詞だけを見切ってどうする!?
私が混乱する間にも、女性は着実に私へと距離を詰めている。
だがこの場合、一番最悪なケースは私と共にフィリィも殺されるという点。これだけは避けなければならない。
なら、走り回らなければ。でも────
────足が、動かない!?
最悪だ。
戦闘において、一番と言えるほど最悪なものが露出してしまった。
それは、この体での実戦経験の少なさ。
当たり前ではあるが、転生してからの実戦経験はゼロだ。そんな少女が訓練も碌にせず、実戦をすればまず最初に恐怖で足がやられる。
しくじった。これでは、本当にお荷物極まりない。
「逃げてくださいっ!リア様!!」
フィリィ、そうしたいのは俺も同じだ。だが、体が恐怖を覚えてない!!
「やっぱり、恐怖で縛り付けられている子供を殺すって最高ねぇ!?逃げられずに涙を流して死ぬのを見るのは、本当に唆るわぁ」
ヤバい、本当にこの人ヤバい。
見た目からして危険人物を極めているのに、言動までもが危険人物極めている。
「リア様はまだ実戦を成されてない‥‥迂闊だった!」
動けない私を見兼ねて、フィリィは駆け寄ってくる。
駄目だ、フィリィ。こっちに来たら、君まで不幸になってしまう。
私は一度死んだんだ、不幸でいるのは私だけで充分だよ。そう言いたいのに‥‥何で必死に私を護ろうとするの‥‥?
「まずは両足を切り落としてジワジワと、うーん‥‥いいえ、いっそのこと頭部をズバッと‥‥ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」
嗚呼、駄目だ。
距離的に私は死ぬ。避けては通れない。
フィリィが助けに来ようとしているが、間合い的にも、彼女が私の元に到達する前に私は殺される。
そうだよ、不幸なのは私だけで十分だ。
「これで終わりよ────ッ!!」
さらば、異世界。
私は目を瞑った。
同時刻、庭に響く剣の当たる音。
少々金属がぶつかり合う音が混じってはいたが、どこか違う場所の音なのだろう。
視界が黒よりも深い漆黒に包まれ、私の命の終わりを告げ‥‥告げ‥‥てない?
私が恐る恐る目を開けると、そこには昨日質問攻めをした人たちの中にいた、派手な服装の人が剣を構えていた。
「大丈夫?リア」
卓越した剣技は、女性のナイフを軽々しく跳ね返して見せ、私の身の安全を守ってくれた。
「は、はい‥‥」
言葉が出ないのは、恐怖からだろうか?それともコミュ障から?いや、違う。
この人の剣技に、魅力されたからだ。
「貴方、まさか‥‥!?」
跳ね返され体勢が崩れた女性は、私を守ってくれた存在に対し、声音を変える。
彼女を前にし、私を守ってくれた方の女性は凛とした態度で言い放つ。
「王宮護衛隊執行官No.2、剣術王──ノクリア・イルフ。邪教徒、貴方に裁きをお届けに参りました」
あ、この人マジで凄い人だ。
私の全身が震えた。
次回も早く!!!
良ければ、感想や評価、ブックマークもよろしくお願いします。
初作品ですので、至らぬ点が多いです。
そんな作品を読んでいただきありがとうございます。